「東コレを歩きたい」——「レイ(Ray)」専属モデルで女優としても活動する松井愛莉は20歳を迎えた2016年、夢だったモードの世界への一歩を踏み出した。目標にしていた10月の2017年春夏シーズンの「アマゾン ファッション ウィーク東京(Amazon Fashion Week TOKYO)」(以下、AFWT)では、「ウジョー(UJOH)」「ティート トウキョウ(TIIT TOKYO)」の2ブランドのランウエイに出演。赤文字系の雑誌専属モデルで身長171cmと、コレクション・ランウエイの舞台において決して王道でないタイプの彼女が目標をかなえた裏には、きちんとした道筋があった。まず年始に、16年の注目モデルとして「WWDジャパン」新年号の表紙に登場。3月の16-17年秋冬シーズンには、「トーガ(TOGA)」「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA)」「ドレスキャンプ(DRESSCAMP)」など海外でも活躍するブランドの展示会を廻ってモードの世界観を研究したという。9月にはニューヨーク・コレクションに渡り「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」17年春夏コレクションを観て本場の空気にも触れた。その過程で学んだモードのエッセンスは私服にも影響しているようで、昨年「第14回クラリーノ美脚大賞」に輝いた股下87.2cmを誇る美脚の持ち主ながらに私服の大半はワイドパンツ姿、という自身のスタイルも築きつつある。「有言実行よりも、何も言わずに達成していく方が素敵だと思う」とモットーを話す彼女のモードへの心意気に迫るべく、衣装をセルフスタイリングしての撮影に臨んでもらい、私服のワイドパンツも披露してもらった。
衣装を決めるショールームに到着した松井愛莉は、「何着でも着ていいですか?」と目を輝かせる。「冬の定番」と顔をうずめるタートルネックに重ねたのは、鳥の刺しゅうがあしらわれた「レッド バレンティノ(RED VALENTINO)」のGジャン。その上にファーブルゾンを羽織った私服のレイヤードは、異素材のコントラストが効いてモードな雰囲気が漂う。足元はもちろん今日もワイドパンツで、光沢のある「メゾン ミハラ ヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の厚底シューズがアクセントにきらめく。17年春夏の私服事情を聞くと、「展示会では、肩まわりのデザインの凝ったトップスを多くチョイスしました。変わったアイテムでひとクセ出していきたいなと思っています。ワイドパンツもやっぱりオーダーしましたね。『ウジョー』のファーストルックや『クリスチャン ダダ』など、届くのが楽しみなものばかりです」と松井。他にも展示会は、「ファセッタズム(FACETASM)」や「ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」、「ハイク(HYKE)」に「タン(TAN)」など、ドラマや雑誌撮影の合間に時間が許す限り足を運んだという。
スタイリングは、最初に「アキラナカ(AKIRANAKA)」、次に「ポンティ(PONTI)」で組んだワイドパンツのルックが完成した。それぞれのポイントを聞くと松井は、「『アキラナカ』は、17年春夏にチャレンジしたい鮮やかな合わせです。エレガントな柄フリルがオフショルっぽいシルエットでトレンド要素もありますし、黄色のワイドパンツで色もグッと華やかなコーデになりますよね。逆に『ポンティ』は、私の好みのど真ん中。ロング丈の羽織りがとても好きなんです。インナーのチェッカーフラッグ柄も派手さはありつつ品のあるオレンジなので、ネイビーになじんでいいなと思いました。このまま着て帰りたいです(笑)」と説明した。最後にスタイリングを完成させた「アグリス(AGRIS)」についても、「このレースに透明素材を重ねたトップスに挟み込まれた花びらは、デザイナーの鷺森アグリさんが1枚1枚想いを込めて配置なさったものらしいんです。スゴいよなと思いますし、こだわりを伺うと着る愛着も湧きます」と展示会での感動秘話を交えながら話した。
撮影で使う衣装は「アグリス」に決定した。「羽織りを使ったシルエットや屋外での撮影映えも考えて」と松井はこだわりを話す。「自由に動ける撮影が大好きです」とそのまま外に飛び出し、シチュエーションに合わせてさまざまなポージングを決めた。彼女をランウエイに起用した「ウジョー」の西崎暢デザイナーも、「緊張のドキドキと勇気の入り混じった表情で堂々としたウォーキングをオーディションで見せた彼女に気概と可能性を感じた」と、モードの現場での松井愛莉を評している。撮影を終えた彼女に、この1年のモードへの挑戦について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):2016年にAFWTに挑戦した理由は?
松井:ファッションが好きで、服のことであれば前向きになれる私なのですが、モードな世界観や海外コレクションに憧れがあって、ゆくゆくは海外コレクションのランウエイにチャレンジしたいと思っているからです。昨年の初めに「WWDジャパン」の表紙を飾らせて頂けたことも背中を押して、行動に移すことができました。オーディションや展示会に加えて、以前より本屋さんへ勉強に行く機会も多くなりましたね。
WWD:「ウジョー」と「ティート トウキョウ」のランウエイを歩いた感想は?
松井:最初に出演した「ウジョー」では、初めてですし、リハーサルで受ける指導も多くて刺激を受けました。けれど信頼しているマネージャーさんや、私を知ってくれている方からショーの結果を褒めていただくことができました。身長も出演者の中では小さいし日本人はひとりだけだったけど、通用するんだという結果を示せたのは大きいと思う。「ティート トウキョウ」では、ランウエイだけでなくショートフィルムにも取り組みました。感情をさらけ出すことがテーマだったのですが、普段とのギャップも含めて感情の高ぶりをうまく出せたと感じています。どちらのショーでも歩いた後に「楽しい!」と心の底から思えたことが自分でも嬉しかったし、モードの世界にもっともっと飛び込みたいという想いが強くなりました。
WWD:「ティート トウキョウ」の岩田翔デザイナーからは、「ヒステリックに涙を流すシーンの撮影では、特にグッとくるものがありました。ショートフィルムとランウエイを通して求めている情感を一緒に作れたので、とても満足しています。ファッション愛に満ち溢れ、とても芯の強い女性だと感じました」とのコメントが届いた。
松井:とてもありがたいお言葉です。でも自分の中では反省点ばかりでまだまだ。満足できないので、カッコ良く歩けるように研究と経験を積みたいです。オーディションはもちろん17年も挑戦を続けますし、お仕事で海外に行けるように自分自身を高めたい。東コレにも挑戦を続けながら、できれば2〜3年のうちに海外コレクションを歩くことが目標です。
WWD:今日の撮影にセルフスタイリングで臨んだ感想は?
松井:あまりない経験でしたが、展示会を廻る中で気になっていたアイテムを使えたので良かった。自分で着たい服を着るわけなのでとても良い気分で撮影できました。けれど優柔不断で……決め切ることはなかなか苦手ですね。もっとたくさん着たかった。
WWD:優柔不断さの中には、服へのこだわりが強くあるのでは? 昨年12月の20歳の誕生日に発売したスタイルブック「ハタチ」でも私服コーディネートを70体以上披露しているが、変化球なデザインや素材感、丈や色味の好み、はずしテクニックや小物使いなど、所狭しとマイルールが並んでいる。
松井:たしかに私服にはこだわりたいですね。スタイルブックは今の私の決定版と言ってもいいぐらいやり切りました。ニューヨークでの撮影は自活をテーマにしたフォトストーリーでもあったので、私物アイテムを持ち込んだり、リアル感を出せたらいいなと。
WWD:ワイドパンツがトレードマークとのことだが? 今日の私服と撮影衣装もワイドパンツ姿だった。
松井:ワイドパンツは20本近く持っていますね。私服の8割はワイドパンツ合わせかもしれない。きっかけは数年前にワイドパンツが流行りだした時だと思うのですが、私にはファッションのお手本になったアイコンの方がいなくて。モデル歴=芸歴で、お仕事でその時々のトレンドと向き合う中で自分にしっくりくるスタイルをひとつずつ見つけた感じです。その中でワイドパンツと、撮影でもよく使っていたロング丈のアイテムがとても良く自分になじむ。背丈が同じで服のシェアをするオカンにも、「ワイドパンツ姿の方が似合う」と言ってもらえますし(笑)。これからもモデルとして撮影で着る服や自分の好きなモードの世界を勉強していく中で、ひとつずつ試して、私のスタイルを見つけていきたいと思います。
WWD:今日は9本の私物ワイドパンツも披露してもらった。
松井:最近は特に「ファセッタズム」の2本と「G.V.G.V.」のデニム地をよく履きますね。「ファセッタズム」のロールアップタイプは、カンフーっぽさが良い抜け感に繋がって重宝しています。ウール生地の方はメンズサイズでかなりワイドなので、トップスをインしてベルトでハイウエストにギュッと絞って今っぽく履いてみたり。「G.V. G.V.」はインディゴのワイドパンツが欲しかった時期に一目惚れしました。サイドのボタンで大胆にシルエットを切り替えれるところもポイントです。
WWD:今後目指していくスタイルは?
松井:私のベースは基本シンプル。その中でアクセントになるものを探して足していきたいと思います。そのために今モードの勉強をしていますし、モードな撮影にももっともっと挑戦していきたい。熱意はてんこもりです。