現在放送中のサタデードラマ10「あにいもうと」でも主演を務め、飛躍を続ける俳優の赤楚衛二と、ドラマ「silent」「海のはじまり」などで繊細な人間描写に定評のある風間太樹監督。ともに「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(以下、「チェリまほ」)が原点ともいえる2人が、「チェリまほ」以来となる待望の再タッグを、Netflix映画「余命一年、男をかう」で果たした。吉川トリコによる同名小説を原作に、脚本・岡田惠和、監督・風間太樹という強力な布陣で描かれるのは、余命宣告を受けた40歳の独身女性・片倉唯(柴咲コウ)と、ピンク髪のホスト・瀬名(赤楚衛二)による、72万円の契約から始まる異色の愛の物語だ。重いテーマを抱えながらも、驚くほど軽やかでユーモアに満ちた本作の舞台裏について、固い信頼関係で結ばれた2人が語り合った。
待望の再会とお互いの変化
——まずは、再びタッグを組むことが決まった時の率直な感想からお聞かせください。
赤楚衛二(以下、赤楚):最初は「やっとか!」という気持ちでした。ずっと一緒に仕事したいねって話はしていたんですが、なかなかご縁がなくて。だからすごく嬉しかったですし、このタイミングというのも本当に良かった。僕自身、「チェリまほ」で多くの方に知っていただき、その後さまざまな経験を積む中でついた“垢”みたいなものを、良くも悪くも一度取っ払いたいと思っていたんです。客観的な自分を意識せざるを得ない状況の中で、もう一度主観を取り戻し、もっといろんなものを脱ぎ捨てて役と向き合いたかった。それは監督が風間さんだからこそ僕自身が甘えられる部分もあり、気持ちを新たに挑むことができました。
風間太樹(以下、風間):僕自身も再会は本当に嬉しかったです。作品の“入口”に「赤楚衛二」という名前があって、そこに強く惹かれていました。完全には離れていなかったこの3年間、撮影所の廊下でばったり会って立ち話をしたり、一緒にごはんに行くこともあったんです。まさに彼が「客観の視点で芝居をする葛藤」や「求められるものに応える葛藤」の中にいる時期でした。その足踏みしている状況から、どう悩み、どうくぐり抜けて再び僕の現場に立ってくれるのか、すごく楽しみにしていました。
——お互いの“変化”や、逆に「ここは変わらないな」と感じた部分はありましたか?
赤楚:風間さんはすごく寄り添ってくれるところは変わらないんですが、どこか“器用さ”が増したというか。以前はもっとわかりやすく寄り添ってくれていたのが、今回は少し引いた目線があって、ある種のいいドライさも感じました。今回、それが僕にとってはよかったみたいです。根本にある温かさや一緒に考えてくれる姿勢はそのままに、客観的な意見もくれる。あれからいろいろな作品を経てきた中での変化なんだなと感じました。
風間:今回の演出で意識したのは、赤楚くんに「自ら泳いでもらいたい」ということでした。「チェリまほ」の時は、毎シーン始まる前に2人でコソコソと、イメージとしてはタンスの中にこもるようにひっそり、「ああだよね、こうだよね」と話をしていたんです(笑)。男性同士の恋愛を描く作品を制作する上で、彼の感覚と僕の描こうとする世界に差異がないかを繊細にすり合わせたかった。でも今回は、一歩引いたところで赤楚衛二という俳優の芝居を楽しんでいました。彼が演じる瀬名は、不器用さゆえの可笑しみやユーモアがあって、僕の想像をはるかに超えて自発的に泳いでくれた。信頼しているからこその距離感ですね。
本作の表現には “身軽さ”が大事
——がんによる余命宣告、家族の介護、貧困といった重いテーマをベースに持ちながら、本作には不思議な「軽快さ」があります。このトーンを生み出すために、赤楚さんはどのようなチューニングをされたのでしょうか?
赤楚:実はクランクイン前に、風間さんから「原作を読んでしまうと、瀬名の背景を吸収し過ぎて身軽さがなくなる怖さがあるから、台本から読んでみて」と言われたんです。純粋な気持ちで台本だけを読んだところ、すごく軽快でわかりやすい言葉が並んでいた。この作品を表現するには、何よりも“身軽さ”が大事だと感じました。
風間:瀬名の背景にある葛藤やホストとしての生き様はもちろんサブテキストとして共有しましたが、現場ではまず彼が何に反応するかを「静観」しようと思いました。足踏みした過去を越えて、唯と対峙する中でのユーモアに集中してもらう。ビジュアル面でも、ピンクの髪が赤楚くんの持つ雰囲気を引き立て、良い意味での軽やかさを増幅してくれましたよね。
赤楚:確かにピンク髪のおかげで気持ちがすごく明るくなりました。金髪にしたときのような高揚感があって、ビジュアルにはかなり助けられました。
「手放すこと」で得られる豊かさ
——本作では、蓄財や執着を手放すことなど、「得る」「増やす」ことよりも「手放す・解放する」豊かさが描かれています。お二人の生活の中で、手放したことで豊かさを感じた経験はありますか?
風間:映画を作るにあたって、これまで「自分で全部やらなければ」と思い込んでいた部分を、最近は少しずつ人に渡すようにしています。スタッフに託すこともそうだし、赤楚くんに「自由に泳いでみてほしい」と託すこともそう。自分の背負っているものを少し下ろして、返ってくるものを待つ楽しさを覚えました。身構えが楽になりましたね。
赤楚:僕はもともと物にも人にも執着がなくて、割と何でも手放しがちなんです。ただ、手放しすぎて将来への不安や怖さを感じることもあるので、最近は逆に手放す際のルールを作るようにしています。もらったものはなかなか捨てたりはできないですが、物に関してももともと「思い出と物を結びつけない」タイプで、大切にしたいものは記憶の中にあればいいと思っています。ただ、忘れてしまう怖さはあるので……。
風間:日記書いたらいいよ。赤楚衛二の日記、めちゃくちゃ読んでみたいよ、俺は。
赤楚:本当ですか! じゃあちょっと書いてみます(笑)。
——作中で唯と瀬名は婚姻制度を活用し、契約結婚から始まるパートナーシップが描かれますが、お二人が考える「心地よい他者との距離感」とはどのようなものですか?
風間:正直に言えば、頼られたいし寄りかかりたい。一方的に与えるだけでなく、それを素直に開示し合える関係性がいいですね。自分にとっての安全地帯やシェルターのような場所は、多ければ多いほどいい。赤楚くんも僕にとってそのシェルターの一つです。
赤楚:僕はどちらかというと自立していたいタイプです。くっつけばくっつくほどちょっと歪んでしまう。人との距離感は欲しいほうで、僕のことを“わかった気”になってほしくないし、僕も相手をわかりきれない。人間は違う存在だという前提がベースにあります。だからこそ、特定の形に縛られず、さまざまな他者との関係の中でフラットに楽しく満たされればいいなと思います。
例えば、仕事の悩みなら風間さんに相談すればいいし、パートナーや家族という特定の形に限定しなくても、いろいろな他者との関係の中で自分の軸が立っていれば十分に満たされるんじゃないかな。その中で一緒にいて楽しかったらなお嬉しいですね。
風間:確かにそうですよね。僕たちの関係性もまさに今の言葉に合致しているように思います。赤楚くん自身は、ほかの人といる時もちゃんと“個”でいるんです。みんなといても一緒くたになりすぎず、介入しすぎない自然な距離感を持っているんですよね。コミュニケーションは軽やかなんだけど、踏み込みすぎない。素直に人といられるけど、わきまえている。
赤楚:幼少期に「18歳になったら家を出ていけ」と言われて育ったこともあってか、「自分は自分でしかない」という意識が強いのかもしれません。
風間:気負わない関係ですし、この人と話しているときは偽りがない感じがします。僕も赤楚くんに会うと元気になって帰りますしね。
——最初にお二人が出会った作品「チェリまほ」は、日本では法律婚ができない男性同士の恋愛を描く物語でした。さまざまなパートナーシップのあり方を模索するやり取りを経たからこそ、今回の作品でも豊かな関係性をイメージしやすくなった、というのはありますか?
赤楚:あるかもしれないですね。今回も世間がイメージする恋愛結婚や、「夫婦だからこうあるべき」「恋人ならこうしなければならない」という固定化されたラベリングに縛られる関係性ではない。いろんな作品でそういう関係を経験しているからこそ、僕は別に普遍的な形を求めていないのかもしれません。そういう意味では本当に、最初のうちにいい作品に巡り会えたと思います。
風間:お互いに、大切な作品だよね。もちろん今作もそうです。
予定外の「ノイズ」が人生を面白くする
——物語の中で、唯にとっての瀬名は人生の完璧なライフプランを狂わせる最大の「ノイズ」でありながら、予期せぬ彩りを与えました。お二人の人生において、「最初は最悪のノイズだと思ったけれど、結果的に人生を豊かにしてくれた」というエピソードはありますか?
風間:ファーストコンタクトで「最悪だ」と思った人ほど、のちにめちゃくちゃ仲良くなることが多いです。最悪から最高が来る、そういう出会いのほうが多いかもしれません。
赤楚:俳優を始めた頃は、「難しい映画を片っ端から観なきゃいけない」「監督全員を知っていないと映画に出られない」と思い込んでいて、あえてメジャー作品を観ることを少し避けていた時期があったんです。でも、改めて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観た時に「やっぱりめちゃくちゃ面白い!」と気づいて。メジャー作品が持つエンターテインメントの力を素直に楽しめるようになったのは、大きな収穫でした。
風間:僕はクランクイン前は、スケールの大きいものを観がちです。描いている題材から距離が近い作品を観ると、少なからず影響を受けてしまうので。映画を娯楽として観る、ということを意識して脱力する。映画を観てロマンスを感じる、“映画って面白い”と、その高揚と揺れを心根から体感するために観ます。観客として観たいものに素直になることで、思いがけず自分に返ってくるものもあって、作品に没入していくときのレンジが広がる。作っている人が楽しんでいないと、絶対に楽しく届かないからね。
——最後にタイトルにかけて、最近「一番いいお金の使い方をしたな」と感じたエピソードを教えてください。
赤楚:豊かな生活のために、ミントグリーンの「ル・クルーゼ」の鍋とコーヒーメーカーを買いました。自炊の質がめちゃくちゃ上がって、生活が豊かになりました。今回の作品の影響もあるかもしれません。
風間:ミントグリーン、本作のイメージカラーだね!
赤楚:確かに!
風間:僕は大きめの冷蔵庫を買いました。ずっと欲しかった大容量製氷機能付きで(笑)。地方ロケやロケハン帰りにサービスエリアで購入した品々も全部格納できる。まるで自分の容量が増えたような感覚で、最高にいい買い物でした。
PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
STYLING:[EIJI AKASO]SUMURA TAICHI
HAIR & MAKEUP:[EIJI AKASO]RUMI HIROSE
[EIJI AKASO]ジャケット12万6500円/sage NATION(イーライト 03-6712-7034)、シャツ 5万9400円/ulterior(イーライト)、パンツ 4万4000円/The DUFFER N NEPHEWS(イーライト)、シューズ スタイリスト私物
Netflix映画「余命一年、男をかう」
◾️Netflix映画「余命一年、男をかう」
Netflixにて世界独占配信
出演:柴咲コウ、赤楚衛二
筒井道隆 西田尚美 濱田マリ 鳴海 唯 森口瑤子 宮世琉弥
尾碕真花 近藤公園
原作:吉川トリコ「余命一年、男をかう」(講談社文庫)
脚本:岡田惠和
監督:風間太樹
音楽:haruka nakamura
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子
プロデューサー:八尾香澄 平林勉
ラインプロデューサー:森徹
制作プロダクション:AOI Pro.
企画・製作:Netflix
Netflix映画「余命一年、男をかう」サイト







