ファッション

スタイリストのモノを売る力~Part1 大草直子

 女性スタイリストが企業とのコラボレーションで生み出すヒット商品が相次いでいる。その人気の背景には、スタイリストならではのこだわりや、使う人の視点に立った製品づくりや女性の生き方への提案がある。中でも企業からのラブコールが絶えない3人のスタイリストに話を聞いた。(この記事はWWDジャパン2016年9月19日号からの抜粋です)

 一人目は、編集者としてのキャリアを積んだ後、「グラツィア(Grazia)」「ヴェリィ(VERY)」「オッジ(Oggi)」などでフリーのエディター/スタイリストとして活動し、現在ウェブマガジン「ミモレ(mi-mollet)」を手掛ける大草直子編集長(以下、大草)。これまで「ウィム ガゼット(Whim Gazette)」「スピック&スパン ノーブル(Spick and Span Noble)」「サムシング(SOMETHING)」「アクアスキュータム(Aquascutum)」「エストネーション(ESTNATION)」など数多くのブランドとコラボレーションしてきた。この秋には、高島屋がスタートした45~54歳をメーンターゲットにした編集売場「シーズンスタイルラボ」のディレクションも手掛けた。大草は常に同世代の女性たちの目線に立ち、彼女たちの心に寄り添った商品やライフスタイルの提案をしている。

WWD:コラボレーションをする際に大事にしていることは?

大草:コラボレーションをするときは徹底的に関わる。私に求められているのは、ごく一般的な体形を持ち、母であり、女性であり、仕事もしている人としての意見だと思うので、サンプルの商品を一日着てしわをチェックしたり、ご飯を食べた後にウエストがきつくないかというところまで確認する。私鉄沿線の自宅から青山まで電車で移動してもヘンに浮かないか、なんてことも。単純に商品を作るだけでなく、ブランドが掲げる女性像やメッセージをくみ取って製品に落とし込み、自分の言葉とメディアで伝えていくところまでが私の仕事だと考えている。

WWD:これまで手掛けたコラボレーションで反応が大きかったのは?

大草:「アクアスキュータム」と「エストネーション」との三者協業で制作したトレンチコートは大きな反響があった。(「アクアスキュータム」の国内での企画・製造・販売を手掛ける)レナウンからすると、百貨店以外のお客様にリーチしたいという思いがあり、一方「エストネーション」は、ラグジュアリーセレクトショップの先がけとして、次の世代に残していく良いものをきちんと発信していきたいという考えがあった。私は私で、もうちょっと手頃な価格のトレンチコートがあればお客様ももっと気軽に買えるのにという思いがあって、そうした気持ちが一緒になって2014年の秋にコラボレーションが実現した。9万円で100着限定だったが数時間で完売した。発売日当日は開店前からお客様が並んでしまって、メイクもそこそこに店頭に立たなくてはいけなかったくらい。その時に、良いものは人の心を豊かにするし、何世代も超えて残っていくんだなと実感できた。

WWD:インスタグラムでも8万人以上のフォロワーを持つなど人気だが、SNSの活用方法は?

大草:インスタグラムは実は始めてまだ1年くらい。もともと編集者なので言葉で伝えたいという思いが強くて、ブログを利用していた。今は「ミモレ」で言葉を発信しているのでSNSはインスタグラムがメインだが、トップページを見たときにバランスが良い見栄えになるように気を付けている。あとは伝えたいメッセージを絞ることも大事。言いたいことがぶれてしまうと見ている方が疲れてしまうので。そこには編集者としての経験も生かされているかもしれない。一番うれしいのは、投稿を見てくださった方から“気持ちが楽になりました”“救われました”“肩を押してもらいました”というコメントをいただいた時。「ミモレ」も“もっと楽になってください”という思いで立ち上げた部分がある。

WWD:女性に楽になってほしいと思うのはなぜ?

大草:なんでだろう…自分自身がメディアに追い詰められた経験があるからかもしれない。私は子どもが3人いるのでキャリア誌のターゲットには当てはまらないし、夫が家にいて私が働いているのでママ雑誌も違うなと感じていた。どこにも居場所がない感じがつらくてつらくて……同じことを感じている人が他にもたくさんいるのではと思って「ミモレ」をはじめた。「ミモレ」がメーンターゲットにしている45歳という年齢は、まだまだ未熟な部分がある一方で、人生の後半戦に入り、戦い方を変えなくてはいけない時期でもある。戦い方を変えたっていい、人と比較しないことで楽になってほしい、自分が自分であることを認めればもっと楽になれるず、というメッセージを発信していけたらと考えている。

WWD:今後新たにチャレンジしてみたいことは?

大草:10年経ったら絶対にシルバー世代に向けた服を手掛けたい。今ほどは出歩かなくなるだろうから、服もたくさんはいらないと思うし、最高級のカシミアのニットとゆったりしたパンツに、ダイヤモンドのピアスくらいがちょうど良いかなと思っているが、10年後にはその好みも変わっているかもしれない。自分がその年齢になったときに着るものがないというのが一番つらいと思うので、シニア向けのブランドは絶対に作ろうと思っている。

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