「ディオール オム(DIOR HOMME)」の2014-15年秋冬コレクションは、クリス・ヴァン・アッシュが探索を続けるユニフォーム性に、スズランの花に託した自身のロマンティシズムを加えたコレクション。ちなみにスズランは、ブランドの創業者ムッシュー・ディオールにとってのラッキーチャームだった。デニムというカジュアル素材も手伝って、卓越したクラフツマンシップとクリスの完璧なまでの美意識、さらにユニフォーム性に由来する厳格さを持ち合わせつつも、いつもに比べ優しく、敷居の低ささえ感じさせる共感のクリエイションでここ数シーズンで最高の出来栄えだ。
ファーストルックは、Vゾーンが若干深い、ジャストフィットの2ボタンスーツ。パンツはスリムテーパードでクリスらしい非の打ち所がない精緻フォーマルで幕を開けた。しかし、胸ポケットにはスズランの花束の刺繍。これが男性にとって最高のユニフォームであるスーツのパーソナリティを高め、精緻にロマンティックなニュアンスを与えている。その後もチャコールグレーの無地からピンストライプまで様々なスーツが登場するが、いずれもポイント、もしくは全面にのせたスズランが緊張感を和らげる。
中盤は、カジュアル素材デニムで厳格さを和らげるパートだ。デニムはライトウォッシュで若干の加工。決してフォーマル性の高い素材ではないが、これをサヴィル・ローを意識したクラフツマンシップで「ディオール オム」らしいハイクラスのダッフルコートやジャケット、ジレやシャツなどに仕上げる。スズランで厳格さを中和したパートと比較すれば、今度はカジュアルなデニムにサヴィル・ローのテクニックで幾ばくかの厳格さを加えたクリエイションだ。
そして、終盤はミリタリー。デニムのパート同様、MA-1をスーツと合わせたり、フォーマルなボトムスにカーゴパンツのようなポケットを加えたり、ミリタリーとスーツで遊ぶ。ナイーブで完璧主義者のクリスが、クリエイションに対峙する中「遊ぶ」ことで時代に即したコレクションにまとめた印象だ。
【ディオール オム?2014-15年秋冬パリ・メンズ 全ルック】