吉竹綾子・人事部人事課マネジャー(左)と小澤真琴マーケティング部ブランドマーケティング・メディアチーム Photo by SHUHEI SHINE
ニューバランス・ジャパン(以下、ニューバランス)は2013年8月、女性社員で構成される「ウィメンズ・カウンシル(以下、WC)」を発足した。「WC」は、女性社員たちが自分のキャリアやその実現のために必要な制度を考え、企画・実行する組織だ。発足から約1年後に実現された提案は、「会社全額負担のベビーシッター制度」「フルフレックス制度導入」といった画期的なもの。女性社員や管理職の割合もこの5年で増えており、特に管理職の割合は、約2.6倍と顕著な伸びだ。今も有志のメンバーによる運営が続く「WC」の活動内容と、女性社員の登用に力を入れる背景について、小澤真琴マーケティング部ブランドマーケティング・メディアチームと吉竹綾子・人事部人事課マネジャーに聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):「WC」立ち上げの経緯は?
吉竹マネジャー:ニューバランスはグローバルでも女性の活躍推進をテーマにしていますが、「WC」は実はジャパン社の施策です。日本の女性管理職の比率は低いと言われていますが、ニューバランスも例外ではなく、13年の発足当時は今よりも女性が働きにくい環境でした。それを変えるためにも、女性自身が働くということや自分のキャリアについて考える必要があると思いました。ただ上から押し付けるのではなく、やりたいことをどう実現できるかを、自分たちで考えてほしくて「WC」という組織を作りました。ニューバランスは新卒から働いている人の割合が全社員の半分ほどと高く、キャリアについて能動的に考える機会が少なかったんですよね。そこを見直してほしいというのも理由の一つです。
WWDジャパン(以下、WWD):具体的な活動内容は?
小澤:当時の女性社員は50名ほど。平日の業務時間内に全員が集まる時間を設け、50名をチームに分けて、メンバー同士で現状困っていることや、どう変わったら働きやすくなるかということを月1回議論し合い、約1年かけて具体的な資料に落とし込み、役員にプレゼンしました。そこで出てきた提案は大きく分けて4つ。新しい働き方の提案、産休育休期間の有効活用、業務評価の可視化、キャリアステップの明確化です。役員のフィードバックを経て、実際にいくつか新しい制度が生まれました。その中の一つがベビーシッター制度です。
吉竹:ベビーシッター制度はママさん社員からの要望で生まれました。大きな特徴は、全額が会社負担であるということ。私自身も幼い子どもがいて、ベビーシッターは個人的に利用していましたが、金額的な負担が大きく、働いたお金がそのまま出て行ってしまう感じ。なので使いやすさを考えて全額会社負担にこだわりました。あとは、事業者をママさん社員からの提案で選んでいるのも特徴ですね。
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小澤真琴/マーケティング部ブランドマーケティング・メディアチーム PROFILE:1975年生まれ。98年に大学を卒業後、ニューバランス ジャパンに入社。以来、広報宣伝、マーケティング業務に携わる。現在はPR、メディア運営を中心に担当。小学生の子どもを持つ二児の母親。 Photo by SHUHEI SHINE
WWD:実際に活用している社員はどのくらいいますか?
吉竹:実はまだそんなにいないんです。私は推進側なのですが、小澤さんはどうですか?
小澤:私は子どもが小学校高学年で、留守番ができる年齢なので利用していないのですが、保育園の子どもがいる方からは利用してみたいという声を聞きます。ただ、今まで経験がないので躊躇してしまう部分もあるようで。制度までは整ったのに活用しきれていない部分があったんです。そこを解消するために、実際にベビーシッターの方に会社まで来てもらって社内で説明会を行いました。4人くらいの方に来ていただいて、こういう風にお子さんとコミュニケーションを取ります、とか、こういう遊び道具で遊んでいます、と説明していただいて。あとは個人的に心配な点がある場合も、事業者の担当の方に弊社に来ていただいて、面談ができるようにしています。
WWD:いざ活用するとなると不安を感じる人も多いと思いますが。
吉竹:それもあって、今年から週末などプライベートでの利用もOKにしました。使用料は別途個人で支払うのですが、入会金や業者に改めて登録する手間が省けるようにしたんです。ベビーシッターはいざという時に使うもの、という意識が大きいと思うのですが、例えば子どもの体調が悪い時に、初めて家に来たベビーシッターの人と長時間二人きりというのは子どもにとっても負担だし、親にとってもハードルが高いですよね。でもじゃあどうする?と言っても、使ったことがないからよく分からない。私は16年1月にこの会社に入ったのですが、その時は使いたいけどどうしたらいいんだろう?と、みなさん戸惑っている印象でした。たまたま自分がプライベートでよく利用していたので、こういう活用方法がありますよ、と知らせたり、事業者側と密にやり取りをするようにしました。コミュニケーションがうまくいかずトラブルになった事例もあったので、事業者の方に弊社の担当をつけていただき、説明や社員との面談の時間を設けていただくようにしました。そこで出た疑問や懸念点を人事にもシェアしてもらい、制度がより使いやすくなるように都度改善しています。あとは、朝が忙しいとか特定の時間だけヘルプに来てほしいという声もあったので、短時間でも割安で利用できるように交渉しました。金額面での支援だけではなく、実際に制度を利用してもらえる体制を整えていきたいと思っています。
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吉竹綾子/人事部人事課マネジャー PROFILE:1975年生まれ。98年に大学卒業後、外資系コンサルティング会社でアナリストとしてキャリアをスタート。北米系5ツ星ホテルや欧州系製薬会社の日本国内事業所にて人事管理職を務めた後、16年より現職。二児の母親。 Photo by SHUHEI SHINE
WWD:他にWCの発足によって変わったことは?
小澤:時短勤務が、それまでは子どもの年齢が3歳までだったのを、小学校入学まで延ばしました。それから一番大きいのは、フルフレックス制度が導入されたことです。これは業務の内容によっては難しい場合もあるので部門ごとの導入ですが、初年度の2014年に比べると、活用する部門が大幅に増えています。
WWD:活動内容も広がっていますが今後の展望は?
小澤:第一回目の提案が徐々に実現されてきて、今は有志メンバーが複数のグループで活動しています。例えば、社内のいろんな部署からメンバーを選んで10数人でランチをする「ランチボックス・プロジェクト」や、会社やその周りの環境をもっと居心地の良い場所にしたいということで地域の清掃活動を行う「グリーン・ポッド・プロジェクト」、日々の業務に追われるだけではなくて、もっと積極的にキャリアアップについて考えていこうという目的の「女性のキャリアについて考える会」などがあります。「女性のキャリアに考える会」では、米国本社の女性バイス・プレシデントを招いて、仕事に対する意識や考え方を話してもらうトークイベントを開催したりもしました。
吉竹:ママさん社員の「お母ちゃん会」というのもあって、育休・産休から復職する際は彼女たちがランチ会を開いてくれたりもします。
小澤:「WC」の活動もそうですが、今後は会社全体で女性社員も含めたダイバーシティをもっと推進していきたいと考えています。「WC」の中には「ピンクリボン準備委員会」という会もあるのですが、今後はピンクリボンに限らないチャリティー活動だったり、社員全体で地域貢献活動やボランティアに携わる機会を設けていきたいと思っています。それらに参加することで多様性という部分への理解も深まると思うので。あとは、そうした多様な社員を束ねるマネジャーに向けたチーム育成のための取り組みにも力を入れていきたいです。
WWD:まだまだ男性中心の企業が多い中、ニューバランスが女性管理職の増加に力を入れているのはなぜですか?
吉竹:大きく分けて2つあります。まず一つは、今後の日本社会では、男女の区別や労働時間の長短で評価する制度は通用しなくなるだろうということ。例えば、子育てが終われば次に来るのは親の介護の問題だったりするし、実際に介護で仕事を辞める男性もいます。少子高齢化によって労働人口が減っていき、仕事のスキルもより高度な専門性やマネジメント力が求められる。勉強しながら働くという人も増えてくるかもしれません。そういう中で、5時間しか働けないからあなたはダメという働かせ方では企業として生き残っていけないと思うんです。いろんな働き方があって、それで成果を出していくチームを作っていかなくてはいけない。そういうロードマップを描いたときに、現時点では、制約を持っている社員の一番多い層がたまたま女性だったというだけです。今、本人もチームもうまくやりくりして成果を出していくための施策に取り組んでいかないと、今後みんなが何らかの制約を持っている状況になったときに、企業として対応ができなくなってしまいます。
そして、もう一つは「ニューバランス」が多くの女性に愛用していただいているブランドであるということ。女性がどういうものを欲しいかといったニーズや市場の動向を察知する上で、女性の視点が重要です。そういった視点を社内リソースとしてもっと活用していきたいと思っています。また現在はスニーカーブランドとして消費者の方に認知していただいていますが、今後はスポーツブランドとしての幅を広げていく予定です。普段、タウンユース用として「ニューバランス」の靴を履いている方が、ちょっと運動をしようかなという時に、ランニングシューズやウェアを、こういう理由で良いからと選んでもらえるようになりたいんです。働くママで日々運動している社員が、こういうニーズがあると感じている部分を実際に商品に反映できたらいいなと思っているので、女性社員にも積極的に意見を出してほしい。そのためには、仕事の中でのやりがいや、自分の意見を尊重してもらっているという自覚があることが大事。「制約があるから後ろめたい」のではなくて、「制約の中で、十分に会社に貢献している」と本人が思えるような環境を作っていくことが大切だと思っています。