宮前義之「イッセイ ミヤケ」デザイナーとレム・D・コールハース「ユナイテッド ヌード」クリエイティブ・ディレクター Photo by TETSUYA TOYODA
「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」は2017年プレ・スプリング・コレクションから「ユナイテッド ヌード(UNITED NUDE) 」とシューズを共同開発するプロジェクト「ISSEY MIYAKE×UN」を始動した。「イッセイ ミヤケ」がデザインディレクションし、「ユナイテッド ヌード」がデザイン・技術・素材の提案をするというものだ。未来へ続くモノ作りの可能性を探りながら、「点・線・面」をコンセプトに、ベーシックラインとコレクションラインを用意し、これまで手薄だったシューズビジネスを本格化する。
ベーシックモデル“WRAP”は、“包む”をコンセプトに一枚のレザーで足を包み込むデザインが特徴で、極太のストレッチテープを用いフィット感を高め履き心地を追求している。一方、下駄を想起させるコレクションライン第1弾の“ROCK”は、“構造”をコンセプトに「岩の塊から削り出したようなダイナミックで構築的なフォーム」を追求しながらも、構造力学に基づいた機能性も備える。意外な2ブランドながらベストマッチングを見せた2組をつなげたのは青田行ユナイテッド ヌード ジャパン社長だ。
宮前義之「イッセイ ミヤケ」デザイナーは青田行ユナイテッド ヌード ジャパン社長から提案があったとき「直感的にやりたいと思った。快適な日常のための機能性と女性の足元をより美しく見せる靴作りは究極のプロダクト・デザイン。新しい素材やテクノロジーを積極的に取り入れ、常に革新的な靴作りをしているレムさんの姿勢は『イッセイ ミヤケ』と通ずると感じたから」と振り返る。
「イッセイ ミヤケ」にとってシューズはずっと課題のカテゴリーだった。「世界で勝負できる靴がなかなかできないのが悩みの種だった。靴っぽいものは作れてもプロダクトとしてとらえると、専門デザイナーはもちろん工場や職人を抱えているわけでもないので、大きな壁があった。新しいことへの挑戦にも限界があった」。「バオ バオ イッセイミヤケ」の大成功に加え、「イッセイ ミヤケ」のバッグラインが軌道に乗り始めたタイミングでもあった。とはいえ、「モノ作りは人と人。レムさんをはじめチームに会ってみないと決められなかった」。
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一方、レム・D・コールハース「ユナイテッド ヌード」クリエイティブ・ディレクターは「僕はファッションにそんなに興味はないが、良いデザインに関心を持っている。そんな中でも『イッセイ ミヤケ』は最もインスパイアされるファッションハウス。ハイファッションを提案しながらも、着心地がよく、タイムレスなモノ作りをしている。特に素材開発と研究に魅了されている。シーズン毎ではなく、長期的な研究開発によって発展している数少ないブランドのひとつ。革新的な新しいテクニックによる素材開発は時間がかかる。『イッセイ』の取り組みは業界全体のお手本であり、その姿勢こそみなに愛される普遍的なデザインを創造する。特に子どもができてから、未来に求められるデザインとは、地球とどう付き合いながら、キレイなだけではなく次元を超えて楽しめるものだと考えているから」。宮前も、「レムさんは、モノをシンプルにとらえて世の中にないものを作るなど、デザイン哲学にも共通点が多い。彼は建築を学んでいたから構造計算をしながらシューズを作っているが、『イッセイ』の服も快適性を求めながら作っている点は同じ。シューズをプロダクトとしてとらえるなら、シーズンにこだわることもないだろう。ライフスタイルが合えば、履き続けてもらえる。快適で普遍的なものへ挑戦しようと考えた」と加える。
宮前の明確なアイデアをレムが具現化する
「会った瞬間から具体的な話ができた」。インタビュー当日、偶然同じ服だったというが、二人の息はピッタリだ。レムは「イメージだけを求めるのではなく、実現できる人と組みたいと思っていたから本当にうれしかった」と続ける。質問に対しての答えはもちろん、インタビューが終わった空き時間には、本棚の本を指さしながら次シーズンのシューズの色の打ち合わせが始まるといった具合だ。そんな二人だから、「長い目でモノ作りできる関係性を築くべく、しっかりとした定番を作らねばと思った。面白いものを作って世の中を驚かせたいという気持ちも強かったが、やりたいことだけをやるとお金だけかかるから」と宮前。お互いの定番や哲学を探った結果、どんな「イッセイ ミヤケ」の服にも合い、「ユナイテッド ヌード」のシューズにも用いられているディテールを用い、「何かを削り出したようなシンプルなもの」に行きついた。それが“WRAP”だ。“ROCK”は「ジオメトリックパターンが特徴のシーズンで、それはレムさんの得意なところ。コレクションに合うものを依頼した」と宮前。レムは「“トランスペアレント”がコンセプト。構造が全て見えるデザインであり、機能的で快適性もあるもの。さらにショーピースなのでアイデンティティーが必要だった。ストレートなラインのカッティングをポイントに素を生かしながらハードに仕上げた。このデザインは自分たちのブランドでは作れなかった」と話す。
生産はレムが最もイノベーティブと考える台湾
生産は「ユナイテッド ヌード」の使っている台湾の工場を用いる。「台湾はとてもイノベーティブだ。もし世界一の靴を作るとして、伝統的な靴を作るならイタリアだろう。ハンドクラフトを生かしたものなら日本かもしれない。でもイノベーティブなものなら断然台湾だ。オープンマインドで新しいことの挑戦できる国民性がある」とレム。シューズビジネスについても「ユナイテッド ヌード」のノウハウを生かしていくという。
二人に制作過程で発見した共通点について聞くと「ユニークなモノ作り。よりよくするために妥協せずにお互いを補完し合いながらチャレンジしていくところ。どんなことにも恐れない部分。厳しいやり取りが何度かあったけれど、一歩上に進むには努力が必要だし、努力次第でコレクションも拡大できる」とレム。宮前にも尋ねると「まさにその通り!」との答え。「誰もが履いてみたいと思うような、そして一日の気分が明るくなるような靴を届けたい」。