一般社団法人日本雑誌協会は10月26日、創立60周年を記念したシンポジウムを一ツ橋講堂で開催した。シンポジウムは「『雑誌復権!』への道を探る」がキーワードで、2部構成のトークショーだ。
第1部のテーマは「雑誌ジャーナリズムの過去・現在・未来」。ジャーナリストの田原総一郎がモデレーターを務め、パネリストにノンフィクションライターの森功、東洋経済新報社の滝田浩章・常務取締役、新谷学「週刊文春」編集長を迎えた。今年スクープを連発する「週刊文春」のコンテンツ力を問うことに始まり、フリー編集者の立ち位置やコンテンツの価値、週刊誌のビジネスモデルの可能性など、田原総一郎ならではのジャーナリズムを深堀りする内容となった。
後半第2部は「今こそ広がる女性誌の新たな可能性」がテーマ。モデレーターはアナウンサーの中井美穂で、パネリストに今尾朝子「ヴェリィ」編集長、岩田俊「ヴィヴィ」編集長、高橋木綿子「プレシャス」編集長、湯田桂子「マキア」編集長を迎えた。各誌のコンテンツ制作方法や編集部の仕組み・育休といった社内体制、SNS活用のあり方といった女性誌ならではの話がメーンだった。
ここでは、第1部のトークショーをダイジェストでお届けする。
「週刊文春」はなぜスクープをとれるのか?
田原総一郎(以下、田原):今年、「週刊文春」がずばぬけている印象だが?
新谷学「週刊文春」編集長(以下、新谷):スクープを狙うことは時に危険ではあるが、それでもネタをとってくることが我々の仕事。加えて、「文春リークス」という情報提供サイトも役立っている。多い日には1日100件以上の口コミが寄せられる。「文春ならきちんと追ってくれるのではないか」という信頼をしていただいていることはありがたい。また、スクープを出した後も取材を続け、長いスパンでニュースを出していくことができている。ネタの賞味期限がどんどん早まっている現代において、これは新たな戦略でもある。
滝田浩章・東洋経済新報社常務取締役(以下、滝田):「東洋経済」は経済誌だから派手にはやらないが、スクープはもちろん狙っている。例えば、甘利さんの記事については「東洋経済」でもできたはず。単純にネタをとってくる力が弱かった。「週刊文春」のスクープをとりにいく力・熱意が強いということ。
森功(以下、森):フリーの立場としては、「お金をかけてでもとりあえず追ってくれ」と仕事をふってくれる媒体は少ないように感じる。「この取材者・このネタに任せてみる」という賭けがなければ、良いものはできない。加えて、この仕事は休んでいてはいけない。他誌と比較して、「週刊文春」の記者はとにかく働いているように感じる。
新谷:とにかく働いているのは事実だが、順番にきちんと休ませている(笑)。一番大事なのは、取材がやらされ仕事ではなく、当事者意識を持っているかということ。
田原:なぜ当事者意識を持てるのか?
新谷:良いネタを持ってくることが仕事だと常に言っており、現場がそれを分かってくれているからだろう。ネタの提供者と何カ月も付き合い続けて確証を得るために交渉を続けることは、やらされ仕事ではできない。現場の記者は相手を本気で口説く。信頼されるためには、相手をネタとしてではなく、人間として本気で向き合うしかない。
フリーの記者は「冬の時代」?
田原:フリーの記者は80年代から減っているか?
森:確実に減っている。最近はライターが原稿を発表できる場が減った。それに応じてフリーライターも減っているのではないか。原稿料も下がっている。
新谷:私は悲観論が大嫌い。「冬の時代」と言っていては、仕事をしない言い訳になってしまうだけ。とりあえずやることが重要。「週刊文春」編集部の約半数を占める特派契約社員には、良いネタをとってくればきちんと相当の原稿料を払っている。
滝田:「週刊東洋経済」は社内記者がメーンだが、オンラインは社外のフリーライターの力を借りている。オンラインでは固定原稿料に加えてPV連動型で、記事が見られた分だけ成果報酬として原稿料をお支払いしている。
週刊誌はどうあるべきか?
田原:落ち込みが激しい週刊誌だが、これから週刊誌はどうあるべきか?
森:人間が事件を起こす原点を考え、それを取材していくこと以外にはないはず。その成功体験が「週刊文春」にはある。みながそれを追随すべきではないか。
新谷:「週刊文春」は直球勝負。いわゆる雑誌のような斜めの切り口ではなく、事実だけを伝える直球勝負をすべきだとずっと思っている。
森:フリーの立場からすれば、週刊誌に変わるメディアがあれば、それは紙媒体でなくてもいいと思う。もちろん良いものを出せば紙でも売れる。ネットの情報はどうしても浅いように感じてしまう。
田原:「東洋経済」はオンラインも強いと聞くが?
滝田:9月の月間PVが2億、ユニークユーザーが1500万UUだった。1日何千本と記事を上げるニュースサイトとは違い、うちはコラムサイト。1日20本くらいしか上げられない中では健闘しているはず。
田原:ではオンラインへシフトすることはあり得るか?
滝田:あり得ない。オンラインで活躍する記者は紙媒体から育つこともあり、週刊誌は不可欠。限定されたページ数の中で何を訴えるか、これは紙面でないと鍛えられない。
田原:最近は重版がかかるとか?
滝田:雑誌というよりも、ワンテーマの、書籍のような内容へとシフトが進んでいる。書籍はオンラインとはかけ離れたものなので、紙でも売れる。最近は「高校力」という特集が重版にかかったが、次の週刊誌が出るようなタイミングで重版がかかったりする。長いスパンで売れるようになったのは新しい売り方だと感じた。
新しい収益モデルを考えるべき
田原:ネットの問題点は、紙媒体から情報をとっては、それをもとにニュースを作っているということ。そのせいで紙の部数が落ち、取材力が落ち、全体が悪循環に陥っているように思う。
森:ネットはキャッチーにしようとしすぎている。広告ビジネスである以上見られるための工夫は必要だが、それ以外の活路が見つかれば良いのかもしれない。
新谷:まずはスクープの価値をメディアと読者が認識するべき。他媒体メディアのスクープを流用し、「一部週刊誌の報道によると」としてネットに出すような行為は言語道断。コンテンツに対する課金をきちんとしなければいけない。我々がメシを食っていくのはコンテンツ力。お金を払う価値があると読者が思えば、お金を払ってもらえる。そのためにウェブでも課金モデルをやっている。読者に届く経路を課金モデルでどう作っていくかが重要だろう。また、デジタルならではのコンテンツは動画。動画コンテンツをさまざまな方法でお金に変えて行く方法を考えている最中だ。
滝田:経済誌でも動画は大きな可能性を持っている。ウェブの台頭で紙媒体の売れゆきが低迷したことは、生産者側から見れば流通革命。一方で読者から見れば、主権を取り戻したようなもの。店頭で決まった日にしか手に入らなかった雑誌を、好きなときに好きな端末で読めるようになった。そんな時代にどうやってコンテンツを届けるか。これまで通りの発信方法では上手くいかないだろう。また、現状で会社の利益を上げるためには、記者や現場のコストカットをせざるを得ない。ここできちんと収益を追っていくためには、利益を求めないような、ジャーナリスティックな仕事をできるような収益体制を会社として考えるべき。