サザビーリーグ傘下で、ジュエリーブランド「アガット(AGETE)」を手掛けるエーアンドエスは、2013年から職場環境の改善に取り組んでいる。時差出勤制度や連続休暇制度“GO 5 ホリデー”、1年間の社内インターンシップ制度“ワンズ トライアル”など制度を拡充し、4月にはママ社員だけで構成するチームで一連の商品開発を行う“MTプロジェクト(マザーチームプロジェクト)”を発足した。社員の9割が女性の同社では、子どもが産まれると継続して働くのが難しいことや、復職の際に産休・育休前と同じポジションに戻れるか分からないということが課題だった。そこで、これまでのスキルに加え、出産や育児の経験をキャリアに生かす施策として、同プロジェクトをスタートした。チームを構成するのは、新卒から「アガット」で販売やMD、マーケティングのキャリアを積んできた小菅裕子・経営管理部MTプロジェクト担当課長をはじめ、バイヤーや生産担当などこれまでの経験もさまざまなママ社員4人(現在は1人産休中なので3人)。現在は、これまでそれぞれが培ってきたスキルを生かし、“アニバーサリーコレクション”の再構築に取り組んでいる。「“アニバーサリーコレクション”は、人生の中にある記念の瞬間に寄り添いながら、願いや思いを込められるアイテムを提案するライン。約10年前からありましたが、記念日に対するマーケットのニーズやライフスタイルも変化しているので、今の価値観に合わせてブラッシュアップすることを目指しています」と小菅課長は説明する。
“MTプロジェクト”のメンバーの業務は多岐にわたり、コンセプトやターゲット設定、商品企画、サンプル製作進行、発注、パッケージなど販促物のプランニングまでを可能な限りチームの中で完結するようにしているという。「時間的な制約はできますが、出産したからと言ってこれまで培ったスキルが急になくなるわけではない。基本的な業務は全て自分たちで完結するようにしています。そのため、子どもの病気などで急なお休みを取るときに業務をフォローし合えるよう、それぞれの主担当のフィールドを超えて動けるような体制を作っています。働きながら、新しいことを学ぶ毎日です」。また、同プロジェクトでは、設定された1カ月の勤務時間を自分で調整できるコアタイムなしのフレックスタイム制を試験的に導入。より臨機応変に対応できる働き方を認めている。
商品企画においても、母親ならではの視点が生かされている。「母になったことで新しい視点ができました。産休・育休中にブランドのことを客観的に見れたことや、ママ友のリアルな声を聞けることが、ダイレクトに仕事に生かされています」。彼女たちが手掛けた初のコレクションは8月にローンチ。結婚記念、誕生石、ベビー、ニューメモリアルの4シリーズをそろえる。「“アニバーサリー”といっても、結婚記念日や誕生日だけでなく、お友達へのギフトに使えるものや、例えば“頑張った記念”といった自分へのご褒美まで、多様なオケージョンに選んでいただけるアイテムを提案しています。中には、子どもの絵や手紙をそのまま転写することができるアクセサリーもあります」。
ママ社員だけの小さなチームでプロジェクトを円滑に進める秘訣については、「育児をしていて時間的制約があるのはやむを得ない。だからこそ、できるときに前倒して進めることを心掛けています。また、最後の2週間は猶予として取っておけるように計画を立てています」と小菅課長。「チームは皆同じ状況にあるので、助け合いはマスト。気持ちの掛け合いだけでなく、たとえ把握しなければいけないことは増えたとしても仕事内容を共有して助け合うということが大事だと思います。ビジネスである以上、もちろん責任や結果も求められますが、それが達成感につながっています」。
■ある1日のスケジュール
5:00 起床、身支度、朝食とお弁当の準備、夕食の下ごしらえ
6:30 家族で朝食
7:30 家を出る(通勤電車内でメールチェック)
9:00 出勤、売上状況などのチェック、ミーティング(商品プランニングや売上仕入計画、サンプル進行確認など)、メーカーと商談、リサーチ
17:00 退社
18:30 娘のお迎え
19:00 娘と一緒に夕食、洗濯などの家事
19:45 お風呂
20:00 娘と遊ぶ
20:30 寝かしつけ、娘就寝後に社用メールのチェック・返信など