PHOTOGRAPH:YUSUKE MIYAZAK(I SEPT)、STYLING:CHIE ATSUMI、HAIR:KOTARO(SENSE OF HUMOUR)、MAKE-UP:KOUTA(EIGHT PEACE)、MODEL:KRISTIN Z(BRAVO)、LARA(BRAVO)、NASTYA AB(BRAVO) 左:ジャケット13万5000円、中に 着たシャツ13万5000円、パンツ9万3000円 以上ステラ マッカートニー(ステラ マッカートニー ジャパン 03 - 6427-3507)、シューズ7万4000円 ジミー チュウ(03 -5413 -1150)、左耳2連イヤーカフ59万円 レポシ(エストネーション 03 -5159 -7800) 中:ジャケット 33 万5000円、中に着たシャツ9万円、パンツ8万3000円 以上ラルフ ローレン コレクション(ラルフ ローレン 0120 -3274-20)、シューズ9万6000円 ジミー チュウ 右:ジャケット14万1000円、中に着たブラウス6万4000円、パンツ5万9000円、シューズ6万6000円 以上マッ クスマーラ(マックスマーラ ジャパン 03 -5467-3700)
「WWDジャパン」11月28日号では、「働く女性にスーツは必要?増える女性管理職がキャリア市場を救う」と題した特集を掲載した。取材を始めた10月半ばは折しも、小池百合子・東京都知事が築地市場の豊洲移転問題に鋭く切り込み注目を集め、アメリカでは大統領選が大詰めだった。特集担当記者は世の中の大勢同様、民主党のヒラリー・クリントンが米国初の女性大統領に決まるだろうと、“ なんとなく”思い込んでいた。しかし11月8日、ドナルド・トランプ勝利という結果に、記者の気持ちもグラリと揺れた。
ヒラリーが特に選挙戦後半に好んで着たパンツスーツは、彼女の強いリーダー像を演出し、#pantsuitnation(パンツスーツの国)というハッシュタグとともにツイッターなどのSNSで拡散された。ビヨンセはヒラリーを応援するためにブルーのパンツスーツのバックダンサーとステージに上がり、自身もパンツスーツでパフォーマンスを披露した。そんなヒラリー効果で米国内でのパンツスーツの売り上げが伸びたというが、まさかの敗北。フツウの女性たちから共感を得られず、ロールモデルになれなかったとも聞く。共感の時代といわれる今、スーツやジャケットを着る強い女性リーダー像は、古いのだろうか?
ヒラリーの、特に真っ白なジャケットとパンツのスーツは確かに、1980~90年代風キャリア女性、男性と肩を並べて“戦う”女性のイメージをほうふつとさせる。2016年の今は、男性とは戦うのではなく支え合う、女性の支持者へは指示を出すのではなく共に歩く、そんなメッセージを演出するためにはむしろジャケットは脱ぎ、ブラウスやセーター、スニーカーなどがふさわしかったかもしれない。それがヒラリーのアイデンティティーと合っているかは別の話だが。
READ MORE 1 / 2 日本の管理職女性は相手を思いやりネイビーのジャケットを着る
一口に女性リーダーといっても、大国を導くヒラリーと、企業の中間管理職ではもちろん立場も役割も異なる。本特集に登場した女性リーダーたちは、ジャケットを着る理由について、男性たちと戦うのではなく、協調するためだという。まだまだ男性主導の企業や社会において、その場に「なじむ」ためにネイビーやグレーのダークカラーのジャケットを必要としている女性リーダーは多い。彼女たちは「馴染む」ことは迎合ではなく、仕事相手への思いやりであり、その世界を作り上げてきた先駆者たちへの尊敬の念の表現であると口をそろえる。自分の好きなファッションとは全く違う、服装の役割がそこにはある。
ジャケットほど、ブランドのアイデンティティーが如実に出るアイテムもない。肩のライン、身幅、丈、ウエストの位置、ポケット。パーツが多い分、個性が豊かだ。ボトムスだけを並べたらブランドの違いを言い当てるのは難しいが、ジャケットとのセットアップだと違いは明快で、デザイナーの世界観とジャケットのデザインは密接であることがよく分かる。
特集の取材中、こんな話を聞いた。ある大手アパレルメーカーは、納品時にジャケットにしわがつかないよう、畳みやすさを優先したパターンを採用しているという。着心地のよさを追求すれば、ジャケットの袖は前振りになったり、肩・肘・背中といった体の動きが大きい箇所には適度なゆるみが生まれたりするから、畳めばしわがつく。きれいにたためることと、きれいに着られることは両立しにくい。
READ MORE 2 / 2 相手を立てるジャケット
企業の社長や管理職、医師や“サムライ業”と呼ばれる弁護士、会計士などの専門職に就く女性たち。職種こそ違えど、リーダーはおしなべて、仕事の中でいくつもの顔を持つ。上に立ち、指示をすることだけが仕事ではない。商談の駆け引きの場では時に相手を圧倒する「強さ」が必要である。一方で、「お願い」「謝罪」といった相手の立場より一歩下がって頭を下げる場面では、誠実さがが問われる。自分の本音とは違う言葉を口にしなければならない局面もあるだろう。
「ジョルジオ アルマーニ」は昨年、スタンダートアイテムを集めたライン“ニュー ノーマル”をスタートした。今年初めにパリで開かれたお披露目の場で、デザイナーのジョルジオ・アルマーニはこんなことを言っていた。「昔の女性たちは男性と肩を並べるためにジャケットを必要としていたが、今は違う。仕事の場でも頑張らずに自然体でいられる」。“ニュー ノーマル”のジャケットは実際、90年代風のパワースーツではなく自然体で着られるもの。派手さはないが、相手に無言のうちに敬意を伝えるフォーマル感がある。銀行に融資の依頼に行く、はたまた部下のミスをカバーするために謝罪に行く。そんな局面での管理職の肩を少し軽くしてくれそうだ。「マックスマーラ」のジャケットしかり、生地にこだわったメンズ仕立てのテーラードがうまいイタリアには、この“寄りそう”タイプのジャケットを得意とするブランドが多い。
女性リーダーは、男性が大勢を占める業界団体の集まりなどで「華となること」を求められることもある。「サンローラン」のスモーキング・ジャケットはセレモニーの場で華になるには最適だ。サテンのショールラペルの艶は、多少弱気で疲れている自分にも、自信をもたらしてくれる。ヒラリーをはじめ、多くのエグゼクティブ女性に愛されている「ラルフ ローレン」の白いタキシードスーツも「華」となれることに間違いない。
もうひとつ、リーダーの仕事で重要なのが決断だ。リーダーとは時に孤独なもの。何かを独断で決めなければならない時は、「セリーヌ」の80年代調でどこかハスッぱなダボダボのパンツスーツや、「ステラ マッカートニー」の超ワイドパンツを端正なジャケットと合わせるというのはどうだろうか?部下から「憧れの対象となる」という、女性リーダーとしての大切な役割も果たせそうだ。