ファッション

ついに「ハーパーズ バザー」「エスクァイア」が始動 ハースト婦人画報社が2013年に大きく動き出す

 2013年の出版業界において最も話題をさらうのは、ハースト婦人画報社になりそうだ。2011年7月に米メディア大手、ハースト社の100%子会社となったことでアシェット婦人画報社はハースト婦人画報社に社名を変更し、以降、水面下でハースト社が持つ雑誌をいつ日本でローンチするのかタイミングを探ってきた。そしていよいよファッション誌「ハーパーズ バザー」とライフスタイル誌「エスクァイア」がそれぞれのビジネスモデルで始動する。その構想に迫るとともに、イヴ・ブゴン=ハースト婦人画報社 社長兼CEOが2007年から掲げる「360度メディア戦略」の動向や今後の新たな展望を尋ねた。

WWDジャパン(以下WWD):米国ハースト社の100%子会社になり、新体制の中で進化した部分は?

イヴ・ブゴン=ハースト婦人画報社 社長兼CEO(以下、ブゴン):基本的には、雑誌を中心にウェブ、モバイル、eコマースを含む全方位を網羅する「360度メディア戦略」をそのまま踏襲している。さらに、グローバルなハーストのネットワークを活用し、特にアジアのチームとは緊密に連携している。

WWD: 御社の売り上げがリーマンショック以前に戻っている中、何に注力したことが結果に結びついているのか?

ブゴン:2006年頃から早い段階で注力する雑誌、休刊する雑誌の選別をしていったことに遡る。限られた雑誌にリソースを投入し、選択と集中を行う決断を早く行ったことが功を奏した。デジタル戦略も踏まえて考慮した時に、生き残れる雑誌なのかも基準に考えた。現在は、インターナショナル雑誌と国内雑誌が半々くらいのバランスのとれたポートフォリオになっており、チームも新たなことにチャレンジするマインドセットを持っている。

WWD: 2012年はスーパーリュクス層に向けた「リシェス」の創刊や、デジタルメディアの「エル・ママン」のローンチがあったが、とくに新たなコンセプトやユニークな販売スタイルを採用した「リシェス」は、どういうアイデアから?

ブゴン:基本は現場からアイデアを出してもらい進めている。「リシェス」は「ヴァンサンカン」チームから、「ヴァンサンカン」を卒業した読者のために「Ultimate Luxury(究極のラクジュアリー)」を雑誌の世界で作りたいという声が上がった。本来はもっと早く創刊する予定だったが、震災のために1年ずれた。12年に2回発行してビジネスモデルとして成立することが分かったので、2013年は年4回発行する。2012年から、ラグジュアリーブランドが中国から少し距離を置き、日本に目を向けているように思う。そのため発行のタイミングとしては結果的に良かった。06、07年頃から今までのビジネスモデルは通用しないと思っていたので、ダイレクトマーケティングにも力を入れてきた。「リシェス」も2013年に創刊する「ハーパーズ バザー」(以下、バザー)」もこれまでとまったく異なる切り口で進めていきたい。

WWD: デジタルでの「エル・ママン」ローンチは、新しいマーケットへのアプローチ?

ブゴン:「エル・ママン」はニッチマーケットだが、「エル」、「エル・マリアージュ」を読んできた人に向けたもの。そもそも弊社は「25ansウエディング」「ザ・ウエディング」含め、ブライダル関連媒体を3つ持ち、そのマーケットに強いが、その延長にあるマタニティはなかった。なかなか子育てで外出できない女性にデジタルがマッチしている。eコマースにも力を入れ、「ELLE SHOP」と連動している。ニッチだが読者のプロファイルは今後とても重要になってくる。

WWD: 13年の大きなプロジェクトとなる「バザー」創刊について、これまで各国で行なってきたライセンス形態としてのビジネスではなく、100%子会社の御社が作る「バザー」は、何が一番変わるのか?

ブゴン:100%子会社の私たちが発行することで、本国の強力なバックアップやリソースを活用できる。また、雑誌ビジネスにおける堅実な成長とデジタル分野の開拓にいち早く取り組んだ弊社ならではの力を今回の創刊で発揮したい。本国ニューヨークの「バザー」も変わりつつあり、元、仏「ヴォーグ」編集長のカリーヌ・ロワトフェルドもファッション・ディレクターに就任し、面白い動きも出てくる。日本に「バザー」がないのはおかしいと思うとの声も多い。時間をかけて優秀な人材も入れて取り組みたい。13年3月くらいに創刊の詳細を発表できると考えている。

WWD: 海外提携誌では「エル・ジャポン(以下、エル)」という大きな媒体があるが、「バザー」とカニバリゼーションしないための戦略は?

ブゴン:パリ発の「エル」は、ファッションのみならず、自由に人生を送りたい、人生をエンジョイしたい人のためのライフスタイルを盛り込んだ雑誌。一方「バザー」は、ニューヨーク発で、よりモード系ファッション雑誌。今、ニューヨークは面白いし、注目されている。もう一度ハイファッションをアピールして、「エル」とはファッションだけでなく、違うポジションに持っていきたい。

WWD:「メンズクラブ」は「婦人画報」の増刊としてスタートした「男の服飾読本」から数えると58年の歴史があるが、今後のメンズのメディア戦略は?

ブゴン:「メンズクラブ」は当社の月刊誌の中で2012年、一番広告売り上げの伸び率が高かった。ファッションに強い「メンズクラブ」を中心に、「エスクァイア」のライフスタイルコンテンツをプラスし、メンズビジネスを強化していく。「エスクァイア」は、80年間の中で培ってきたライフスタイル、読み物などのすばらしいコンテンツが魅力だ。

WWD:「リシェス」でもコンテンツの一部にハースト社の持つインテリア誌のコンテンツを盛り込んでいたが、そのようなビジネスモデルになる?

ブゴン:たとえば「エル」の中に「バザー」のコンテンツを盛り込むのは世界観がまったく異なるのでできないが、「メンズクラブ」の中に「エスクァイア」をプリントでは付録として、オンラインでは特別チャネルを作って提供したいと考えている。メンズマーケットはそれほど大きくないため、「メンズクラブ」をハブにしてリスクの少ないかたちで「エスクァイア」を徐々に展開する。ひとつのメンズグループとして強化し、それを紙媒体だけでなくデジタルでも展開する。

WWD:「エル・オンライン」をはじめ、デジタルメディアの取り組みが早かったが?

ブゴン:「エル・オンライン」はYahoo! Japanと同じ年に立ち上げるなど、積極的にデジタル領域に取り組み、今年の全社の売り上げの約20%はデジタルビジネスが占める。時間はかかったが、現在、デジタルとプリントメディアの融合は人材的にも両メディアのスタッフがうまく連携を取りながら機能している。

WWD:コンテンツをリッチ化するには、映像も必要になる?

ブゴン:それもひとつの課題。映像をどう作り、活用していくのか検討したい。現在、「エル・ジャポン」や「モダンリビング」が監修する番組をBSで行っている。今後もBSなどのテレビ局や制作会社のような映像メディアと弊社の編集力を生かしたコラボはひとつの新しいフォーマットとして考えて行きたい。

WWD:ブゴン社長が掲げる理想のマルチメディアカンパニーとは?

ブゴン:ブランドとしてはインターナショナル誌の「エル」「バザー」があり、国内ではラグジュアリーの強いグループ「ヴァンサンカン」「リシェス」「婦人画報」で、富裕層の読者をしっかりと取り込むこと。そしてニッチながらも、当社として好調なライフスタイル系の食、住宅、結婚などを強化する。今後マーケットとして面白いのは、定年退職を迎えた、旅などに興味のある元気な65歳。従来のシニア層の雑誌とは異なる新たなムーブメントを作りたい。ガール世代から65、70歳までリーチできるブランドポートフォリオをインターナショナルと国内の2つの柱で築き上げるのが理想だ。PC だけでなく、スマホ、タブレットへの対応を強化し、強いデジタルソリューションを提案することを目指す。デジタル版雑誌は、12年は定期刊行全12誌がそろい、タブレットやPCで読めるようにしたが、13年はさらにリッチコンテンツなどを盛りこみたい。

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