「ミルク メイクアップ」の2016年秋キャンペーンビジュアル (c) Fairchild Fashion Media
メンズ用のスキンケアが人気を集める中、メイクをする若い男性が増えている。2000年以降に生まれたジェネレーションZは、SNSの活用でどこでも誰ともつながることが当たり前なうえ、ジェンダーの捉え方もかつてより性差を気にしないようになっている。これを受け、多くのブランドがジェンダー・ニュートラルなアプローチを取り始めている。
あるレポートによると、ジェネレーションZの56%が、自身をジェンダー・ニュートラルと捉える人が知り合いにいるという。また、半数以下の44%が自身のジェンダーに限定して服を買い、70%がジェンダー・ニュートラルなトイレの導入に賛成している。俳優、ウィル・スミス(Will Smith)の息子でジェネレーションZに人気のジェイデン・スミス(Jaden Smith)はマニキュアやスカートを身につけ、彼らにとってのアイコンになっている。アナリストは彼のファッションについて「彼のセクシャリティーとは関係ない。純粋な自己表現なのだ。今の若い世代はルールにとらわれず自由に自己表現することを好む」とコメント。ケンダル(Kendall)とカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)の父親のブルース・ジェンナー(Bruce Jenner)も昨年性転換手術を受け、ケイトリン・ジェンナー(Kaitlyn Jenner)に生まれ変わったことが大きな話題を呼んだ。日本ではりゅうちぇるやユースケデビルがメイクをする男子として知られている他、K-POPアイドルの多くもメイクやカラーコンタクトレンズを着用している。
「カバーガール」のキャンペーン。ケイティー・ペリー(左)とジェームズ・チャールズ (c) Fairchild Fashion Media
アメリカの人気メイクアップブランド「カバーガール(COVER GIRL)」は17歳の男子メイクアップアーティスト、ジェームズ・チャールズ(James Charles)を初のアンバサダーに起用したばかりだ。ミルクスタジオ(MILK STUDIOS)を擁するミルク グループ(MILK GROUP)の「ミルク メイクアップ(MILK MAKEUP)」も1月にジェンダーレスなブランドとしてローンチした。アイブロウアイテムが有名な「アナスタシア ビバリー ヒルズ(ANASTASIA BEVERLY HILLS)」は“ムーンチャイルド グロウ キット(Moonchild Glow Kit)”の広告キャンペーンに男性モデルを起用。セフォラ(SEPHORA)のプライベートブランドのマニキュアライン「フォーミュラ X(FORMULA X)」はゲイのユーチューバー、パトリック・スター(Patrick Starrr)とコラボし、「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」は男女兼用の色付きリップバームを秋コレクションの一部として発売した。また、ニューヨーク・タイムズ紙は「ビューティ・ボーイズ(Beauty Boys)」と題した特集の中でメイク動画を投稿する男性ユーチューバーを取り上げた。サム・チョウ(Sam Cheow)=ロレアル(L'OREAL) チーフ・プロダクト・アクセラレーターは、2つのトレンドを分析する。「1つはフレグランスやリップバームなど、女性でも男性でも使えるようなユニセックスなアイテム。もう1つは、男性は女性と肌質が異なるため、カバー力のニーズなども異なる。今後はそういったニーズに応えられる新しい商品が出てくると思う」。
「アナスタシア ビバリー ヒルズ」“ムーンチャイルド グロウ キット”の広告キャンペーン (c) Fairchild Fashion Media
ビューティ業界におけるジェンダー・ニュートラルなトレンドは、ファッションのトレンドから派生したと言える。「フッド・バイ・エアー(HOOD BY AIR)」「ヴァケラ(VAQUERA)」「ジプシー スポーツ(GYPSY SPORT)」といったブランドは、性差にとらわれないルックを数多くランウエイで発表してきた。「バーバリー(BURBERRY)」や「グッチ(GUCCI)」などもメンズとウィメンズを同時発表するなど、ビッグメゾンにもそういったも動きが見られる。
「バーバリー」2016-17年秋冬コレクションのバックステージ (c) Fairchild Fashion Media
マズダック・ラッシー(Mazdack Rassi)「ミルク メイクアップ」創業者は「われわれの商品は、誰がどのように使うかは決めておらず、その解釈は消費者に任せている。女子であれ男子であれ関係ない。人ぞれぞれの美しさにフォーカスしている。『ミルク』の商品を楽しく使ってもらうのがー番だ」とコメント。自身の名を冠したメイクアップブランドを持ち、最近アンドロジナスな香水“ジャンル(Genre)”を発売したエドワード・ベス(Edward Bess)は「今の時代、性のカテゴリー化への興味がどんどん薄れている。でもそれは『ウィメンズ』や『メンズ』といったカテゴリーに対してだけであって、性そのものへの関心とは関係ない。今はたとえ男性がブロンザーをつけても、レッテルを貼られない」と話す。
「ミルク メイクアップ」のビデオ(「ミルク メイクアップ」公式ユーチューブから)
今まで女性にしか打ち出してこなかった化粧品企業にとって、男性も使える商品を出すプレッシャーは増しているかもしれない。しかし、トレンドであるからといって容易に始めるべきではない。「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」の2017年春夏コレクションでドレッドロックのヘアが物議を醸したように、センシティブなトピックスでもあり、消費者やそのカルチャーをきちんと理解してから取り組むべきだ。
訳・北坂映梨