ここ数シーズンのパリ・ファッション・ウイークでは、「ヴェトモン」や「コーシェ」など新たな才能が続々と頭角を現している。2017年春夏はそんな若手デザイナーたちの活躍が定着し、彼らのブランドがパリコレ序盤の大きな目玉になった。ここでは、特に今後の飛躍が期待される実力派4人を直撃。クリエイションに対する姿勢や思いに迫る。第1回は、「ジバンシィ」や「ルイ・ヴィトン」でキャリアを積んだフィンランド人デザイナーのトーマス・メリコスキが手掛ける「アアルト(AALTO)」にフォーカスする。
“今世界で起きている出来事から感じたことはモノづくりに反映すべき”
WWDジャパン(以下、WWD):毎シーズン、スカンジナビアの文化や社会の要素をクリエイションに反映している。今季は「ムーミン」とコラボレーションしたが、その経緯は?
トーマス・メリコスキ「アアルト」デザイナー(以下、メリコスキ):僕にとって「ムーミン」は社会のあるべき姿の象徴なんだ。いいヤツもいれば、意地悪なヤツもいるし、賢いヤツもいれば、おバカなヤツもいる。愛されキャラもいるし、一匹オオカミだっている。みんなそれぞれ個性的であることが魅力なんだ。だけど、僕らが暮らす社会は今、それとは真逆の方向に向かっている。特にヨーロッパでは壁を作り、移民を受け入れようとしない右翼的な動きが強まっていて、これは僕らの社会が進むべき方向ではないと思う。何でも悪いところばかりを見て暗い未来を想像するよりも、強みとして生かすことを考える方がいいだろ?僕は、個々の多様性が社会にとっての強みになると信じているんだ。
WWD:そんな「多様性」は、今季のコレクションのキーワードにもなっていた。
メリコスキ:今世界で起きている出来事から感じたことは、何らかの形で自分が作るものに反映すべきだと思う。だから今シーズンは、意識的にデザインへの幅広いアプローチを用いた。ショーでは通常のプレタポルテに加えて、ビンテージウエアをカスタマイズしたカプセル・コレクションを披露して、刺しゅうやスワロフスキー装飾、ペイントなどの手仕事でトーベ・ヤンソン作の絵本「デンジャラス・ジャーニー(邦題:ムーミン谷へのふしぎな旅)」の世界を描いた。全てアトリエでの手作業で仕上げた“アーティザナル”なピースさ。産業的なプロセスにだけに縛られたくなかったからね。アイテムもテーラリングからカジュアルウエア、ドレス、パーカまで多彩で、それらをミックスして最終的にはエレガンスを感じさせるスタイルに落とし込むことを心掛けたよ。