展覧会「モン イヴ・サンローラン」(主催:公益社団法人日本服飾文化振興財団)が12月10日から、銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開催中だ(12月25日まで)。これは、「雨音はショパンの調べ」などのヒット曲でも知られる歌手でモデル、女優としても活躍していた小林麻美が財団に寄贈した「イヴ・サンローラン」のビンテージ約180点から厳選されたルックを披露したもの。小林は今年、7月20日発売号の「クウネル(Kunel)」(マガジンハウス)9月号の表紙を飾り、「伝説のおしゃれミューズ」の連載を開始するなど、四半世紀ぶりに芸能活動を再開している。時を超えて色あせない「イヴ・サンローラン」の魅力そのままに、今もファッションミューズとして注目を集める小林に、「イヴ・サンローラン」や洋服に対する想いを聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):今回の展覧会では、小林さんが寄贈された「イヴ・サンローラン」のビンテージをコーディネートして飾る一方で、ビンテージとUAのリアルクローズをミックスしたスチール画像やバーチャルファッションショーの映像を流すなど、趣向を凝らしていますね。
小林麻美(以下、小林):当時の服をそのままストレートに着せたものもミックスしたものもとてもきれいで、「やっぱり好き!」と改めて感じました。シルエットがとにかく美しいですよね。しかも、今の要素を盛り込んでも違和感なく合わせられるというところもすごい。トラッドがベースにあるからですね。「ラルフ ローレン」もそうですが、だからずっと大好きなんだと思います。
WWD:いつごろから「イヴ・サンローラン」を着るようになったんですか?
小林:18歳からなので、1970年ぐらいのものからですね。それこそ値段も高かったし、そんなにお金もなかったですから、セールを狙って買いに行ったりもしましたし、知り合いの店員さんにセールになったら連絡をもらったりしていましたね。実家暮らしだったので、働いていただいたお金は、ほぼほぼ「イヴ・サンローラン」に費やしていました。
WWD:大切なコレクションをなぜ寄贈しようと?
小林:20年間、ずっと買い続けてきたのですが、結婚をして子どもを育てるようになってからは着る機会がなくなり、実家のクローゼットにしまったままになっていたんです。思い入れのあるものばかりなので、誰かにあげるという気持ちにもなれず、重松(理ユナイテッドアローズ名誉会長)さんが財団を立ち上げられたと聞き、若い方々のお役に立てるのであればと寄贈させていただきました。お嫁にもらっていただき、こうやって日の目を見せてあげられて本当に幸せです。「サンローラン」は本当にステキなデザインがたくさんあるので、1人でも多くの方々に見ていただけたら嬉しいですね。
WWD:10代のころからファッションアイコンとしても人気がありましたが、衣装はどうやって決めていたのですか?
小林:お洋服が大好きでしたし、自分で買ったものだからどんな風に着ても規制がなかったので、雑誌に出るときなどにも、全部自分で決めていました。服を買ってきては手持ちのものと組み合わせてみて、鏡の前でチェックしたり。
WWD:若いころから独特の雰囲気を醸し出されていましたが、ご自分でセルフプロデュースされていたんですね!
小林:本当にお給料のほとんどを洋服につぎ込んでいましたから。洋服好きは不治の病ですね。今も治りません(笑)。
WWD:今年7月20日に発売された「クウネル」でお仕事を再開されましたね。なぜこのタイミングで復帰しようと思われたのですか?
小林:25年間子育てをして、子どもとだけ向き合う時間を過ごしてきました。子どもが成長して手が離れて、家族の生活も少しずつ変化していく中で、ある時ふっと、いつ死ぬか分からないし、これから先、イヌとネコとだけとかかわっていくのではなく、まだまだやりたいことがあるんじゃないか、と思うようになったんです。もちろん、お仕事からは四半世紀も遠ざかっていましたし、体力的なこともありますし、昔みたいな形ではないですが、自分でできる範囲でオファーをいただけたらお仕事をしてみようかな、なんて考えていたんです。そんな時、淀川(美代子・編集長)さんのことも存じ上げているわけではなかったのですが、お話をいただいて、ちゃんとできるかどうかもわからなかったのですが、何事もトライあるのみだなと思って。ふっと「やってみよう!」と思えたんです。
WWD:連載のタイトルと同じ、まさに「伝説のおしゃれミューズ」であり、今もお洋服が大好きとのことですが、最近好きな服は何ですか?
小林:「サンローラン」は相変わらず好きですね。エディ・スリマンの頃のものは、ロックだしフェティッシュだし、メンズが好きでよく買っていましたね。今日履いているパンツもメンズですし、エディ時代のメンズジャケットも何枚か持っています。もちろんそれだけではなく、「クロエ」などいろいろ着ますね。デザイナーさんもステキですし。でも、やっぱり「ラルフ ローレン」は永遠(とわ)に好きだなって改めて思っています。
WWD:どんなところでお買い物をされるんですか?
小林:プロパーのショップだけでなく、アウトレットにも行くし、セール狙いで出掛けたりもします。何かを買いに行くというよりも、「何かいいものがあるんじゃないか?」と探すのが楽しいんです。私、“洋服の神様”に好かれていて、ふっとお店に入ると、「これだ!」というものに出合えるんです。この前も下北沢の古着屋さんでとってもきれいな男物のスカーフが4000円で売っていたり。洋服の神様からのご褒美があるんです。「残り物には福がある」ってよくいわれていますよね。それ、本当だと思うんです。だから、自分の足と目と手と総動員して探しますよ。
WWD:古着もお好きということですが、最新トレンドに対する興味はお持ちですか?
小林:トレンドはずっと見ていますし、今何がはやっているのかは絶対気になりますね。私はバッグは決まったもの(「シャネル」と「エルメス」)だけだし、アクセサリーも好きなパールとかジュエリートレイに収まるぐらいの限られたものしか持っていません。でも、靴は大好きなウエスタンブーツなど定番は別ですが、毎シーズン買い換えていますね。靴がトレンドのものだと他のアイテムがそれほど新しいものでなくても今らしさが出ますから。たとえば、今年だったら「サンローラン」のぺったんこのリボンローファーや、ちょっとファーがついたもの、ヒールの太いブーツで少しエレガントなどものなどですね。
WWD:スタイリングするときに大切にしていることは?
小林:「自分に近付け!」「自分らしく!」と念じています。鏡を見ながら、何か違うなとかどこかコンサバすぎているなとか、けっこう考えますし、日々、トライしながら楽しんでいます。子どもの世代では、車もいらない、洋服もいらない、お金が入ったら貯金する、という声も聞きます。堅実だなとは思いますが、私たちの時代には信じられないし、ちょっと寂しいですよね。もちろん、ネットとかゲームとかもっと楽しいこともあるのでしょうが。洋服は自分のテンションを上げてくれるもの。「欲しい」という思いが、働いたり、頑張ったりできるパワーになりますよね。「好きなもの買っちゃった!また働こう!」って、エネルギーをぎゅっと高めてくれるし、それが夢をかなえる力にもつながってくるのではないでしょうか。それに、ステキなものを見ればテンションは上がります。「モン イヴ・サンローラン展」も、ぜひ見ていただけたらと思います。