ミラノに生まれ、この街が1980年代にファッションの都として発展を遂げていくのを目の当たりにして業界に飛び込んだステファノ・ピラーティにとって、正直ちょっぴり停滞している感が否めない2013年の故郷はどのように写っているのだろうか?「イヴ・サンローラン」を去ってから1年半。「エルメネジルド ゼニア」のデザイナーとしてカムバックした彼の気持ちに思いを馳せるショーだった。特にピラーティは、洋服ブランドであると同時に、様々なメゾンに生地を提供する素材メーカーとしての性格も強い、つまりイタリアンファッションを根底から支えている「エルメネジルド ゼニア」のトップに就任したことに強い誇りとやりがいを感じている。そんなショーだった。
それは、デザインチームからピラーティ体制になって大きく変化したランウェイショーからも明らかだった。今回のランウェイは円型。客席が一番中央にあって、ランウェイがその周りを取り囲み、さらにフォトグラファーがその周囲でシャッターを切っている。しかし一番外側にあるのは、とてつもなく巨大なスクリーン。そこに手仕事による縫製から最先端の織機による生地の製造まで、洋服の完成に必要な工程をドラマティックに上映し、さらにゼニアグループの工場で聞こえる機械音にインスピレーションを得た音楽をのせる。コレクションは、ピラーティが脚本するショーのあくまで一部で、映像と音楽がセットになって初めて美意識が完成するというスタンスだ。
そんな映像や音楽とともに発表した洋服は、「ゼニア」らしいマルチな素材から、ピラーティのナイーヴとも言える感性を盛り込んだもの。正直、デザインチーム体制の「ゼニア」には欠けがちだった、パーソナリティが加わった。それは、序盤の端正なスーツルックからも明らか。一見すると、無難な細身ストレートのセットアップに見えるが、目を凝らすとキッドモヘアのパンツはジャカード織で、細かな同系色のペイズリー柄が潜んでいる。コートなどは、さらにナイーヴ。ラグランスリーブのビッグコートは、最近のトレンドであると同時に、イタリアンクラシコの「ゼニア」に欠けがちだったコンテンポラリーなニュアンスを補完した。以降はスイングトップもひざ丈のショーツも、ジャケットの下に着たハイゲージニットも、すべてがラグランだったり、シルクとの二重だったり、袖が異様に長かったり、従来の「ゼニア」なら非の打ちどころがない様式美を追いがちな場面場面でパーソナリティを加味。世界最大級のファクトリーブランドから、非常にユニークなデザイナーズブランドが現れた印象だ。
?
【コレクションの全ルックはコチラ】
?