柚木治ジーユー社長
伊藤忠商事などを経て1999年ファーストリテイリング入社。事業開発部長やマーケティング担当執行役員などを経て、2010年よりジーユー代表取締役社長。
ファーストリテイリング(FR)傘下のジーユー(GU)が快進撃を続けている。2006年10月に1号店を出店してから10年で、売上高は1878億円(前期比32.7%増)、営業利益は222億円(同34.8%増)へと急拡大。営業利益率も11.8%と高収益を上げている。ジーユーの成長戦略として掲げるのは、「最旬リアルファッションを幅広く提供し、『国民的ファッションブランド』になる」ことと、「日本市場での大量出店と、高成長・高収益の継続」、「デジタルマーケティングの進化と、Eコマース事業の拡大」、さらには、「海外事業の拡大」だ。中期的に3000億円、将来的に1兆円を目指すという。
銀座旗艦店で18日に取材に応じた柚木治ジーユー社長は、現在重点的に取り組んでいる戦略について「一つは、『ジーユー』とは何か、ブランドとしての定義を策定することだ。その実態として、商品構成やサプライチェーン、マーケティング、店などを一から作り変え、次の10年を創っていく。並行して、『国民的ファッションブランド』作りをしていく。そのために、民主的に消費者視点で服を開発するとともに、情報・デジタルを駆使して、一人一人に向けてソリューションを提供していく」と語った。
柚木治・社長との一問一答は以下の通り。
WWDジャパン(以下、WWD):1兆円達成に向けて、「ジーユー」が特に強化している戦略は?
柚木治ジーユー社長(以下、柚木):戦略は大きく2つある。一つはブランドの定義で、「GUとは何者か」を策定していく。「ユニクロ」はライフウエアであり、「こういうために世の中に存在している」「これからどうしていくのか」というものがある。われわれはこの10年、何もなく自由にやってくる中で、お客さまのニーズを探り当ててきた。結果的には「日本初のファストファッション」になれた。いわゆるリアルクローズ、リアルファッションというもので、みんなが着やすい、だけどオシャレ、というものがそれまでなかった。
「ジーユー」もスタートしたときはファミリーカジュアルだったし、ユニクロの安い版として990円ジーンズを打ち出したりもした。が、同質化ではダメだ。「自分たちはファッションだ」ということで、2011年から舵を切ってきた。その頃は、「ファッションといえば若い子だ」とヤングをターゲットにしていたが、「今やエイジレスだ」と幅を広げたり、ガウチョみたいなマスに広がるヒット商品に恵まれたりしながら、ニーズを獲得してきた。
これまではたまたま日本にファストファッションがなかったが、「ユニクロ」もあり他社もあるので、今はそれだけでは需要創造ができないない。また、海外に出ていったとき、日本では「日本発のファストファッション」でよかったが、今は海外でも日本でございますで売れる時代ではないので、「GUとは何者だ」をはっきりさせていく。その実態を作る、商品構成でありサプライチェーンでありマーケティングでありお店であり、ということを一から作り変えよう。そして次の10年を作っていこう、ということに取り組んでいる。
WWD:もう一つの戦略とは?
柚木:ブランドの定義を作っている最中だが、きれいな定義ができる前からいろいろ模索して取り組んでいこうとしている。それが「国民的ファッションブランド」になることだ。なんじゃそりゃ、という感じがすると思うが、僕らの特徴は大きく2つあると思っている。一つはとっても民主的にファッションを作ることだ。トレンドをみんなが楽しめるようにそしゃくして編集して出す。たとえば、ガウチョパンツは、キャットウォークから落ちてきたものではない。けれどもやっぱりキャットウォークにトレンドはあった。ワイドパンツで合繊で落ち感があって、楽だけどキレイという。そこにガウチョみたいな流れがきたので、それをわれわれが受け止めて、顧客インサイトは何かを探っていった。「ガウチョはスカート見えするので、はくだけでフェミニンでエレガントに見えるし、でもパンツだから楽ちんだし、オフィスにも来て行ってもいい感じがする」。あるいは「主婦もおしゃれをしている風になるけれども、子ども載せて自転車こげる」ということなどを考えていた。いざ商品化する時には、丈はどれくらいがいいのか、背が中ぐらい、高い人、低い人では違うし、でもお直しするとシェイプが崩れる。どういう丈とサイズ構成にするとみんながはけてお直しがなくてすむのかを徹底的に考えた。それを売り場に並べるときには、こうやって履けばいいですよと、それは、エレガンスでもカジュアルでもモードでも、どれも限定しないんですよ。私たちが打ち出すスタイルは3つある。「トレンドガール」「おしゃれママ」「ハンサムウーマン」で、「いろんな着こなしができますよ」と(提案している)。そして、ガウチョをはいた時には、靴はどういうものをはくのか、ソックスどう合わせるのか、トータルで提案し、みんなでファッションを楽しむという民主的な消費者視点でやっている。あくまでも高いクリエイティビティと消費者視点とが両方なければならないが、日本人ならではの、服やドレスの伝統がない国ならではの開発の仕方ができるのではないかなと思っている。
また、時代的に情報、デジタルを駆使して、一人一人にソリューションを提供していく。今、メルマガがバカバカくるけど、自分の好みや購買履歴、閲覧履歴などから、本当に欲しい情報を提供していくようにする。それは、自分の身長と同じモデルの着こなしや、共感する人の口コミ、他社製品と比べてみたいなど、いろいろあると思う。こういう時代なので、低価格なわれわれのようなところでも、まるでスマホがパーソナルスタイリストのようにサポートしてくれる。お悩み解決、夢を実現、みたいなことを、日本人の「そこまでやる!」みたいな裏側を設計したり、直接接客しなくても、おもてなしの心が裏側にあるといったようなことができるといいなと言っている。ただし、アプリとECとお店とが連動していないといけない。
WWD:グループの中で、一番最初にRFID (ITタグ)に取り組んだり、デジタル施策が進んでいるが。
柚木:これからは情報の時代だ。柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)も「情報を商品化してお届けするんだ」と言っている。あらゆる情報を集めて、それを分析、編集して、一人一人に合った形で発信していく。その最適なツールがデジタルだ。お客さま一人一人に接客がつくことは難しい。それをAIなどでやる。RFID は実験中だが、人が生き生きと働くため、できるだけ単純作業とか、人でなくてもすむところを機械がやって、結果、人は販売計画や直接接客サービスするとか、教育など、付加価値がより高いところに回る。結果、社員が成長するし、職場としての競争力や魅力が高まるし、顧客満足度が上がるということだと位置付けている。「ユニクロ」が「有明プロジェクト」をやっているので、同期をとりながら進めていく。僕らは小さいので機動力がある。トライ&エラーをして、グループの中でベストプラクティスを見つけることを期待されている。たとえば「ユニクロ」はまだチラシをやっているが、「ジーユー」はデジタル会員を増やしてチラシをやめた。そういった新しい道を切り開く役割を担っている。
WWD:海外に出ていったとき、日本発のブランドとして、これだけはマストということは?
柚木:当たり前だけれども、和風でもっていくわけではない。東京はこれだともっていくわけでもない。日本人のDNAを持って行くんだと思う。今までは、日本人はバランスをとるのがうまくて、中庸で、組み合わせるのがうまかった。トレンドでもちょうどいいデザインだったり、組み合わせやすい商品構成だったりスタイリングの提案ということにどう落とし込むかも得意だった。ただ、下手をすると、ただのミニマリズムだったりシンプルなだけだったり、薄味のファッションになる。そのデザインの完成度が高いこと。それと、ガウチョのような、消費者視点に立って「ワオ」というものを作っていかなければならない。一人一人になくてはならない「ジャパンDNA」を打ち出していく。グローバル展開は、香港に来春出店することが決まり、グレーターチャイナへの進出が確定した。次はアジア全体に広げていく。出ていないのは東南アジアと韓国だ。次がヨーロッパとアメリカだが、どっちが先か。まだ決めていないが、数年以内にチャレンジしたい、と。途中でドンと後ろから背中押されるかもしれないし、待てと言われるかもしれないが(笑)。