デザインチームの中から、27歳の高橋悠介を選びデザイナーに起用した「イッセイ ミヤケ メン」。革新的な技術に誇りを持っているだけに、時にそのテクニックを押し出しすぎ、今の時代に欠かせない「共感」を誘いきれないコレクションに陥らないことが、高橋デザイナーにとって当面の課題と言えるだろう。その点においては、デビューコレクションは上々の滑り出し。いつも通り、ショールームで開かれたコレクションは、客席からは見上げる位置にある窓をモデルが開け放ち、光と風を会場にふんだんに取り込むという演出からスタートした。決して歓声を上げるようなサプライズではないが、日常の小さな幸せを噛みしめることこそが、今の時代に欠かせないムード。技術論に終始してしまう危険性をはらんでいる「イッセイ ミヤケ メン」にとっては特に大事な感覚だろう。
デビューコレクションは、さまざまな染色による、カラフルなラインアップだ。序盤は板染め(普通は同じ形の2枚の板で生地を挟み、さらに板を万力で締め付けたまま染色する手法。板に挟まれた部分は、色が染まらない)で生地を黒に染めた後、さらにブルーやレッドをプリントしたリラックスシルエットのジャケットやシャツ、パンツ。その後も、基本はリラックスシルエット、時にスポーティなエッセンスを散りばめながら、ムラ染めやバティックなど、多様な染色技術で1着の洋服を何度も染め直し、複雑な色と柄を構成していく。何度も染めを繰り返すと、普通なら色はくすみ、汚くなるものだが、他の色の影響を受けやすいイエローでさえ、原色を保ちながら別の色と融合する。高度なテクニックはもちろんだが、根気強い試行錯誤のたまものだろう。
染色にこだわったからこそ、シルエットでは過度な冒険を控えシンプリシティ、というより、今の「イッセイ」に求められているフォルムに徹した印象だ。特に百貨店では、「イッセイ」の中心顧客は中高年。恰幅のよい男性も多いため、洋服はいずれも余裕が感じられるシルエットにまとめている。現在の顧客が求めるシルエットと、新たな顧客を開拓するための色柄。27歳のデザイナーは、現状を冷静に見つめながら、「若手の自分は、今、『イッセイ』で何をなすべきか?」を考えている。
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