光の届かない世界を描いた、静かに強いユーティリティミニマル
「N. ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」の2017年春夏コレクションは、「光のない世界」の洋服だ。その世界とは、深海。ショーは、ネオプレンで作るラグランのブルゾンやノーカラーコート、まるで潜水士ようなハイネックのフーデッドパーカーなどで幕を開けた。
マリンといえば、マリン。ただ「N. ハリウッド」のマリンは、やはりワークウエアに大きな影響を受け、お気楽なムードとは異なっている。ネオプレンのパーカーには、止水ジップ付きの大きなポケット。ネオプレンはカーキ色に染まりカーゴパンツに変わっただけでなく、まるでボンベを背負っているかのようなショルダーストラップのバックパックにも使われる。シルエットはハリがあり、思い通りの造形を生み出せる素材の特性を生かした、極端なボリュームか、タイト。スポーティーな素材ゆえ、カラーブロッキングも多用した。
そして後半は、ネオプレンで作ったスタイルをデニムに置き換え、ワークのムードを色濃くする。前半が潜水士なら、後半は航海士。船長のような花形ではなく、甲板の掃除などがメインの雑用担当の作業着のようだ。光の届かない世界の服、ましてや「N. ハリ」らしいワークウエアのキーカラーは、当然マリンブルーやグレー、そしてブラック。グリーンなどの色彩もダルカラー染まり決して鮮やかではないが、波や泡のプリントが物悲しいムードを希釈する。そして終盤は、あらゆるアイテムにマリンな2本線でトリミングを加えた。
デザイナーの尾花大輔らしいワークウエアを、深海を思わせる物静かなムードで描きつつ、トレンドのユーティリティーウエアにまとめあげた。今シーズンの洋服には、静かに語りかけてくる父親のような強さがある。そんなことを感じたショーが終わると、今年小学2年生になった尾花の息子が、バックステージに駆け込んで行った。聞くと夏休みを利用して、家族団欒の時間も楽しんでいるらしい。今シーズンを象徴する父のように静かな強さは、彼の私生活が生み出している。