「ミタスニーカーズ」の国井栄之クリエイティブ・ディレクター
上野のスニーカーショップ「ミタスニーカーズ」の国井栄之クリエイティブ・ディレクターがこのほど、講演を行った。「ミタスニーカーズ」といえば「ニューバランス」や「アディダス」「ナイキ」など、国内外の様々なブランドと協業し、数多くの別注スニーカーを手掛けている。国井は壇上にターニングポイントとなったスニーカーや特に思い入れのある7足のスニーカーを並べ、それぞれの思い出を語った。
「ナイキ」エアフットスケープ"ウエノ/シティアタック"(NIKE / AIR FOOTSCAPE "UENO / CITY ATTACK")
「ナイキ」エアフットスケープ"ウエノ/シティアタック"
初めて携わったモデル「エアフットスケープ"ウエノ/シティアタック"」はミタスニーカーズでアルバイトとして働いていた22、23歳の時に手掛けたもの。同じ上野のスニーカーショップ「山男フットギア」で働いていた友人と話をしていて、この企画を思いついた。当時はまだアルバイトだったから、自分で名刺も作り、当時の「ナイキ」企画担当者に直談判。担当者も面白いからやろうよと話を聞いてくれた。実現したのは運が90%、タイミングが10%。若かったので右も左もわからず、アグレッシブに動いたのが良かった。この企画がなければ今の僕はない。最初に自分の夢を叶えてくれたのは「ナイキ」だ。
「ニューバランス」MT580"ヘクティクxミタスニーカーズ" "第一弾"(new balance / MT580 "HECTIC × mita sneakers" "第1弾")
「ニューバランス」MT580"ヘクティクxミタスニーカーズ" "第一弾"
原宿にショップを構えていた「ヘクティク」の真柄尚武さん・江川芳文さんと手掛けたモデル。当時オリジナルモデルのMT580は、ワゴンセールで3000~4000円くらいで売られていた。オファーをもらった時、「せっかくのチャンスなので、自分たちが好きなモデルでやりたい」となった。プレゼンでMT580と言ったら、会議室が一瞬凍った(笑)。中には、「MT580ってなんだっけ?」というくらいの社員の方もいて。それから10年以上にわたり、同じモデルでコラボを続けた。今年オリジナルモデルが20周年を迎え、再び当時のメンバーで企画したコラボは即日完売。このモデルをきっかけに、欧米やアジアでも「ミタスニーカーズ」の知名度がアップした。中国や韓国の人には、「この別注モデルをきっかけに、『ニューバランス』をファッションアイテムと思えるようになった」と言われることも。
「アシックスタイガー」 ゲルライト3 "虎視眈々" "ミタスニーカーズ"(ASICS Tiger / GEL-LYTE III "虎視眈々" "mita sneakers")
「アシックス」アシックスタイガー ゲルライト3“虎視眈々”,“ミタスニーカーズ”
「オニツカタイガー」も「アシックスタイガー」もそうだが、「アシックス」のスニーカーは海外から逆輸入的に盛り上がる。日本では部活のイメージが強く、タウンユースという考えはなかった。けれど僕は10年以上前から「日本でも『アシックス』はタウンユースでカッコよく履けるのに」と思っていて、8年前にこのコラボレーションを実現した。そういう意味でターニングポイントになった。当時の「アシックス」のシューズは、アシックスタイガーストライプが目立ってスポーティーさが際立つデザイン。その色を目立たなくさせることで、「よく見たら『アシックス』ってかっこいいよね」と思ってもらえるようにしたかった。オリジナルモデルは白×グリーンのスポーティーなシューズ。それをどこまで覆せるかを考えた。
「プーマ」ミタクライド "ミタスニーカーズ"(Puma / MITA CLYDE "mita sneakers")
「プーマ」ミタクライド "ミタスニーカーズ"
10年ほど前にやらせてもらったもので、今年アップデートバージョンを発売した。当時はコラボレーションを企画する時にはショップロゴが主張するようなデザインは避けてきたが、「プーマ」のグローバルチームに説得された。ショップ名を入れた最初のモデル。
「ナイキ」エアフォース1サクラ "ウエノ/シティアタック"(NIKE / AIR FORCE I SAKURA "UENO / CITY ATTACK")
「ナイキ」エアフォース1サクラ "ウエノ/シティアタック"
「ナイキ」エアフォース1 "温故知新" "ミタスニーカーズ"(NIKE / AIR FORCE I "温故知新" "mita sneakers")
「ナイキ」エアフォース1 "温故知新" "ミタスニーカーズ"
「温故知新」を制作したときにプロモーションとして、桜柄をレーザーで焼き印したエアフォース1を作る構想があった。その時に思ったより完成度が高いモノができたので、上野地区限定で販売するシティアタックとして再度企画したのが「エアフォース1サクラ "ウエノ/シティアタック"」。ボックスにもこだわりたいと、木箱に入れて販売した。上野の5店舗限定で500足限定で販売したがどこの店も長蛇の列。ショップの垣根を越えてみんなで共通の企画で盛り上がることができた。「こういう盛り上がりは、町おこしにつながるのでは?」と思っている。
「アディダス」ゼットエックス8000ミタ "ミタスニーカーズ"(adidas / ZX8000 MITA "mita sneakers")
「アディダス」ゼットエックス8000ミタ "ミタスニーカーズ"
「アディダス」はドイツのブランドだが、日本ではアメリカから入ってくる「アディダス」のイメージが強く、NBAやヒップホップなどの文化とともに語られることも多かった。「ZX」というモデルはヨーロッパではポピュラーと聞いていたが、実際にドイツを訪れるまで実感が湧かなかった。今ではようやく、ヨーロッパから入ってくるスニーカーの情報も受け入れられるようになってきて、それをきっかけに「「スーパースター」「スタンスミス」に加えてEQTシリーズなどを履く人が増えている。
当時のエキップメントシリーズにはエキップメントロゴがついていて、過去のモデルを復刻するにしてもトレフォイルロゴとエキップメントロゴの壁も厚かった。それを壊したくて、あえてエキップメントカラーでZXを作った。最新技術をタウンユース用のシューズに流用して新しいものが作れるのならばそうするべき。「アディダス」へのプレゼンでもそういうことを伝えたくてこのスニーカーを提案した。
上記の7足に限らず、数々の別注モデルを手掛けては完売を繰り返してきた国井クリエイティブ・ディレクター。スニーカー業界の魅力について、「縦寸が違うだけで、サイズが世界中で統一されていること。もう一つは、同じ靴でも素材と色が違うだけでその価値に雲泥の差が出ること」と説明する。講演の最後には若手へのメッセージとして、「社内よりも社外に仲間を作った方が良い。チャンスをくれる人はたくさんいるし、理路整然とした話でなくても後輩の話を聞いてくれる人はたくさんいる。世代を超えたコミュニケーションが必要」とエールを贈った。