2013-14年秋冬コレクションで、少し自堕落にも見えるエレガントな「プラダ」、スポーティをキーワードにした「ミュウミュウ」を披露したばかりのミウッチャ・プラダに、「WWD-NY」のブリジット・フォーレイ=エグゼクティブ・エディターがインタビューした。
WWD-NY(以下、W):コレクション制作のスタート時にはテーマを決めていないということだが?
ミウッチャ・プラダ(以下、MP):ええ、まったく。例えば「プラダ」の2013年春夏コレクションは最終的に「ジャポニスム」がテーマということに落ち着いたけれど、最初からそれを目指したわけではなかった。
W:どういう経緯で「ジャポニスム」に?
MP:私はよく「メンズ」をテーマにスタートするのよ。なぜかというと、メンズはシンプルでグラフィカルだから。あの時もそこから始めて、さらに女性の服だから「グラフィカルだけど、すごくフェミニン」なものにしたいと思った。そうこうしているうちに、「グラフィカルかつフェミニン」が「ベーシックな花柄」の方向に移っていったの。さらに、どんなパーソナリティの女性を主人公にするかを決める段階になった。どんなドラマを持った女性にしようか?性格は?考え方は?そして決まったのが、「厳格なまでに自分を抑えた、慎重で控えめな女性」。つまり「日本女性」ね。ちょっと箱入り娘のようで、取り付く島がなく、でもすごく繊細で、豊かな感性を持っている女性よ。
W:そういう"テーマ"は突然閃く?
MP:私は基本的に、1ヵ月でショーの準備をする。私が「タイトル」と呼んでいる、自分が表現したいテーマを見つけるのは、手探りですごくしんどいプロセス。年を追うごとに、フィッティングを始める最後の2日間で、テーマが決まることが多くなってきたわ。そこに至ってようやく、自分が何を表現したいのかがはっきり見えてくるのよ。
W:13年春夏のファーは大ヒットだったが、予測していた?
MP:ええ。これは絶対に当たるとわかっていたわ。自分でも夢中になっていたから。夏に女性がファーを着るって、フェミニンさの演出としてはやり過ぎともいえる。季節にも合わないし。でも、フェミニンさを過剰なほど打ち出す必要があったの。
W:なぜ?
MP:それはまた難しい質問ね。現代は、昔ながらのパワーを失いつつあり、かといって新しいパワーを見いだすこともできてはいない。だから女性が大昔から持っていた根源的なアイデンティティを失わないように努めているの。
W:女性が失いつつある昔ながらのパワーとは?
MP:男性を悦ばせるような一面ね。女性は昔から、男性をおだてて操っては、いろいろなことを成し遂げてきたわ。私はそういうのが大嫌いなんだけど、女性は確かにそういう一面を持っているのよ。
W:2013-14年秋冬はとても誘惑的でセンシュアルだったが?
MP:ええ、そうね。春夏で抑えたフェミニンを表現したから、今度はもっと自由で、人間味に溢れたものをやりたかった。とにかく正反対のもの。すごくパーソナルでセンシュアルで、ちょっと自堕落な感じ。そして今回は、極めつけのクラシックなファーを使った。ラストルックはとても象徴的で、刺繍のドレスにクラシックなファーを羽織っているだけなのに、すごくノーブルに見える。みだらだろうが自堕落だろうが、存在感とパワーを持つ女性にはなれるのよ。敢えて"禁"を犯す。
W:クリエイションに対する姿勢は以前と変わった?
MP:長年、私は自分の考えや個人的感情、感傷を隠そうと努めていたの。その当時は誰もが「プラダ」をミニマルと評していたわ。でも、私はミニマルを目指したことは一度もなかった。ただ隠そうとしていただけ。でも数年前から、もう隠すのはやめようと決心したの。ミニマルは、すべてを心に秘めているから、人から見ればとらえどころがなくて、安全圏に立っていられる。でも何かを伝えようとすれば、仕事は困難になるわ。それでも、今は声を大にして伝えたいことを明らかにするべき時だと思っている。
W:ミニマルといわれていた時期に、あなたが隠そうとしていたのは何?
MP:今は隠そうとしていないこと。大部分は、勇気を出さないと表現できないことよ。例えば、13-14年秋冬シーズンは "不可能" について語りたかった。今は、あまりにも多くのことが "不可能" になってしまっているわ。女らしさを露わにしすぎるのもダメと言われる。不可能とまではいかないけれど、それに近い。何でも "そこそこ" が求められて、誇張することが許されないのよ。少なくとも、私にとってはそう。
W:それはクリエイションに悪影響がある?
MP:興味深いことを表現するのが、ものすごく困難になったわ。13年春夏のグラフィックフラワーのファーは、まさに "挑戦" よ。私自身はファーが好きでも何でもないわ。ファーは挑戦のシンボルなのよ。
W:ファーが好きじゃないって本当に?
MP:ええ、一度も着たことがない。でも今は、毛皮は"禁断" のものになり、毛皮というと眉をひそめられるようになってしまった。
W:ファッションは政治に迎合する傾向があるが、ファーは文句なしに受け入れている。
MP:毛皮は、すでに滅びてしまったものの一部なのよ。女性たちは大昔から肉を食べて、毛皮を着て生きてきたわ。それはごく普通のことと考えられてきた。でも、現代はどちらもダメといわれる。確かに一理あることなのだろうけれど、私はTシャツに「毛皮禁止」と書く方法は選ばない。そんな安易すぎるやり方はイヤだわ。ファーを発表するのは、私なりの "挑発"。もっと大きな議論を呼び起こすためのね。
W:ファーは好きではないが、"挑発" するためには使うのをためらわないということ?
MP:私たちは地球のためにならないことを山ほどやっているのに、毛皮だけ禁止するのは"偽善" でしょう?上っ面だけ繕う人々は大嫌い。「これをやめろ、あれは良くない」というのは簡単だけど、問題を解決するためには、すべての因果関係を調べないとできない。
W:以前、ファストファッションについて、「ファストファッションの服があれほど安いコストでできるのはなぜか?誰も気にしないのが理解できない」と言っていたが?
MP:左翼の知識人は、私の服について「よくあんな高い値段で服を売れるものだ」と批判するけれど、私に言わせれば当たり前のこと。それだけ「コスト」がかかっているのよ。正しいシステムで人に仕事をしてもらえば、それは高くつく。劣悪な労働環境を批判する人が、コストの話になると、安い方が民主的だから安い服のほうがいいという。これこそ偽善の最たるものでしょう。
W:若い時に共産党に入り、サンローランの服を着てデモに参加したという逸話があるが、当時と今のあなたはどう違うのか?
MP:基本的には変わっていない。でも今の私はリッチなファッションデザイナーであり、私は自分でその道を選択したの。それは私自身が抱えている矛盾よ。自分にできることは何でもするつもりだけど、政治に直接関わることはしない。
W:デザインするとき顧客のことを考える?
MP:いいえ、まったく考えない。顧客とは距離を置くべきだと思っているわ。デザインというのは学ぶものじゃなくて、直感の導くままにしなければならないのよ。もちろん、直感は知識の集大成なのだけれど。
W:でも、製品が売れるかどうかは考えると思うが?
MP:もちろん。売れなければ、会社がつぶれてしまうわ。クリエイションとビジネスのことを考えるのはまったく別物よ。