ニューヨークで、経験豊富な実力を備えたデザイナーが手掛けるブランドが頭角を現してきています。新しいブランドながら、いいモデルを起用し、世界観の表現も上手。モノ作りもキッチリとしていて、価格帯はかなりラグジュアリーですが、着実に販路を広げています。
1つ目は先シーズンデビューした「シエス マルジャン」です。オランダ出身のサンダー・ラックは、「スリーワン フィリップ リム」や「バルマン」などを経て「ドリス ヴァン ノッテン」ではヘッドデザイナーを務めた超実力派。元々、安定感抜群の「ドリス ヴァン ノッテン」ですが、サンダーが入った2010年頃からよりモダンになったと思いませんか?その彼が元ラルフ・ルッチの投資会社のデラ社というバッカーを得て立ち上げたのが「シエス マルジャン」です。ファーストシーズンからバーニーズ ニューヨークや英国のマッチズ・ファッション・ドットコムなど有力店が買い付け、売り場やウェブサイトで大きくフィーチャーしています。
デビューシーズンは、大ぶりのラッフルを用いたドラマチックなシルエットながらウエアラブルなコレクションを提案しました。マルチストライプやニットの編み地の色合わせもフレッシュな印象でバランス感覚がいいなあと感じました。ただし、ラッフルなどのディテールの使い方やストライプといった柄など、良くも悪くもちょっぴり「ドリス」っぽさを感じさせる内容でしたが、今シーズンは、よりシンプルにトーン・オン・トーンによるカラープレーで新しい一面を見せました。色選びが若々しかったです。正直デビューシーズンのインパクトはなかったですが、新しいアプローチを模索している印象でしたし、今後何を見せてくれるのか楽しみなデザイナーの一人です。
彼はスタイリストの力をとても信じている印象です。「スリーワン」も「ドリス」もスタイリングによって、さらに洋服が輝くブランドですが、「シエス」も同じ傾向を感じます。スタイリングは「ヴェトモン」や「バレンシアガ」を手掛けるロッタ・ヴォルコヴァが担当している点も面白いなあと感じています。とはいえ、まだ2シーズン目。これからどうなるのか未知数なので注視していきたいです。ちなみにサンダーは後日インタビュー予定なので、詳しくは紙面で紹介しようと思います。
スペインの「デルポソ」にも注目しています。ヘスス・デル・ポソが1970年代に設立したブランドをパルファム&ディセーニョS.A.が投資し、12年にバルセロナ出身のジョセフ・フォントを起用してグローバル展開を図っています。ちなみにジョセフはイトキンで働いた経験や東京コレクションに参加した経験があるシャイガイです。「デルポソ」は旗艦店をマドリードやロンドンにも持ち、各国の有力店で大きく取り扱われ、今年に入るとハンドバッグビジネスも本格化。パリのル・ボン・マルシェやロンドンのセルフリッジなどのバッグ売り場に並び始めました。プレタポルテ以上クチュール未満の技術“プレ・ア・クチュール”を取り入れ、シルエットと手作業にこだわったモダンとクラシックが共存するクリーンなコレクションで、NYでは異質なムードを放ち注目を集めました。ショーは美しく、これでもかってくらい装飾的なのにモダン。クリーンでピュアな印象を受ける不思議なコレクションでした。一方でプレ・コレクションはウエアラブル。クリエイションとビジネスのバランスも模索しているなあと感じています。「デルポソ」はファッション・ウイーク終盤戦に登場する予定で楽しみです。
「シエス」も「デルポソ」も、バッカーを持ち、早い段階で有力店が取り扱っているという共通点があり、ビジネス的に安定感があります。また、下積みが長く、デザイナーがヨーロッパ出身であることも。その傾向はシューズデザイナーのポール・アンドリューにも感じるのでポールの話は追って紹介したいと思います。