トータル・ファッション・アドバイザーで「ヨウコ フチガミ(YOKO FUCHIGAMI)」デザイナーのヨウコ・フチガミが10月15日、京都でトークショーを開催した。京都市内で開催された京都国際映画祭の期間中に、ヨウコ・フチガミらが出演する「クリエイターズ・ファイル展」が催されたことを記念した特別企画。お笑い芸人のロバート山本博が司会進行を務め、スペシャルゲストとして迎えた児島幹規「装苑」編集長とともにファッションの持論を語り合った。なお、ヨウコ・フチガミはお笑い芸人のロバート秋山竜次が架空の人物になりきる「クリエイターズ・ファイル」企画内の人気キャラクターであり、トークショーの内容はフィクションで実際の人物とは関係ない。
ロバート山本(以下、山本):お二人はもともと知り合いなんですか? 児島さん、よく今回のオファーを受けて下さいましたね(笑)。
児島幹規(以下、児島):断る理由が見つかりませんでした。コレクションをパリで拝見した際にお会いしたいと思っているのですが、いつもヨウコ先生はその時すでにバリに行ってしまっているので。
ヨウコ・フチガミ(以下、ヨウコ):そうね、コジとは中々会えなかったわよね。私、パリ、バリ、パリ、バリと響きで動いているから。先日、渋谷ヒカリエで発表したファッションショーも取り上げてくれて嬉しかったわ。最近気になるデザイナーとか、いる?
児島:「ファセッタズム」の落合(宏理)さんが気になります。今の東京をリアルに切り取って、ストリートカルチャーをモードなファッションで表現されていますね。
ヨウコ:ああ、彼ね。全身タイツをオシャレとして取り入れたコレクションは好きだったわ。彼が「全身タイツは芸人だけのものじゃない」と語っていたのが印象的だった。東京をリアルに見せていらっしゃるわよね。イヤリングとかも、東京らしく雷おこしにしていたわね。
児島:ハンバーガーをモチーフにしたアクセサリーも人気を呼びましたね。ハンバーガーのモチーフは以前、「アンダーカバー」の高橋(盾)さんも使われたりしていました。
ヨウコ:「ナンダカンダ」のタカハシさんね。すごい方ですよね。
児島:あと、ヨウコ先生が「ミキオサカベ」にアドバイスをされたとうかがいました。
ヨウコ:若手の注目株の方よね。アドバイスしたのは「ルールを作らなくていいから、思いついたこと全部やっておしまいなさい」と言ったの。「(作った洋服が)自分のブランドっぽくないと心配するなら、もう一つ別のブランドを作れ」とも。私は今、18のブランドを手掛けています。
児島:先生の「何かに媚びるな」という姿勢にはすごく共感しています。
ヨウコ:裸が一番のオシャレだとは毎回も言っているの。裸に生地を重ねるなんてあざといのよ。お母さんの産道が一番のブティックなんだから。わたしは表参道と呼んでいます。表参道の名前の由来も確か産道からきています。
山本:違います、違いますから!
人の心を動かすものこそファッション
ヨウコ:今のファッションで流行っていることや傾向はある?
児島:男女の区別のないジェンダーレスのファッションと、そこから派生したビッグシルエットが潮流になっています。
ヨウコ:「ビッグシルエット」はねぇ。ちょっと性格悪いところあるじゃない。
山本:え、人なんですか?!
ヨウコ:「ナンダカンダ」のタカハシくんはいつも「ビッグ」を連れていたわよ?
山本:話が嚙み合ってないですよ!「ビッグシルエット」という名前の芸人じゃないです。
ヨウコ:話はちょっと変わるけど、今ファストファッションがずっとブームじゃない? 一方で、ブランドの勢いがないと思われがちなのがすごくイヤなんです。
児島:ファッションが2極化してしまいましたね。その洋服を着ることで自分が衝動を受けることがあるのか、と疑問に思うことはあります。違う景色が見られる洋服こそファッションではないかと思うんです。
ヨウコ:私のブティックはグリーンランドにありますけど、国内外関係なく「ファッションは人の心を動かすものでないと」といつも気を付けています。あと、同じ洋服を着ている人と会うと、なんとも言えない気持ちになるわよね。私ね、昔スキー場にスノボーをしにいったことがあるのね。そのスキー場には、私とまったく同じ「アルペン」のスキーウエアを着た人が10人以上いました。引きましたね。アイデンティティが出せる洋服を着ないとだめです。
渋谷ヒカリエでファッションショーを開催
山本:ではここで、「装苑」編集部の方にも来ていただいた、渋谷ヒカリエでのファッションショーの様子をご覧いただきましょう。
ヨウコ:海賊とコラボした「ヨウコ パイレーツ」、デニムラインの「ヨウコ イギリス」などを披露させていただきました。あとは、ポケTを派生させてポケットに野菜を入れた「バーニャカウダTシャツ」も発表しました。ポケットにタバコやケータイを入れるなんて、オシャレじゃありません。右手に少しアンチョビを持ってもらえれば。
児島:あと半年したら流行るかもしれませんね。ちょっと早すぎたかもしれない。
ヨウコ:あと、一番力を入れているのがシーフードコレクションです。世界で一番キレイな下半身をしていると言われているエビフライを足に、タコの吸盤を腕に、ホタテをフロントに、乾燥ひじきを頭にのせました。エビフライの脚線美って素晴らしいでしょう。
児島:ビッグシルエットのトレンドにもつながっているコレクションですね。
ヨウコ:さすがコジ。わかっているわね。
ヨウコ:思い入れがあるのはパンツTシャツね。フロント部分を貼り合わせました。盗まれて「返せ!返せ!」って走って取り返したものだったり、激しい夜のものだったり、これらのパンツすべてにストーリーがあります。パンツって見られる人が限られるじゃない。こんなにオシャレなのにかわいそうだと思って。“パンツ供養”みたいなものね。下着の固定概念を変える作品にもなったと思います。
児島:リメイクはトレンドの一つですしね。ヨウコ先生のコレクションは、ご自身のストーリーや哲学をそのまま服にのせている。メッセージがすごくストレートに表現されていますよね。ファッションの神髄を感じました。
ヨウコ:嬉しいわ。なかなかコジにそんなこと言ってもらえないじゃない。あと今回、京都とコラボした新ラインを立ち上げました。「キョウト フチガミ」と言います。Tシャツのポケットを八ッ橋で作りました。京都旅行のお土産を選ぶ時、八ッ橋とTシャツを別々に買う手間が省けるわよね。八ッ橋は皮だけ縫い付けた状態なので、あんこを今入れます。
山本:こんな洋服、売れませんよ!
トークショーの後、児島編集長に感想を聞くと「(本番の)一時間前に会場に到着しましたが、予想通りリハーサルはなし(笑)。大まかな流れは直前に教えていただきましたが、スタッフの方から『恐らくこの通りにはならないだろう』という説明もありました」と打ち明けたうえで「トークショーというよりも、即興コントに参加した気分でしたが、話に乗っかるしかない会場の盛り上がりを体感できたことは幸せでした。国内・海外問わず、これまで多くのデザイナーを取材してきましたが、間違いなく、自分史に残るデザイナー取材です(笑)」と語った。「10月28日に『装苑』の80周年記念号が発売されるのですが、そこで装苑賞の審査員を筆頭に、多くのデザイナーさんからメッセージをいただきました。仕事でも作品でも、何かを作っている方には参考になるメッセージがありますので、見ていただきたいです。会場内でヨウコ先生にも特集テーマと同じ質問をし、お答えをいただきました。その内容は、80周年記念号の発売に合わせて、装苑オンラインでご紹介させていただきます」と児島編集長。装苑オンラインでは、80周年記念号に合わせてヨウコ・フチガミの熱い“ファッションの格言”が掲載される予定だ。