今年は日伊国交樹立150周年にあたり、両国でこれを記念したイベントが催されているが、中でも10月7,8日に鎌倉鶴岡八幡宮、10月12,13日に池袋、東京芸術劇場で上演された「ジャパン・オルフェオ」(企画制作:友情の架け橋音楽国際親善協会)は実に興味深く、盛り沢山の新機軸が披露され、聴衆を大いに楽しませた。
「オルフェオ」は有名なギリシャ神話をもとにイタリアの作曲家クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)によって作曲され1607年2月24日にマンヴァ宮廷で初演されたオペラだ。あらすじは、死んだ妻を取り戻そうと冥界に入ったオルフェオが、自慢の竪琴と歌で奪回に成功するが、地上に戻るまで決して後ろを振り向いてはならないという約束を破り元の木阿弥になってしまう話だ。見事な構成と感動的な音楽で近代オペラの出発点とも言われる。
今回の上演は「ジャパン・オルフェオ」と銘打たれているが、これは能や日本舞踊や雅楽を折り混ぜた演出(演出:ステファノ・ヴィツィオーリ)がなされているためだ。ヴィツィオーリは「オルフェオの神話は日本のイザナギとイザナミの神話に酷似しており、今回は冥界での出来事やオルフェオの死など、重要な場面の解釈を日本的な芸術表現で深めることができた。二つの文化を学び、比較する素晴らしい機会だった」とプログラムの中で述べているが、同感だ。重層的にこの有名な神話の奥深さを感じ取ることができた。
この他にも「ジャパン・オルフェオ」ではイタリア・ファッション界との見事なコラボレーションも行われた。主人公のオルフェオ(ヴィットーリオ・プラート)やその妻エウリディーチェ(阿部早希子)を始めとした登場人物の衣装を「ミッソーニ」が担当したのだ。このためイタリアからミッソーニ・ファミリーのルカ・ミッソーニが来日した。同氏は「今回の上演でレーザー・ハープを演奏しているピエトロ・ピレリが私の友人で演出のヴィツィオーリにつないでくれた。アンジェラ(・ミッソーニ)がデザインした。2017年春夏コレクションの中でミラノでのランウェイに登場しなかったピースを中心に私がまとめた。『ミッソーニ』にとってアーティスティックものとの取り組みは少なくないが、オペラは1983年のミラノ・スカラ座の公演で父(タイ・ミッソーニ)と母(ロジータ・ミッソーニ)が衣装を担当して以来ではないだろうか」と語っている。落ち着いた色調の多色使いやアイコンの「ジグザグ」などまさに「ミッソーニ」そのものの衣装をまとった登場人物が全く違和感なしにこの「神話」の中に溶け込んでいるのが印象的だった。「ミッソーニ」というブランドの時代を超えたラグジュアリーな存在感を実感させたひとときであった。
またルカの友人ピレリが演奏するレーザー・ハープを初めて視聴したが、視覚的な驚きばかりではなく、実に音楽的で感心した。また藤間勘十郎を始めたとした日本舞踊、三浦元則の篳篥(ひちりき)を始めとした雅楽と能楽囃子、冥界の王プルトーネを演じた宝生流シテ方の武田孝史、冥界の王の妻プロセルピアを演じた宝生流第二十世宗家宝生和英などの名演も忘れられない。ともあれ、この「ジャパン・オルフェオ」は今年のオペラ上演の中でも特筆されるものと言えるだろう。なお、私が観た10月12日には美智子皇后も来場し熱心に観劇されていた。