PHOTO BY SADAHO NAITO
PROFILE:1978年7月29日、京都府舞鶴市生まれ。大学時代にジャーナルスタンダード堀江店で販売員としてキャリアをスタート。卒業後ベイクルーズに入社。京都店店長を務めた後、2008年に退社。09年藤井大丸に入社し、フロア・マネジャーに就任。12年から現職
百貨店においてMD開発の仕事は、売り場の販売計画からイベント企画、ブランドとの商品開発まで、関わる領域が幅広い。顧客のニーズはもちろん、市場のトレンドや今注目のショップをキャッチする高いアンテナが必要になる。京都・四条通に面する百貨店、藤井大丸の玉川直樹MD開発本部主任は、セレクトショップの販売員からファッション業界のキャリアをスタート。現在は、MD開発の仕事にほぼ一人で携わっている。毎週必ず東京に出張して積極的に展示会やイベントを回り、情報を自らの足でつかみながら、京都ならではのイベント企画運営にも尽力している。「気になるコトがあったら、とにかく自分の目で確かめたい」と語る玉川主任にこれまでのキャリアや、現在の働き方について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):現在のお仕事に就くまでのキャリアを教えてください。
玉川直樹MD開発本部主任(以下、玉川):大学4年生の時、大阪・堀江のジャーナルスタンダードで販売員として働き始めました。卒業後はそのままベイクルーズに入社し、藤井大丸2階にある京都店に配属され8年ほど働き、店長まで務め退社しました。その後少し他社で働き、翌年に藤井大丸からお声がけをいただいたんです。1・2階のセレクトショップフロアのマネジャーとして、売り上げ管理やお客さま対応などをしていました。4年ほど務めたあと、現在のMD開発部に異動しました。
WWD:現職では具体的にどんな仕事をしていますか?
玉川:藤井大丸は店舗が1店のみで、社員が120人ほどのコンパクトな百貨店ですので、仕事は何でもやっています。館に入っていただくテナントのリーシング(出店交渉・契約)から、特設スペースで催すイベントやポップアップショップの企画立案・運営まで、本当に何でも(笑)。食品やカフェ、コスメ、アパレルなど幅広いジャンルを扱うので、大変なこともたくさんあります。ですが、転職してショップの縛りがなくなったことで、視野を広げることができました。前任は、20年前に全国で初めてユナイテッドアローズを誘致した担当者でした。今となってはセレクト業態は多くの商業施設に出店していますが、セレクトショップが入ったファッションビルの先駆けとしての自負を持っています。「藤井大丸は百貨店ぽくない」とよく言われますが、それでいい。フランクで感度のあるファッションの館である軸をブラさないよう気を付けています。
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WWD:藤井大丸は主要セレクトショップはもちろんのこと、ガールズ系ブランド、アウトドア系ブランドなど、カジュアルファッションを網羅していますね。
玉川:館の客層は20代後半から30代が中心です。大学の多いエリアなので、学生も多く来店します。ターゲット層に向けて、先を見据えたファッションを提案できるように、スタイルを後追いせず芯が通ったブランドを誘致できるように心がけています。こう言うのは簡単なのですが、探すのは大変ですね。“新業態”と謳ったからといって売れる時代ではなくなっています。たとえば、6月に関西エリアでは初めて「スノーピーク」を導入しました。アウトドアの背景をしっかりもったライフスタイルブランドとして、支持を得ています。
WWD:セレクトショップから百貨店に移ったことで、求められるスキルはどう変わりましたか?
玉川:ショップでは、自分たちがとにかく売って売り上げをたてることが必須ですよね。対してフロア・マネジャーは、彼ら販売スタッフをどうサポートしたらもっと売りやすい環境になるかを考えます。直接売るわけではないので、最初はどうしようかと難しかったですね。ですが根本は変わりません。藤井大丸は徹底した現場主義の会社で、マネジャーも積極的に店頭に立ちます。管理側になったとはいえ、現場が一番優先。販売員の経験や目線は、今の仕事にもかなり生かされています。ポップアップの設営を一緒に行うと、取引先に驚かれる時もあります。MD開発に求められるものは、情報量のストックと人とのつながりの幅でしょうか。ご縁がきっかけでイベント企画につながった事例は、数えきれないほどあります。そのために必要なのはコミュニケーション力と行動力で、それも長くファッション畑に携わり培われてきたものです。
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「アラビカ」の限定店は、エントランス付近に専用のコーヒースタンドを用意。コーヒーと豆の販売を行い、行列を作った
WWD:反響の大きかったイベントを教えてください。
玉川:東山に1号店をオープンして以来、人気が絶えないコーヒー店「アラビカ」のコーヒースタンドを館の玄関前に期間限定でオープンしたところ、大反響でした。まだ祇園の東山にしか店舗がなかったころだったので、人通りの多い四条通に面した立地はピッタリだったんですね。2回開催して3月、正式に1階に常設店として入っていただくことになりました。「アラビカ」はブースでの出店は今までなかったのですが、「これだ!」と思い、すぐにオファーしました。即決力とスピード感はかなり大事です。京都ならではのコミュニティーも大切にしています。6月、京都の飲食店やアパレルショップを集めたマルシェ「くらしのレシピ」を屋上で開催しました。これまでただの休憩所だった屋上のテコ入れも進めています。広すぎないスペースが気に入っていて。余計なモノを広げず、コンパクトにまとめるのが京都らしさだと思います。来年のリブランディングに向けて今動いています。
WWD:仕事をするうえでの“マイルール”はありますか?
玉川:自分の目で見て、確かめることです。情報は、ウェブやSNS上だけでは分からないことが多い。毎週最低1回は東京に日帰りで出張し、展示会回りや飛び込み営業をしています。大阪にも頻繁に行きますね。弊社は他の百貨店に比べ規模は小さいですが、その分柔軟性があり、意思決定のスピードが速い会社です。周りの人たちの紹介やご縁をきっかけに気になったモノやコトがあれば、すぐ自分の足で向かいます。部署は一人ですので抱えている仕事量は多く、特に女性の部下が今切実に欲しいところなんですが……。数珠つなぎのように人のつながりで仕事が増えるのが楽しくて、プライベートとの境目はあまりないですね。藤井大丸はインバウンドの影響をあまり受けず、地元顧客の比率が高いので、京都の方に愛され続ける館であり続けなければなりません。京都人はいい意味でミーハーですが、ただの流行りには乗らない。東京で流行っていたとしても、背景がしっかりないモノは売れないんです。出張に赴いた際は、その見極めも意識しています。地元でユニークなバックグラウンドを持つ個店を開いている同世代が多いので、こうしたローカル・コミュニティーも巻き込みながら、エリア独自の感性を発信していきたいですね。
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「くらしのレシピ」は、渡部宏一「レインメーカー」デザイナー(中)やモデルのジュン・ヘイガンら同世代のメンバーが集まり、定期的に開催している
ある1日のスケジュール
11:00 出勤前に京都市内の新店や話題の店をチェック
12:00 出社・メールチェック・デスクワーク
15:00 イベントの仕込み・商談など
フロアを巡回して館の状況を確認
週1~2回大阪と東京に出向いて新店や展示会をチェック
21:00 退社