「サカイ(SACAI)」は2017年春夏、初のバッグ・コレクションをローンチする。ファースト・コレクションは10万~20万円を中心に、ブランドのシグネチャーである“ハイブリッド”の美学を表現したトートやサッチェル、ショルダーバッグなど全6型で構成。使用する素材も質感の異なるレザーのコンビをはじめ、キャンバスや籐(トウ)からミンク、クロコダイルまで幅広く、ストラップの組み替えやフラップの出し入れで印象や持ち方を変えられるのが特徴だ。同コレクションは1月18日~24日に伊勢丹新宿店で先行販売し、28日には南青山の旗艦店とドーバー ストリート マーケット ギンザでの取り扱いをスタートする。約1年をかけて作り上げたバッグに込めた思いを阿部千登勢デザイナーに聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):このタイミングでバッグ・コレクションをローンチしたのはなぜ?
阿部千登勢デザイナー(以下、阿部):これまでも私がいいなと思ったタイミングで、ファッションショーやルックブックの撮影を始めたり、お店を開いたりと、『サカイ』はファッションビジネスの“王道”とは違う価値観や考え方で進んできました。バッグについても、ブランドがここまで来たら始めるという考えはなかったし、そのタイミングは私にしかわからなくて。いいものが作れたから提案したいという思いです。今でも既成概念にとらわれないというところは変わっていないですね。
WWD:バッグ・コレクションを制作するうえでケイティー・ヒリヤーをデザインパートナーに起用した理由は?
阿部:ケイティーとはもともと知り合いで、3年ほど前から何か一緒にできたらいいねと言っていて。当時はお互い忙しくて実現できなかったのですが、こんなアイデアがあるんだけどどう思う?などと話し合う中で具現化してみようということになりました。彼女とは本当に好きなものや感覚が似ているんです。最初は友達なんですけど、気が付けばサポートしてもらってる。海外でもそういう方が増えて、それが「サカイ」の強みなのかなとも思います。
WWD:ケイティーは具体的にどのように関わっているのか?
阿部:デザインはあくまでも『サカイ』が手掛けていますが、ケイティーのチームが使いやすさや革のチョイスなどの提案をくれます。ここまでという線引きがなく、どんどんアイデアを出してくれるんですよ。それにただ高ければ良いわけではないと価格帯のことも気にしていて。まさにバッグ作りのプロですね。彼女が売れっ子である理由が分かります。
WWD:どのくらいの時間をかけてコレクションを作ったのか?
阿部:1年くらいでしょうか。最初のサンプルから思った通りのものができるわけじゃないので、それを理解していただきながらやっていける工場をケイティーに探してもらい、イタリアのパドヴァにある規模の大きすぎない工場と一緒に作りました。イタリアにも何度も行きましたし、工場の方がイタリアからサンプルを持ってきてくれたりもしました。何度もやり取りして、作り直して、やっと納得いくものが出来上がりました。
WWD:一番こだわった点は?
阿部:「サカイ」らしさがあるかということですね。(昨年)6月の段階ではデザインも全然違って、ファーストサンプルが上がってきたときは全然“ハイブリッド”していなかった。かなり愕然としましたね(笑)。そこから夏休みもとらずに巻き返しました。イタリア人は普通よく休むんですけど、とても頑張ってくれて。だから私はオーダーをたくさん取って彼らを喜ばせないといけないし、ケイティーたちのためにも多くのメディアにも露出して喜ばせたい。そうすることで、またみんなが頑張ってくれると思うんですよね。
WWD:“ハイブリッド”は洋服よりもバッグで実現する方が難しいように感じるが。
阿部:そうですね。洋服も自由に作っていますが、人が着られないと始まらない。むしろバッグの方がその要素は強いのかもしれないですね。ビジネスとしても洋服とは違うと思いますし、バッグは定番化して「サカイ」のエターナルになるものにしていきたい。なので、最初からシーズンによって色や素材、ストラップの形状を変えたりしてアレンジしやすいデザインにしています。それにエターナルと考えると、ハイブリッドしていても奇をてらったものは嫌じゃないですか。そこは洋服と違って難しいと思います。
WWD:レザーだけでなくさまざまな素材を使っていて価格の幅も広い。
阿部:10万円から150万円のものまであります。私自身、100円ライターからダイヤモンドまで好きみたいな性格なので。プライスについては、トートだったら10万円台じゃない?など私の感覚を反映しながら、「サカイ」のお客さまがどのくらいのものを求めているかも考慮しました。でも今後も必ずしもこの価格帯だけでやっていくというわけではなく、もっと違う価格帯のものを出すかもしれません。
WWD:競争の激しいバッグ市場に参入するのは簡単ではないのでは?
阿部:緻密にマーケティングされている他のブランドと同じことをやっても勝ち目はないと思います。インディペンデントな私たちは、そこと競うより、プロの人たちに面白いバッグを作ったねと言われるようなことをやっていかないと残っていけない。もちろんノープランできたわけではないし、バランスを見て、マーケットに寄り過ぎず、好きな人に手に取っていただけるようなものを意識しています。それに、やっぱり時代は進化しているから私たちも進化しなければいけない。「サカイ」のことを安心して見てくれている皆さんをいい意味で裏切り、常にドキドキさせる存在でありたいですね。でも、バッグをビジネスとしてやって行くことが私たちへの評価にもなると考えているので、やるからにはビジネスとして軌道に乗せたいです。