米ランジェリーブランド「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA'S SECRET)」は11月30日、毎年恒例のファッションショーをパリのグランパレで開催した。テロによる観光客減などのダメージなどを払拭するかのように、ジジ・ハディッドやケンダル・ジェンナーらトップモデルたちが降臨。厳重な警備の中、総勢51人のモデルが華やかなランジェリーと、天使をイメージした羽根のオブジェを背負って、約35メートルのランウエイに登場した。観客動員数は1300人だった。パフォーマンスを行ったのは、レディー・ガガ、ブルーノ・マーズ、ザ・ウィークエンドで、彼らの歌に乗せてモデルたちがノリノリでウォーキングし、世界有数のエンターテインメント型ファッションショーを盛り上げた。
1時間におよぶショーの模様は、12月5日にアメリカの放送局CBSを通じて、世界190カ国以上で放送された。それに向けて会場には約6300kgの備品、28km分のケーブルをアメリカから輸送。モデルを映すベストな角度で撮るため、同じショーを2回行ったといい、スケールの壮大さと、そこに投じられた多額の資金と労力が垣間見えるものとなった。
日本メディアで取材したのは、「めざましテレビ」と「FOX」で、日本から入ったのは、「WWDジャパン」の協力スタッフでもあり、海外モデルのブッキングなどを行うバズライトの梶田泰司・代表取締役や、博報堂の吉田直人コンテンツ・プロデューサーら数人だけだった。
梶田代表らはバックステージで、マーサ・ハント、ジャスミン・トゥークス、ステラ・マックスウェル、テイラー・ヒルの4人のモデルを取材。ヘア&メイクアップ中の彼女らは、気楽にインタビューに応じてくれたと明かす。
特に「マイケル・コース」や「ミュウミュウ」などのビッグブランドの広告にも抜擢され、今まさに“旬”のテイラーは、「昔から夢みていた『ヴィクトリアズ・シークレット』のショーに出られることはいまだに信じられない。この日を迎えるまで、みんなハードなトレーニングをしたり、食事にも気を遣い、さまざまな準備を行ってきた。とても楽しみにしてきたの」とコメント。
毎年注目される超高額の「ファンタジー ブラ」を着用したのは、新たにヴィクシーモデルに採用された、ジャスミンだ。今年は制作時間700時間を費やし、9000の宝石をちりばめており、価格は300万ドル(約3億4500万円)に達した。ショーの直前に直撃したジャスミンは、「今まで『ファンタジー ブラ』を着用してきた歴代のスーパーモデルの仲間入りできることは本当に光栄なこと。緊張しているが、とても楽しみ」とニッコリ。日本からのお土産として「すっぽんプラセンタ」を贈られ、さらに大きなスマイルを見せてくれたという。
SNS全盛時代、“情報の川の流れ”を意識せよ
梶田代表らはミランダ・カーやアレッサンドロ・アンブロジオなど、「ヴィクトリアズ・シークレット」モデルらとも多く仕事をしてきた。「海外トップモデルやアーティストなどは、ギャラの高額さや言語の壁、日本と米国・海外での知名度の差など、今までハードルが高いとされてきた。けれども、その影響力の大きさや拡散力などを考えると、改めて、日本の企業やブランドも、プロモーションやコミュニケーション戦略の一環としてきちんと取り組んでいった方がいい」と語る。その大きな理由に、SNSの存在があるという。「今の時代、圧倒的な拡散力を持つSNSが有力なマーケティングツールとされており、言語や性別などは関係なくなってきている。また、SNSの情報拡散のヒエラルキーや流れを考えると、ローラや渡辺直美が日本でトップインフルエンサーだとすると、そこから多くのフォロワー数を持つ一般のインフルエンサー、さらには一般ユーザーへと、川の流れのように拡散されていく。そして、影響力を持つトップインフルエンサー自体がフォローし拡散していくのが、海外のトップモデルやセレブという構図になっている。今はインフルエンサーマーケティングが流行のようになっていて、いわゆるインフルエンサーのアサインや投稿に力を入れる企業・ブランドが多い。が、もう一度、海外モデルやセレブのマーケティングを見直してみる時ではないか」と提唱する。どこに情報を流せば、どういう川の流れができるか。正しいところに一滴を落とせば、それが川となり、大河になるケースもありそうだ。実際、人気キャラクターのふなっしーも、ミランダ・カーやカーラ・デルヴィーニュとのコラボが爆発的なブームを後押しした例がある。
PPAPから見るバズの起こし方
そして、直近の大成功例が、今年「PPAP」で大ブレークしたピコ太郎だ。「PPAP」は日本でも注目されていたが、ジャスティン・ビーバーら海外セレブが拡散し、世界レベルで話題が話題を呼び、ここまで広がるに至った。「ジャスティンは、面白動画を集めたサイト『9ギャグ』でピコ太郎を発見したそうだ。海外の芸能人だけでなく、彼らがフォローしているサイトにアプローチするのもありだと思う」と梶田代表。
そして、ここで知っておきたいのは、日本とアメリカのマネジメントの違いだ。日本のモデルや芸能人は事務所の縛りが強いし、競合企業とのバッティングもタブーとされているため、ブッキングが難しいことも多々ある。けれども、海外のエージェンシーは権利関係や契約関係を担う役割が強く、仕事を選ぶのはあくまでも本人次第というケースが多い。だからこそ、「今はまだハードルが高いと思っている企業は多いが、本人が気に入れば、受けてくれるケースが増えている。特にSNSでバズを起こすカギは彼らが握っていると思う。次のマーケティングツールとして、海外の著名人に目を向けてもらいたい」。華やかな「ヴィクトリアズ・シークレット」の舞台裏では、そんな日に向けた仕込みも虎視眈々となされていたようだ。
日本企業・ブランドのスーパーモデル起用や、トップアーティスト起用のケースが増えるか、注目したい。
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