ファッション

UA栗野氏が説く 「服が売れない今、私たちがすべきこと」

 「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」の創業メンバーであり、バイヤーやジャーナリストとしても活躍してきた栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクション担当が、リード エグジビション ジャパン主催のファッション見本市「第7回 ファッション ワールド 東京」で講演を行った。不安定な政治や経済、社会情勢の中で揺れ動くファッション小売業でどう戦っていくか、自社の取り組みを紹介しながら業界人が持つべき視点と目指すべき方向性を示した。冒頭、栗野上級顧問は「ファッション業界を取り巻く環境は依然厳しい。景気もなかなか回復せず、消費者はモノを買うことに夢を抱けなくなっている。だが、『大きなトレンドがない』『(服が売れる)天候に恵まれない』と嘆いているばかりでは前進できない。この時代でどう戦っていくか、真剣に考えなければ」と切り出した。

 その上で最初に、栗野上級顧問は時代の潮流を読むことの重要性を説いた。そして、「ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したことは、かつて“カウンターカルチャー”と呼ばれていたものが認められているという象徴では。“反骨の詩人”とまで呼ばれた人がノーベル賞に輝いた。音楽や文学の世界だけではなく、ジャンル問わず、かつて“カウンターカルチャー”と呼ばれていたものへの注目が高まっています」と話す。そして、日本については「東京国立博物館が『禅』の展示会を開催したようにここ数年、日本は “モノから心へ”の時代。今はまだ、消費者の気持ちがモノから離れているが、再びモノに目を向けるようになる。心が充実していれば、人はまたモノと向き合うはず」とコメント。そうなった時、「われわれはカルチャーとしてのファッションへの深い理解を持って、モノにこめられたストーリーを消費者に伝えることができなければ。ファッションはカルチャー。当たり前のことだが、このことを忘れている人が多い。モノが持つ深みや創造性を伝えなければ、ファッション・小売業に未来はない」と続ける。

 ここ数年のファッションの3つのキーワードとして、“ジェンダーレス”と“シーズンレス”“エイジレス”を挙げる。フラット化する業界で付加価値のあるサービスを提供するポイントとは。今、メンズ・ウィメンズ、シーズンといった垣根が次々と取り払われている時代。従来の構造が大きく変わった。成熟した消費者は身に着けるモノだけではなく、衣・食・住すべての質に気を使うようになったことで、ファッション消費が減ったともいわれる。そんな中で、ファッション業界が誇れるようにならなければいけないのは「人間力」。この人間力はプライスレス。例えば、ニューヨークの高級百貨店バーグドルフ グッドマンには、ベティ・ホールブライシュという80歳以上のパーソナルショッパーがいます。ベティは今なお、年間数億の売り上げを守っていて、彼女から商品を買うためだけにニューヨークを訪れる人もいるようです。彼女がここまで支持されるのは、彼女に80歳分の魅力があるからでしょう。人間力には色々ある。われわれに求められているのは誠実さとリアリティーを持って、人間性を感じさせる対応、接客、サービスを提供すること」と力説する。

 その上で「ユナイテッドアローズ」では、「お客さまにもう一度ファッションの魅力を知って欲しいと願っている」。そのために9月には、六本木ヒルズに都内最大のショップをリニューアルオープン。「正直挑戦だったが、『洋服は楽しい、買い物は楽しい』というメッセージを込めた旗艦店に仕上がった。完全に“洋服バカ”のための店だが(笑)、反応はとても良い」という。また、春には南青山にエイチ ビューティ&ユース(H BEAUTY&YOUTH)を設け、メンズ・ウィメンズに加えてビンテージもそろえた。こだわりの品だけを販売する「ブラミンク(BLAMINK)」、“スポーツ”や“ミリタリー”“ワーク”といった6つの要素を軸に厳選した品ぞろえの「ロク ビューティ&ユース(ROKU BEAUTY&YOUTH)」など、2016年は旗艦店のオープンが続いた。「最大公約数ではなく、100人のお客さまそれぞれに違う商品を提供することが重要という“少数派”思考で取り組んでる。私たちのやり方が正解だとはいわないが、何かのヒントになれば」と話す。

 10月の東京ファッション・ウイークにはパリの注目若手ブランド「コーシェ(KOCHE)」を招き、「エイチ ビューティ&ユース」の主催で、原宿通りを借り切ったランウエイショーを開催した。公共の場での開催、今秋冬と17年春夏コレクションのミックススタイル、さらに、プロではなく古着屋のスタッフやDJなど、ストリートキャスティングで集まったモデルなど異例尽くしのショーについては、「"とんちゃん通り"でショーを行うことに対して、さまざまな心配や、中には批判もありました。『コーシェ』はパリコレでも地下鉄の駅など、公共の場を会場に選び、ストリートキャスティングで集めたモデルを歩かせていたが、『東京でストリートキャスティングなんかして、かっこいい子が集まるはずがない』と言われたこともあった。でも、そんなこと、やってみないと分からないじゃないですか。だから、私たちは道路使用許可を取り、商店街に並ぶお店へ挨拶に回った。結果的にショーは成功した。事後のクレームも少なかった (笑)」と振り返る。今後も、新しいことにどんどん挑戦していくべき。売り上げや株価に影響するかは分からない。でも、新しいことをしている人を応援することは私たちの役目。路上ショーもやった。私たちは次の一歩を踏み出している。ドアは開けたので、ぜひ、後に続いてほしい」とエールを送った。

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