2月1日から3日まで開催されたファッション素材の見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」の取材のため、イタリアに出張に行ってきました。素材見本市というのは服地や、ボタンやレースといった服飾資材を作るメーカーが集まり、商材を展示するイベントのことです。アパレルメーカーやブランドのバイヤーさんが足を運び、こうした服地や服飾資材を買い付け、商品を作っていきます。今回の「ミラノ・ウニカ」のシーズンは2018年春夏。先月ウイメンズより一足早く世界各地で開催されたファッション・ウィークのシーズンが17-18年秋冬なので、素材メーカーはさらに半年早く動いていることになります。ここで提案された素材をもとに製品が作られ、18年春夏のコレクションとして発表されていくわけです。つまり生地のトレンドを抑えていれば、そのシーズン(今回だったら18年春夏)の服のトレンドがおのずと見えてくるということ。実はすごく重要なイベントなのです。
と、上に書いたことはベテラン先輩の受け売りです。私自身は自ら見本市の取材に行きたいと名乗り出たはいいものの、右も左もわからない状態。それでもとにかくいろんなものの隙間にこのベテラン先輩に詰め込んでもらってミラノへと旅立ちました。
日本で「ミラノ・ウニカ」のホームページを見たとき、まず戸惑ったのがトップページの写真からうかがえる通路の広さ。もはやそれくらいでびくびくするほどには、不安でいっぱいでした。ここを一人で歩くのか、足が震えないだろうか、フラフラしないだろうか・・・想像すると怖くなるばかりなので途中から考えるのをやめました。現地ではわりと平気でズカズカ歩いていたのですが、それは、朝の一杯のコーヒーとそれを飲む間のおしゃべりに救われたり、レストランのスタッフの笑顔や気遣いにホッとしたり・・・があったからだと思います。イタリアは不思議な温かさのある国で、いろんな人たちがおしゃべりしたりスマホを見ながらも自分の仕事に前向きに取り組んでいて、そういう姿勢を持った人同士なら、言葉は通じなくてもなんとなく分かり合えるみたいな空気がありました。そんな温かさで安心感を補給しながら3日間を過ごしました。
会場は終日たくさんの人でにぎわいを見せていました。特に「イデアビエラ」と呼ばれる、イタリアの毛織物産地ビエラ地区のテキスタイルメーカーを集積したエリアは連日多くの人が行きかっていました。ファッション業界団体「システマ・モーダ・イタリア(SMI)」の会長を務めるクラウディオ・マレンツィ(Claudio Marenzi)=ヘルノ(HERNO)最高経営責任者(CEO)が「ミラノ・ウニカ」の会長を務めるエルコレ・ボット・ポアーラ(Ercole Botto Poala)=レダ(REDA)社長に会いに来ていたり、前「ミラノ・ウニカ」会長のシルビオ・アルビニSilvio Albini)=コトニフィーチョ・アルビニ(Cotonificio Albini)社長がエルメネジルド・ゼニア(Ermenegildo Zegna)のブースに来ていたりと、トップの人間模様が見られるのも様々な企業が集結する見本市ならでは。「産業発展のためには連携が大事」というポアーラ=レダ社長の言葉を実感するシーンでした。日本企業の生地はトレンド・エリアではさほど目立ちませんでしたが、技術力の高さを知っているラグジュアリーブランドのバイヤーたちはピンポイントでお目当ての企業を訪れ、細かく質問していったそうです。
私の仕事の方はどうだったかというと、意外と大丈夫な部分もあったし、そうでない部分ももちろんありました。「意外と大丈夫」と思えた部分は、コミュニケーションがなんとか成り立ったこと。伝えたい、という想いと目的がはっきりしていれば、お互い意図を汲み合っての会話が成り立つんだと実感しました。温かな気持ちでブースを出ることが多かったです。
何より大変だったのは「忙しそうだし後で戻ってこよう」「英語だと専門的なことは分からないから、聞かない方がいいかも」と弱気になる自分を奮い立たせること。そこに元気よく「ボンジョールノ!」とぶった切っていくパワーや、さりげなく深い話を引き出す技術を記者ならどんな時でも持っていなければならないと思うのですが、それが足りないと痛感しました。たくさん不甲斐ない思いや情けない思いもしましたが、本当に得るものが多い3日間でした。これらの課題を持ってまた少しずつ、技術と気持ちを蓄えていけたら、と思います。
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