「ボッテガ・ヴェネタ」は、トーマス・マイヤー=クリエイティブ・ディレクターの就任15周年とブランド設立50周年を記念して、メンズとウィメンズの合同ショーをミラノのブレラ国立美術学院で開催しました。これまでは、社屋でショーを行っており、社外に出たのはこれが初めてです。なぜ、社外に出たのか?その答が実に「ボッテガ・ヴェネタ」らしいものでした。
もちろん、周年を祝うために特別な場所を選んだ、という理由もあるでしょう。ブレラ国立美術学院がファッションショーの会場として使用されたのは史上初。いたるところに彫刻が飾られた歴史ある石造りの美術学校という知的な場所は、ブランドの世界観にぴったりです。
しかし、それ以上にトーマスが強調したのは、「今回は招待客が多く、いつもの場所では収容しきれないから」という理由でした。来場者数は1000人。通常より多いのは、多くのセレブリティー(日本からは長谷川京子さんが出席)に加え、今回は特別に「ボッテガ・ヴェネタ」で働く職人たちをゲストとして招いたからでした。
職人たちは、工房があるヴェネト州のモンテベッロ・ビチェンティーノから来場。「WWDジャパン」は、彼らの写真を撮ろうとショーが始まる前に会場内とウロウロしたのですがよくわからず。なぜなら彼らは白衣を着るでもなく、普通に観客として座っていたからです。
ファッションショーの客席とランウエイの作り方には、ブランドに哲学が如実に表れます。見上げるようなランウエイやスポットライト式の照明ならブランドが持つ“スター性”が引き出され、客席が8列も9列もある大きな会場ならイベント感覚で高揚感生まれます。「ボッテガ・ヴェネタ」がこれまで社内で小さくショーを行ってきたのは、「客席は2列まで。それ以上後ろには作らない」というトーマスのポリシーから。理由は、来場者全員に服を間近で見てもらいたいから。ロゴを使用せず、服やバッグそれ自体のデザインで勝負する「ボッテガ・ヴェネタ」らしい選択です。
「ボッテガ・ヴェネタ」のラグジュアリーは細部に宿ります。職人たちの手仕事、丁寧な素材の選択(日本の最新素材も多数)、微妙な色のニュアンスなど、着てみて初めてわかるような繊細な価値を伝えるためには客席は2列までが限界であり、それより後ろの距離感では伝わりずらい、トーマスはそう考えています。だから、今回ランウエイとして使用した、教室と教室をつなぐ長い回廊に作った客席もやはり1列、もしくは2列。「彼らは知性と専門性を兼ね備えており、今もこれからもブランドの中心的存在」とトーマスが語る職人たちもまた、その客席にいました。
“タイムレス”をキーワードにした2017年春夏コレクションに華を添えたのは、女優のローレン・ハットンです。手には、1980年に出演した映画「アメリカンジゴロ」で使用したイントレチャートのクラッチバッグを持っていました。展示会で現物を見たのですが、今見てもまったく古びないデザインです。
フィナーレでは、ローレン・ハットンと、今をときめくモデル、ジジ・ハディッドが並んで登場しました。何も敷かず、石畳のままのランウエイをゆっくりと、腕を組んで歩くその姿は、タイムレスな、受け継ぐ価値、を無言で表現していました。
最後は、デザインチームを引き連れてトーマスが会場を一周し、スタンディングオベーション。デザインチームの中には若い人も多く、価値が受け継がれてゆく瞬間に立ち会った気分でした。派手さはないけど、記憶に残る、本当によいショー。職人の国イタリアならではのファッショショーでした。