ナイキジャパンは東京・青山に日本初の「ナイキラボ(NIKELAB)」専門店「ナイキラボMA5」をオープンした。商品を不定期で入れ替えるコンセプトショップで、オープン時は「ナイキラボ ACG(NIKELAB ACG、以下ACG)」を取りそろえた。1989年に“アウトドア”をコンセプトにスタートした「ACG」は2年前、「アクロニウム(ACRONYM)」などを手掛けるエロルソン・ヒュー(ERROLSON HUGH)をデザイナーに迎え、都市で着るアウトドアウエアへとリブランディングした。
「WWDジャパン」が提案するメンズの新トレンド「ギアモン=GEAR FOR MODERN MEN(ギア的要素の詰まったウエアをまとう、モダンなメンズスタイル)」において、エロルソンは過去に「アークテリクス(ARC'TERYX)」や「バートン(BURTON)」「ストーンアイランド(STONE ISLAND)」などにも携わり、ゴアテックス社のアドバイザーも務めるトップリーダーでもある。来日中のエロルソンに迫った。
WWDジャパン(以下、WWD):今回の「ACG」のコンセプトは?
エロルソン・ヒュー(以下、エロルソン):元来のアウトドアというコンセプトを都会的にアップデートした。「ナイキ」らしさを出すため、“アスリートが都市で機能的な服を着る”視点で考えた。まずアスリートの立ち方、動きなどの生態的な動作を確認して、それを基に“オール コンディションズ フィット”というシルエットを開発した。通常、服作りは立った状態を基にパターンを組むが、「ACG」はヨーイドンの姿勢のように今にも動きだしそうな体勢を念頭においてパターンメーキングしている。微妙かも知れないが、違いは身に着けたときに感じられるはずだ。
WWD:都市での生活に必要な機能とは何か?
エロルソン:順応性、適応性、保護性、それに動きやすさ。スノボやサイクリングなどは、そのアクティビティのための服を着るが、都市は地域なので、屋外にいることもあれば、地下鉄に乗ることもある。屋内外の寒暖差や天候など常に変化し続けるので、対応できる服が必要だと思う。
WWD:カラーリンングも黒とオリーブが中心だ。
エロルソン:黒やオリーブというアイデアはマーク・パーカー=ナイキ最高経営責任者から提案されたが、あらゆる環境に馴染むので採用した。都市には中間色がマッチする。
WWD:機能にはパーソナルな実体験も含まれるのか?
エロルソン:もちろんパーソナルな経験に基づいているが、「ACG」は「ナイキ」とのコラボレーション。参考にしつつも「ナイキ」らしさを出すことに注力している。「ACG」には根強いファンも多いので、ファンの気持ちも大事にしながらブランド名に恥じないコレクションにする必要がある。最初の2シーズンはいわゆるビルの基礎作りだった。2年間で築き上げた基盤があったからこそ、その上で色々な手法を試しながらこれまで以上に成熟して洗練されたコレクションが作れた。特に“アルパインジャケット”は「ACG」のコンセプトを押し上げた象徴的なスタイルになった。開発の過程こそがパーソナルな経験だと思う。
WWD:“アルパインジャケット”の特徴は?
エロルソン:左右非対称のボディで、襟はファスナーで高さを調整できる。フードもファンネル型でサイズを調整できるので、ミリタリーパーカのように顔を覆うこともできる。取り外し可能なライナーは「ACG」のファーストシーズンから継続して作っているシステムで、シーズンが違っても過去のモデルに最新のライナーを取り付けることができる。これまでのアイテム全てに親和性を持たせている。袖やパンツはアスリートの動きを再現した曲線を描くようなパターン。ファスナーなども全て最高の素材だ。「アクロニウム」で同じことをすると価格が3倍になるようなことも「ナイキ」のテクノロジーが可能にしてくれた。
WWD:「ACG」で新たにチャレンジしたいアイデアは?
エロルソン:すでに今後2シーズン分のデザインは出来上がっていて、2017SSコレクションのデザインはもう終わっている。17-18FWももうすぐ終わるところ。まだあまり言えないけど……(笑)。
WWD:ストア「MA5」には、ヒノキや畳など日本ならではの素材を取り入れている。日本の印象は?
エロルソン:ストアには今日初めて来たが、日本には1991年からもう50、60回は来ている。2000年代前半に来た時には藤原ヒロシや高橋盾、原宿のスケートシーンのデザイナーが、ミニマルな環境でデザインしているのを見て、非常に触発された。お互いに足りない部分を補う“コラボレーション”という考え方も東京で始まったアイデアだと思う。東京に彼女ができたので、今後はこれまで以上に来るかも(笑)。