ジャマイカ系イギリス人デザイナーのニコラス・デイリーが日本国内のショップ視察などのために初来日した。セントマーチン美術大学を2013年に卒業したばかりの若さながら、サヴィルロウでの勤務経験、音楽や民族的な要素をミックスしたコレクションで注目を集めている。自身のルーツや、大きな波になりつつある、ユース世代のファッション感に迫る。
WWDジャパン(以下、WWD):初来日のきっかけは?
ニコラス・デイリー(以下、ニコラス):自分のブランドを取り扱っているショップを一度見たかった。ビームスは最初のコレクションから取り扱ってくれているので、どんなショップなのか実際に見てみたかった。コレクションピースの生地を作っている工場もそうだけど、自分と近い関係性にある人やショップを大事にしたいと思っているんだ。イギリスだと電話1本で事足りるけど、日本でもその関係性を築きたいと思っている。後は買い物を楽しみたいな。
WWDジャパン:日本のファッションに触れてどんな印象を持った?
ニコラス:渋谷の街を歩いて、スタイリングや洋服のプレゼンテーションが面白いと感じた。ロンドンでは比較的決まった着こなしが多いけど、日本の若者は個々で独自のファッションを楽しんでいる。あと、遥か彼方の日本で自分の服、フィロソフィーを理解してくれている人達がいるということに驚いているよ。自分にとって良い相互関係を築けていると思えたし、クリエイションにも影響する。
WWD:メンズファッションのトレンドとして1990年代のカルチャーに影響を受けたデザイナーが注目を浴びているが、この流れをどう思うか?
ニコラス:ゴーシャ(ラブチンスキー)たちがそうだと思うけど、ロンドンのドーバー ストリート マーケットでも目立つ場所で販売されているし、本当に人気。ただ、自分はそのスタイルと異なる。ひとつのブランドで固める必要はなくて、好きなスタイルを自由にミックスして、ブランドの良い点を取り上げるミックスコーディネートが好きだね。その点では日本は進んでいると思う。
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WWD:現代版ルードボーイと称されるコレクションの背景とは対極にある、サヴィルロウでの経験はどのように洋服に活きているか?
ニコラス:テディボーイ、ルードボーイといったカウンターカルチャーが生んだスタイルとサヴィルロウのようなクラシックは一見、相反するように見えるだろう。僕は若い頃から、「カーハート」などのストリートウエアにデザイナーズブランドもミックスして着ていた。その後、ポール スミスでインターンを経験したこともあって、ストリートではない洋服、特にサヴィルロウに強い興味を持ったんだ。サヴィルロウではクラシカルなテーラリングの技術を習得した。ひたすら良い素材を追求することもね。ロンドンをベースにしているデザイナーとしては、サヴィルロウでの経験は必要だったと感じているよ。素晴らしいデザイナーにはさまざまな要素を取り込むキャパシティが必要。今となれば貴重な経験だよ。
WWD:コレクションでスーツを発表する予定は?
ニコラス:今後、自分のコレクションを進化させていくことを考えると、クラシックの要素は必要不可欠。テーラリングに特化した「ニコラス デイリー」も作ってみたいと思っている、未定だけどね。
WWD:民族的な要素など、自身の思想がクリエイションの基礎になっていると感じるが、モノ作りの視点、考え方は何か?
ニコラス:母親がスコットランド人で父親がジャマイカ人という民族的な背景が、クリエイションに強く影響している。自分の国を誇らしく思っているし、そういう環境で育ったことによって、ポジティブにいろんなことが共有できることに感謝しているよ。この間、イギリスがEUから離脱するというニュースがあっただろう。僕はEUに残ってほしかったし、そのために投票もした。今まで、ドイツ人やスペイン人の友人とコレクションを作ってきて、彼らとともに成長してきたと感じているからね。2016年春夏コレクションは、アフリカンとカリビアンの要素を融合したものだった。さまざまな民族が持つカルチャーをミックスする視点がモノ作りで重要だと感じているよ。
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WWD:広告のアンバサダーとして映画監督兼DJのドン・レッツが登場したが、彼からはどんな影響を受けた?
ニコラス:ジャマイカの血を引く、僕と全く同じルーツの人なんだ。カウンターカルチャーのアイコンでもあるし、1970〜80年代のパンクムーブメントを率いた人物として尊敬しているよ。映画「ザ パンク ロック ムービー」にも影響を受けたし。広告ではあるけれど、コネクションができて本当に嬉しかった。あとはスタイリストのステファン・マンのスタイリングもベストだった。違う時代を生きた人たちと結びつけるのは、とても喜ばしいことだよ。あとは、彼らからインスパイアされたことを、どうやって今の時代に反映するかが重要だね。今のメインストリームについては90年代のカルチャーに影響を受けたものが大きな波となっているが、ドンは「カウンターカルチャーを実体験できたのが良かった。今の時代はSNSの普及で、良い意味でも悪い意味でも、あらゆるものが目まぐるしく変化している。ファッションやクラブイベントも現れては消えていってしまうことが悲しい」と話していた。パンクやDIYの精神は残っていると思うし、既存のシステムにアンチテーゼを唱えるのはすごく重要なこと。昔、イギリス政府はパンクに嫌悪感を示していたにも関わらず、今はアニバーサリーイベントさえ肯定的。そういう時代の変化は興味深いよね。
WWD:今、個人的に気になるカルチャー、ムーブメントは?
ニコラス:音楽だね。僕にとって必要不可欠な要素だ。自分のコレクションでは常に、異なるジャンル、国の音楽をミックスしている。ポルトガルの民族音楽をエレクトロに落とし込んでみたり。ロンドンのNTSラジオというラジオ局では、仲のいい友人が働いているので、彼らから情報を得ている。「ユニクロ」とコラボしたり、イギリス国内ではちょっとしたムーブメントの発信源になっているよ。とにかく音楽が僕のコレクションには欠かせない要素。代々木公園で見かけたロッカー達のダンスも興味深かったよ。
WWD:今後はどんなクリエイションを目指すか?
ニコラス:自分のクリエイションについては、常に正直でいたいと思っている。モデルもプロではなく、友人や近い関係にある人を積極的に起用する。自分のヘリテージやバックグラウンドはブレずに表現していく。ヨージ(ヤマモト)やヒロキ(中村/ビズビムデザイナー)のように、確固たるビジョンやフィロソフィーを持ったブランドに育てたいね。2017年春夏コレクションは、母親の出身であるスコットランドにフォーカスしてジュート(黄麻)をメインにした。50〜70年代のスコットランドで作られていたのがジュート。パキスタン、インドから原料を輸入して、僕の曾祖母たちが加工していたんだよ。今作っている2017−18年秋冬は引き続きスコットランドのルーツが着想源。一方でサブカルチャーを探求することも続けていきたい。