AKB48グループの衣装制作やヘアメイクを手掛けるオサレカンパニーが、東京ガールズコレクション(TGC)との共同企画として、ファッションデザイナーを発掘・育成する新プロジェクト「ドリーム ランウェイ トウキョウ」を実施した。500組を超える応募者の中から、書類選考、面接試験を経て選ばれた作品が、9月27日に開催されたTGCのステージで披露されたものだ。
「デザイン力・発想力」「技術力」「エンターテインメント力」「トレンド力」「将来性」などの審査基準に基づいて選ばれたのは、大村美容ファッション専門学校1年生の古川詩保さん(18歳)、アパレルブランドを経て、スタイリストのアシスタントを務める池田名穂さん(29歳)、バンタンデザイン研究所の相羽瑠奈さん(18歳)、上田安子服飾専門学校を卒業後、アパレル会社を経てフリーになった三浦雅彦さん(22歳)、香蘭ファッションデザイン専門学校2年生の柳坂碧さん(20歳)、同じく香蘭に留学中の張吾赫(ちょう・ごかく)さん(25歳)の6人。
今回の応募テーマは、TGC10周年に合わせて、「10」に設定。大村さんは"じゅう"と読み、獣と捉えて表現。色合いの美しさや力強さに魅力を感じたホワイトタイガーをインスピレーション源に、毛並みを羽に変えて飛べるイメージを加えることで、さらなる強さを表現した。面接には、大胆に髪を染め、かつ、そり上げて、自ら作品を着用して登場。その美しさと力強さに、一瞬で審査員たちの心をつかんだ。
池田さんは、「10着のデニムパンツから仕立てるドレス」をコンセプトに、はき込んで、色味や風合いの異なるカジュアルなデニムから、グラデーションの美しいタイトで女性らしいドレスを作成。そのテクニックの高さを見せつけた。
空を見上げるのが好きだという相羽さんは、雨、雷、風、虹、空、星、雲、月、太陽、雪の10の要素をカラフルでポップなカワイイ世界観で表現。どんな日でも楽しくいられるようにとの思いを込めたという。7色のニットで編んだレインボーマフラーや、月と太陽を両面に描いたエナメル風バッグなど小物もキュートで商品化もできそうなほどのアイデア力。フェイクファーコートの質感や、デザイン画には入れていたが作り切れなかったアンブレラハットなど課題もあったが、モノ作りのプロたちと協業すれば簡単にクリアできるもの。今後、商品企画やプロデューサーとしての活躍が期待される人物として認められた。
唯一の男性受賞者となった三浦さんは、喜び、怒り、哀しみ、恐怖、恥、好き、嫌い、昂ぶり、安らぎ、驚きという10個の感情をベースに、「感情の解放による自由」をメッセージに込めたという。独特のパターンと、4万個にのぼるパンチングをハンドワークで施したパワードレスは、体内細胞を想起させ、草間彌生の作品にも通じるような、グロテスクさと神秘性を宿した仕上がりで、審査員を魅了した。
柳坂さんは1〜10、始まりから終わりをイメージし、植物が生まれてひっそり、かつ、力強く生きている姿を表現。白と緑を基調に、手編みのヘアピンレースやフリンジと羊毛をニードルパンチで布にして作り上げたドレスは、シューズやヘアに施した苔のような装飾や、大きなバックスタイルのラッフルの効果もあり、繊細さと大胆さ、はかなさと永遠性などのイメージが融合。このままレディー・ガガなどアーティストの衣装としても通用しそうな感度と高いクオリティーを伴っていた。
張さんは「十人十色」という言葉と、光や場面によって刻一刻と変化する浮雲がインスピレーション源。浮遊し、現実と幻想が入り混じったような水彩画によるデザイン画は応募者随一のインパクトを放っていた。これをどう具現化するのかに注目が集まったが、籐の骨組みにシフォンにカラフルな刺しゅうなどを施しながら見事な立体造形を作り上げたこの作品は、アート展などにも出品を進めたいほどの出来栄えだった(年齢は全て応募当時)。
オサレカンパニーはAKSの子会社で、2013年3月に設立。AKB48グループのマネジメントや制作関連を一手に担っている。もともとは、AKB48が発足した05年から衣装デザインやスタイリング、ヘアメイクなどを担ってきて、規模の拡大に伴い、衣装部、そして子会社へと昇格したもの。現在は、総勢235人、海外を合わせて462人の衣装やアクセサリーの多くを一手に引き受けており、年間の制作型数は4700着。通算制作数は5万着に上る。
内村和樹オサレカンパニー社長は、今回のプロジェクトについて、「才能を秘めた原石を発掘し、一緒に輝ける仲間を求めるとともに、ファッション業界を盛り上げて貢献できるプラットフォームを提供したかった」と狙いを語り、茅野しのぶクリエイティブ・ディレクターは、「選考に際し、若い方々の感性を何よりも重視した。その発想力をプロと一緒に開花させたり、チームでユニットを組んで、得意不得意をカバーしながら、衣装や商品作りなどに生かしてもらえたらと考えた」と説明。TGCを主催する村上範義F1メディア社長は「年間4700着のオートクチュールの衣装を作るオサレカンパニーが、モデルやアイドルだけでなく、モノを作る人、デザインする人に光を当てるチャンスを作ったことはとても価値あることだと思う。ここから才能を発掘し、夢を提供する機会を一緒にサポートしていきたい」と語る。
審査員を務めた丸山敬太デザイナーは「素敵なアイデアがたくさんあり、僕がモノ作りをサポートしたらもっとよくなったり商品化できるような企画もあった。逆にデザイン画に対して、それを具現化する力や執念が足りない人もいたのは残念。自分の作りたいものや想いを形にして表現することはとても大切なことで、そこにもっともっと情熱を傾けてほしい」とエールを贈る。軍地彩弓ファッション・ディレクターは「下は15歳の中学生から上は30代のプロまで幅広く応募が集まっていた。中には初めて服作りに挑戦して刺しゅうの方法をYou Tubeで勉強したというような子もいて斬新だったし、新しい時代の服作りというものを考えていくべき時なのかと考えさせられる部分もあった」とコメント。TGCの演出も手掛ける田村孝司ドラムカン代表は「米国の『プロジェクト・ランウェイ』のように、リアリティーショーのような形で彼女や彼らの成長を追いかけられたら面白いかもしれない。また、2人の受賞者を出した香蘭ファッションデザイン専門学校の教育方法も知りたい」と話した。