冒頭から、着ぐるみを解体してドレスに仕立てたルックが出現した。モデルの腕はビスチェ風のニットで拘束され、身動きがとれない。また、クリスタルの瞳は悲しげで、近年のゆるキャラブームと相反するような印象を受ける。柄をよく見ると、タータンやマドラス、グレンチェックの生地を採用しながら、着ぐるみの解体ドレスを制作していた。生地使いを見ると、ただ解体したのではなく、一から着ぐるみを作って、そこから解体・再構築したのだろう。会場の席に置いてあった一枚の紙には「ろくでなし、ひとでなし、ふくでなし」とあった。社会の動きや世相に対し、敏感に反応する石黒望デザイナーは、きっと日本の現状に不満を抱いているに違いない。ブームに踊らされている人への警鐘か、それとも本質から逃げている人に対しての怒りなのか。以前から、原発問題などをクリエイションの根底に置いてきただけに、不気味とも思えるルックは意味深だ。一方で、着ぐるみや書き殴った文字のプリントを使いながら立体的なフォルムを構成。それでもバランスが取れている点は、実力がある証拠だろう。
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