源馬大輔/クリエイティブ・ディレクター PROFILE:(げんまだいすけ)1975年生まれ。96年に渡英し、英ブラウンズのバイヤーを経て、2002年に帰国。中目黒でセレクトショップのファミリー(FAMILY)を立ち上げる。その後、独立し、07年に源馬大輔事務所を設立。ルイ・ヴィトン ジャパンが運営していた会員制ショップのセリュックス(Celux)のディレクションを行う。現在では、香港のセレクトショップのジョイス(Joyce)やレーンクロフォード(LANE CRAWFORD)でバイイング・コンサルタントを担当。07年「サカイ」のクリエイティブ・ディレクターに就く
リード エグジビション ジャパンはこのほど、国内最大のファッション見本市国内最大のファッション見本市「第7回 ファッション ワールド 東京」を東京ビッグサイトで開催した。期間中には、「サカイ(SACAI) 」のクリエイティブ・ディレクターを務める源馬大輔がセミナー登壇。ディレクションの仕事やドメスティックブランドが海外で成功するための秘訣などを語った。聞き手は、「WWDジャパン」の向千鶴・編集長。
向千鶴「WWDジャパン」編集長(以下、向):「サカイ」ではどのような仕事をしているのか?
源馬大輔ファッション・プロデューサー兼クリエイティブ・ディレクター(以下、源馬):主に、モノ作りやキャンペーン、ファッションショーなど「サカイ」の見せ方にまつわる全てを担当している。ブランドデビューから18年目を迎えるが、私はパリに進出しようとしていた10年前(2007年)から携わっている。
向:阿部(千登勢「サカイ」デザイナー)さんからは、どのように仕事の依頼を受けたのか?
源馬:一語一句は明確に覚えていないが、「『サカイ』を一流のブランドにしたい」とのオファーを受けた。「サカイ」は服そのものがすばらしかったので、阿部さんの言葉に共感した。自分にとっても新たなステージだと思い、取り組んだ。
向:「WWDジャパン」は、「サカイ」のビジネスが年商100億円を超えたと報じた。成長要因は強力なチームワークだと思う。それぞれのキーパーソンは?
源馬:何を投げかけても120点の答えが帰ってくる一流のスタッフがそろっている。特に、スタイリストのカール・テンプラーが全てを変えた。彼から直々に「自分がスタイリングをしたい」というオファーがあったが、われわれも西洋で見せるためには、ブランドに西洋のフィルターをかける必要があると考えていた。カールは、スタイリストという領域を超えて一緒に仕事をしている。カールにはパリで勝負するならば「王道を行くのか、アウトサイダーを狙うのか」と選択肢を与えられたが、われわれは“王道”を選んだ。
向:王道とは“ラグジュアリー・ブランド”ということ?なぜ、王道を選んだのか?
源馬:カールからは「どちらでも勝負できる」と言われた。“アウトサイダー”は具体名が出てしまうので言えないが、日本の“アウトサイダー”の枠は既に埋まっていた。そして、阿部さんはものすごい負けず嫌いで、とにかく勝ちに行きたいという気持ちがあった。こういう精神はデザイナーにとても大切。
向: ランウエイに一流のエディターやバイヤーも来るようになったのは、PRの力だ。
源馬:PRはアニータ・ボジシュコスカ。主にグローバルのPRストラテジーを担当している。単なる媒体への貸し出しなどではなく、一緒になって企画の仕掛けを考えている。彼女が他のプレスと異なるのは、電話一本で相手の心をがっちりつかんで離さない、グリップ力があること。
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向:「サカイ」のシューズはピエール・アルディが担当し、17年春夏にはバッグがスタートする。一般的にラグジュアリー・ブランドの売り上げは、6〜7割がバッグといわれるほど、アクセサリーはビジネスに欠かせない。初のバッグ・コレクションには「マーク BY マーク ジェイコブス(MARC BY MARC JACOBS)」でクリエイティブ・ディレクターを務めたケイティ・ヒリヤーを起用した。
源馬:もともと友人だったケイティは、歳も近く、同じ価値観を持っていた。誰かと協業する場合は、僕らが何をやっているのか、しっかり知ってもらうことが大切だ。このバッグ・コレクションは、ケイティにアイデアを出してもらってから、何度も話し合いを重ねたもの。しかし、バッグはまだ始めたばかり。現状で満足したらダメだ。さらに努力を重ねていきたい。
向:最近は「ナイキ(NIKE)」やアップル(Apple)の「アップルウォッチ」などとのコラボレーションも話題になった。コラボの相手はどういう基準で選んでいるのか。
源馬:コラボの秘訣は、自分たちが心から楽しめるかどうか。商品を一緒に作るのは非常に大変なことだが、阿部さんは苦労をしてでも、自分が身につけたいものを追求する。実は、私の20年来の友人が「ナイキ」とのコラボを担当していたが、商品ができあがるまでは、その友情関係が壊れてしまいそうな程、口論をした(笑)。結局、でき上がりの商品が全てだから。クリエイションだけでなく、売り上げも評価の一つだと考えている。
向:源馬さんは香港のレーンクロフォードやジョイスでも仕事をしている。海外で日本のブランドが成功するために必要なことは何?
源馬:レーンクロフォードでは、日本のブランドをどのように表現して、見せていくのかを仕事にしている。海外に出て行くには、ブランドの世界観を正しく伝えることが大切。成功するには勝負するマーケットを知るべき。プライスレンジも大切で、値付けの方法論も知らなくてはならない。実際にとてもいいのに、値段の付け方で損しているブランドも見受けられる。そして、デリバリーの正確さ。そうでないと、バイヤーの食指は動かない。そういったことを踏まえて、勝負しないと。海外に出るにはお金がかかる。念には念を入れないと。
向:英ブラウンズでバイヤー経験をした。その頃に学んだことで印象的だったことは?
源馬:25歳のときの話だが、取り引きをしていたブランドが、“他のショップに卸すから”という理由でキャンセルしてきた。生産やバッティングの問題かもしれないが、オーナーであるジョアン・バーンスタインが激怒。その時、いい商品を作るだけではダメなんだと悟った。一過性ではなく、プロフェッショナリズムが求められる。ビジネスの話がしっかりできないと、「このブランド大丈夫?」って思われてしまう。
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「サカイ」2017年春夏コレクション Photo by GIovanni Giannoni
(ここからは観客との質疑応答)
Q:「サカイ」以外で、若いドメスティックブランドと仕事をするなら、どのブランドを選ぶ?
源馬:「リトゥンアフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS)」の山縣良和さんや「マメ(MAME)」の黒河内真衣子さん。野心があって、面白い人と仕事したい。
Q:ディレクションで最も大切にしていることは?
源馬:短期、中期、長期の目標を持つこと。何をしていくのか、一つずつクリアにして、達成するのが近道。
Q:先月、海外に店舗をオープンした。日本より富裕層がいると聞いて、よいブランドを集めてアプローチすればと利益を得られると思ったが、PR不足なのか、なかなか厳しい。何かアドバイスがあれば。
源馬:多くのブランドやお店がある中、プレスの存在は大切。雑誌を読む人が減少する今、どのようなプロモーションで足を運んでもらうか考えなければ。例えば、トランクショーを開くとお客さまは、オーナーやデザイナーのパーソナリティーなどを知りたがる。ファンや顧客は、そういう販促の繰り返しで生まれるもの。香港は景気が悪いが、ジョイスやレーンクロフォードは顧客へのプロモーションに長けている。手間もお金もかかるが、地道なパーソナルな付き合いが大切。お客さまをランチイベントに招いてもいいと思う。
Q:世界中にはたくさんのブランドがあるが、東京をベースにブランドを立ち上げる意味は何だと思う?
源馬:簡単に海外に出て行ける今は、東京をベースにすることは決してハンデではない。いろんな目標を立て、世界の人と勝負するという心構えは持っていた方がいい。
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