Googleは2月3日、悪質なキュレーションサイトの評価を下げ、検索結果の上位に表示しない新ルールを発表した。「日本語検索の品質向上にむけて」と題した公式ブログで、「ユーザーに有用で信頼できる情報を提供することよりも、検索結果のより上位に自ページを表示させることに主眼を置く、品質の低いサイトの順位を下げる」と表明。検索画面での上位表示を狙う“SEO対策”を過剰に施して、引用・転載を繰り返すオリジナリティーの低いサイトを排除する目的だ。具体的な言及こそないが、一次コンテンツを独自に選択・掲載するキュレーションサイトが最も影響を受けることは間違いない。
背景にあるのは、昨年末のDeNAキュレーションサイト閉鎖騒動だろう。DeNAは2016年12月、記事の無断転載や過剰なSEO対策を原因としてファッションサイト「メリー」を含むDeNA傘下の全10メディアを非公開とした。DeNA騒動自体は風化しつつあるが、キュレーションサイトが抱える問題点と影響力を考慮して、PV(ページ閲覧数)至上主義の悪質なサイトをGoogleが評価しない方針を明示した形だ。なお、DeNAが2月8日に発表した2016年4〜12月期決算では、キュレーションプラットフォーム事業に関する39億円の減損損失を公表。ネット上では「『メリー』が3月中の再開に向けて動いているのでは」との噂もあるが、期間3カ月を目途に設置した第三者機関による調査は継続中で、今後のサイト運営は未定という。
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当時、ウェブコンテンツの真贋性や責任の所在を問題視する報道が数多ある一方で、SNS上には「メリー」閉鎖に対するファンの嘆きの声があふれた。その後「メリー・代わり」というキーワードがSNS上に飛び交い、スマホで気軽に情報収集できる他メディアを探す“キュレーションサイト難民”が急増した。コアユーザーだった10〜20代女性の多くは記事転用といった騒動の原因を理解しておらず、騒動をきっかけにメディア業界と若年層ユーザーのコンテンツに対する大きな認識のズレが浮き彫りになった。
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問題の根幹にはウェブメディアの収益構造が関与している。PVに応じて報酬が発生するアフィリエイト広告ビジネスは大きな資本投資もなく誰でも簡単に収益を上げられるため、ウェブサイトの普及とともにメディアビジネスの中心となった。PVが上がるだけで収益が増える単純な構造だからこそ、コンテンツの責任所在などを度外視してまでPVを狙うメディアが氾濫した。検索によって上位に表示されるSEO対策はPVを増やすために欠かせないが、その基盤にあるのが検索最大手Googleの検索システムだ。そういった意味でも、今回のGoogleの発表がいかにメディアに対して影響力を持つのかが分かる。しかし、Googleの検索システムは倫理上必ずしも正しいわけではない。SEO対策の専門家いわく、「Googleの検索アルゴリズムの中心にあるのは合理性。記事の内容が正しいかどうかまでは判断できない。そのため、まとめ記事が転用コンテンツや誤情報であっても一定の検索・流入数がある以上、Googleはそのサイトがユーザーにとって必要なサイトとみなす可能性はある」という。
そんな中、講談社は1月に女性をターゲットにしたキュレーションビジネス参入を発表した。IT事業を手掛けるデジタルガレージと共同で今年前半の新メディア立ち上げを目指す。まずは「ヴィヴィ」や「ウィズ」といった自社コンテンツを利用しつつ、プラットフォームとして他社媒体のコンテンツも扱ってゆく。「信頼できるコンテンツを提供する仕組み作りに注力する。従来のキュレーションメディアとは異なる“コンピレーションメディア”という呼称を打ち出したい。扱うコンテンツも信頼できる参画媒体のものだけで、データとAIを活用してコンテンツを客観的に評価する仕組みを活用していく」という。大手出版社が手掛けるキュレーションサイトだけにその手法に注目が集まるが、他媒体の一次コンテンツを利用するキュレーションサイトが今後ますます厳しい時代に入ることは間違いない。騒動に加えて今回のGoogleの公式アナウンスを契機に、今後のキュレーションメディアのあり方とウェブの収益モデル自体を考え直す企業が増えそうだ。
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