「ディオール」は、マリア・グラツィア・キウリがアーティスティック・ディレクターに就任して初めてのコレクションを発表した。会場は、ラフ・シモンズやジョン・ガリアーノ時代と同じく、ロダン美術館の庭で、美術館からつなげたテントは「ディオール」を象徴するグレー一色で、会場内には素朴な木の椅子とランウエイが用意された。
マリア・グラツィアは、「ディオール」史上初の女性アーティスティック・ディレクターとなる。しかし、メゾンの歴史を背負うプレッシャーや女性だからといった気負いは感じさせない、むしろそれを楽しんでいるような軽快な内容で、新しい「ディオール」の幕を開けた。
ファーストルックに選んだモチーフは、フェンシング。防具に似たキルティングのジャケットとシャツ、クロップドパンツにスニーカーという、白一色のスポーティーなルックを、赤いハートと蜂の刺しゅうだけで装飾した。マリア・グラツィアいわく、フェンシングは「思考とアクションのバランスが問われるスポーツ」だ。「マスキュリン/フェミニンとか、若い/そんなに若くないとか、そんなステレオタイプのカテゴライズ」を、衝突させることなく、“当たり前”のこととしてさらっと共存させている。そのスタンスは、結果的に、若々しい「ディオール」像へとつながっており、ラグジュアリーメゾン全体の課題である、若い顧客の獲得につながりそうだ。
防具に似たベストなどフェンシングの要素は、レースやチュールのロングドレスと絡めて展開してゆく。チュールのスカートに合わせたTシャツには「DIO(R)EVOLUTION」と描かれており、少々挑発的だ。
太いレザーのショルダーバッグに、足元はスニーカーやポインテッド・トーのフラットシューズと、アクセサリーもリアリティーがありつつ、“カワイ”く若々しい。後半は、「ヴァレンティノ」時代にも得意としてきた、ロマンチックな刺しゅうのドレスでガーリーに。繰り替えし登場した蜂、ハート、星といったメゾンのモチーフは、「ヴァレンティノ」時代にも彼女が好んだ用いたモチーフだけに、「ディオール」らしさとマリア・グラツィアらしさが自然と融合している。
スポーティーだからそこにメッセージがないかと言えば正反対だ。「We should be feminist」。服に書かれたメッセージは、ナイジェリアの女性作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェがTEDで行った「we should all be feminists」と題したスピーチから。フェミニンやエレガンスの象徴である「ディオール」が考える現代のフェミニニティーとは?ムッシュは女性たちを“解放”したが、今の「ディオール」でその“解放”の精神を受け継ぐとしたらなすべきこととは?マリア・グラツィアはこれから「ディオール」を通じてその答えを出していこうとしているようだ。そういった意味でも、デザイナーである以上に、アーティスティック・ディレクターとしてメゾンを率いる覚悟を示したデビューコレクションと言える。