まだ使われていない新築ビジネスビルの上階。ロンドンの街を見下ろすガランとしたフロアが会場で、四方の窓には赤、青、オレンジ、緑の4つの色が光る。どこか近未来的な演出は、1年前の「バレンシアガ」を彷彿とさせる。一時期、ニコラ・ゲスキエールの後任クリエイティブ・ディレクターとして名前が挙がっていたケイン(結局は、アレキサンダー・ワンがその座についたが)だけに、やはり「バレンシアガ」との親和性が高かったことを思わずにはいられない。
冒頭に、よりリアルなアイテムを揃えた。フォックスやヌートリアでトリミングした迷彩柄のプリーツスカートとショート丈のボックスコート。背中がばっくりと割れたミドルゲージのセーター。いずれも革のバックルをアクセントにしている。ケインにしては珍しい“普通”のアイテムなだけに、どこかに仕掛けがあるのでは?と探してしまうほどだが、特にそういう訳ではないようだ。PPRによるブランド買収が発表されたばかりなだけに、“売り”の課題が与えられていることを想像してしまう。いずれにしても、若手デザイナーにとってひとつの試練である“ビジネス構築”というフェーズにケインが進んでいることがうかがえる。また、トレンドにも適度に合流。例えば、ハリのある柔らかい素材で丸い肩のフォルムを作るアイデアやスリット使いなどがそうだ。
後半は、主にドレスの上で、ハンドワークによる凄技とアイデアを見せる。まずは、得意のコード使いを進化させて披露。コードでサークルや花柄作ったドレスや、ベルベットやサテンの間にコードを挟み込んだドレス、ネットの上にコードで肩章などミリタリー風装飾を施したドレスなど。続いては、鳥の羽根による装飾のシリーズで、裾や前立てに加え、ポケットのフラップやプリーツスカートのひだひとつひとつにびっしり羽根を飾る。最後は、スクエアカットのオーガンザを重ねて形作るシリーズ。ひとつひとつの技術は見ごたえはあるが、服のデザインというよりは職人技の披露という印象がぬぐえない。人間の頭をスキャンしたようなプリントのサテンのシリーズは印象的。