ショーは、デザイナー自身が20歳の時に見たという映画「STOP MAKING SENSE(ストップ・メイキング・センス)」の冒頭で流れる音楽でスタートした。
同映画は、バンド「トーキング・へッズ」が1984年に行なったラストツアーのライブ映像を記録したドキュメンタリーで、デイビッド・バンがステージに持って上がったラジカセをカチャッと入れる音と、観客の歓声のノイズから始まる。洋服作りをしている最中に頭の中で流れ始めたという歌詞が、コレクションのテーマにつながったそう。前半は「サイコキラー」(猟奇殺人)を、後半は「天国」をテーマにした、2部構成のコレクションとした。
前半は、「本当に悪い奴は誰なんだ」というダークな内容。黒やグレー、白を基調にしながら、異素材ミックスや紐を垂れ下げたグランジルックを並べたり、たわいもない落書きをプリントしたオーバーサイズのアウターを披露したり。また、サイコキラーを象徴するシルバーのサングラスをスタイリングにプラスした。後半はがらりと変わり、「皆が行きたがる場所は、HEAVEN(天国)という名前のBAR(バー)なんだ」というライトな歌詞からイメージ。デニムをパッチワークで仕上げたマキシ丈のブルースカートや鮮やかな色を採用したパーカーを提案するなど、爽やかなイメージを打ち出した。前半で用いたディテールを後半では色違いで提案することで、デザイナーが一番伝えたかった「(誰もが行きたいと思う)天国にいっても、何も起こらないし、変わらないんだよ」ということを表現している。
石黒望デザイナーは、ショー後「何も起こらないんだから、(当たり前ではあるけれど)命を大事にしなくては」と語った。また、「サイコキラーと天国は逆説的だけど、自分にとってはそんなに変わらないものであり、それを素材で表現してみせた。トレーナーに使う素材でフリースにしたり、いつもフリルに使うチュールをレースに用いたり、普段ベースに採用する素材を違う形に落とし込んだのがポイント」と話した。