ウクライナ出身。建築を学んだ後、2010年にブランドを立ち上げる。11年からキエフ・ファッション・デイズでコレクションを発表。ファッション・スカウトやLVMHプライズ、ピッティ_Wなどで注目を集める。16‐17年秋冬にパリコレデビュー
ここ数シーズンのパリ・ファッション・ウイークでは、「ヴェトモン」や「コーシェ」など新たな才能が続々と頭角を現している。2017年春夏はそんな若手デザイナーたちの活躍が定着し、彼らのブランドがパリコレ序盤の大きな目玉になった。ここでは、特に今後の飛躍が期待される実力派4人を直撃。クリエイションに対する姿勢や思いに迫る。第2弾は、ウクライナを拠点に「パスカル(PASKAL)」を手掛けるジュリー・パスカル。2度目のパリコレでは、レーザーカットを用いた新たな表現方法を提案。ガーリーながらもどこかダークな世界観を作り上げる彼女に、コレクション制作や祖国ウクライナについて聞いた。
ひとつのストーリーを作り、きちんと完成させることが大事
WWDジャパン(以下、WWD):デザイナーになったきっかけは?
ジュリー・パスカル「パスカル」デザイナー(以下、パスカル):もともと建築を学んでいて、デザインの専門教育を受けたことはないの。建築のスタイルやテクニック、モノの組み立て方をよりソフトで日常的な何かに落とし込めないかと模索していたときファッションに出合った。建築で培った、正確で合理的なアプローチが服作りにも生きているわ。
「パスカル」2017年春夏コレクション
「パスカル」2017年春夏コレクション
「パスカル」2017年春夏コレクション
WWD:デビュー当時から多用しているレーザーカットは「パスカル」の“十八番”とも呼べるテクニックだが、こだわりは?
パスカル:レーザーカットは、頭の中で思い描くデザインを表現するための最も確実な手段。クリエイティブなのに、ストイックでどこか機械的なプロセスという点も気に入っているの。最近ではテクニカルな素材を使うことも増えた。日本や韓国、イタリアからテキスタイルを仕入れることが多い。私の祖父は生物物理学の教授なんだけど、彼の血を受け継いだのか、私も構造や機能性にはこだわっているわ。
WWD:「パスカル」のブランドコンセプトは?
パスカル:「コンセプチュアルになりすぎないこと」。これがブランドコンセプトよ。私は、概念的なモノをこじつけたような服を作るより、その時々の感情を素直に表現したいの。そのために、自分にとって大切なものは何か、常に意識するようになった。嬉しかったことや悲しかったこと、好きな音楽や子どもたちのこと、日常の小さなモノまで、今の私を構成する全てがコレクションに反映されるの。
WWD:イメージする女性像は?
パスカル:強くて、それでいて柔和な女性。知的で誠実で、そしてクリエイティブ。そんな女性が「パスカル」のヒロイン像よ。
WWD:コレクションを制作する上で最も重要なことは?
パスカル:ひとつのストーリーを作り、きちんと完成させること。コレクション制作は複数の着想源からスタートすることが多いけど、バラバラに思えても、実はそれらがどこかで全てつながっていることに気付く瞬間があるの。そこに到達するまでに十分な時間を確保することが一番大切なのかもしれないわ。
WWD:今、東欧・ロシアのファッションが注目されているが、ウクライナはどんな国?
パスカル:国家としてはまだ若いけれど、古くから築き上げてきた文化と、多様性に富んだ美しい国よ。海も山もあって自然で溢れているけど、同時にすごくモダン。農業はもちろん、ITや航空機製造業といった現代的な産業も発展している。一方で、宗教色も濃いの。受け継がれてきた慣習と現代の価値観やテクノロジーが混じり合うウクライナの日常は、クレイジーに思える時もあるけど、とても刺激的だし素晴らしいインスピレーションにもなっているわ。あと、テクノ好きなら、首都のキエフに行かなきゃね。最高のパーティーはキエフにあるから。
WWD:ウクライナの伝統的な服作りの手法は?自身のコレクションに用いることはある?
パスカル:ウクライナ独自の手法で最も古いのは刺しゅう。世界的なトレンドになった刺しゅうのシャツやワンピースは“ヴシワンカ”といって、元はウクライナの民族衣装よ。コットンやリネンといった自然素材が多いけれど、素材作りのための独自の機械や技術もあるわ。私はレーザーカットを使うことが多いけど、これもウクライナの伝統的なクラフツマンシップに通ずるものがあると思う。刺しゅうのような装飾をそのままコレクションに取り入れることはなくても、私のクリエイションの根底には祖国の伝統があるし、それを引き継いでいるという実感はいつでもあるわ。
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