2015-16年秋冬「クレイグ・ グリーン」コレクションから
ファッション界、少なくともメンズの世界では、世代交代が進んでいる。いや、既にリポートしている通り、2015-16年秋冬ロンドンメンズはベテランデザイナーが奮起したから、活躍する世代が増えていると言うべきだろうか?半年前の15年春夏の主役は、30代中盤から後半の“ロストジェネレーション世代(以下、ロスジェネ世代)”。自らの原体験を基に1990年代のスタイルを提案して、ファッション業界に危機感を抱き、「このままではいけない」と考えていた同年代のバイヤーやジャーナリストの共感を誘った。一方パリでは、“ロスジェネ世代”よりも若いジョナサン・アンダーソン(1984年生まれ)が「ロエベ」で新感覚のラグジュアリーを発表し、話題をさらった。去年30歳になったばかりの84年生まれの前後には、ストリートライクなスタイルを武器にビッグメゾン「バレンシアガ」のクリエイティブ・ディレクターにまで上り詰め、マルチに活躍するクリエイターにとって憧れの存在になっているアレキサンダー・ワン(83年生まれ)もいる。“花の84年代組”には、今後も注目だ。
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「クリスチャン ダダ」2015年春夏パリ・メンズ・コレクション
そんな“84年代組”には、パリメンズを舞台にコレクションを発表し、今シーズンはウィメンズも東京コレクションでお披露目する「クリスチャン ダダ」を手掛ける森川マサノリ・デザイナー(84年生まれ)がいる。昨年、初のパリメンズの後インタビューすると、彼は「僕ら世代」という言葉を頻繁に用い、若いクリエイターのマインドを教えてくれた。彼によると“84年代組”、もしくはそれより若いジェネレーションは「リミックス」世代。「それなら“ロスジェネ世代”もリミックスだ」と反論すると、「僕らは、全てをフラットに捉えリミックスする世代」と話した。15年春夏メンズでフェティッシュなレザーウエアに加えた桜吹雪をたとえに挙げ、「(“ロスジェネ世代”も)ジャポニスムをリミックスすることはあるかもしれない。でもその時、彼らは“あえて”ジャポニスムを選択し、そこに何らかの意味を込めていると思う。けれど、僕たちは違う。僕たちは、特別な意味を込めてジャポニスムを選んでいない。単にそれが魅力的だから、リミックスするだけ」と言う。「なるほど。それが今ドキのクリエイターか」と変に納得したのを覚えている。そして、15-16年秋冬コレクション。若手の街ロンドンでは、森川デザイナーの言葉を思い返すことで、目の前のコレクションを咀嚼(そしゃく)しようとする機会がたびたびあった。彼の言葉を特に強く思い出したのは、“ネクストジョナサン・アンダーソン”として取り上げたクレイグ・グリーンと、「トップマン」が支援する3人のデザイナーのコレクションを見たときだった。
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「アストリッド アンデルセン」2016年春夏ロンドン・メンズ・コレクション
「クレイグ・グリーン」の15-16年秋冬は、90年代風のレイヤードに、例えば打ち掛けのようなノーカラーコートを重ねたり、帯ベルト付きの柔道パンツを合わせたり。このスタイルは今シーズンに限った話ではなく、初めて単独でショーを開催した前回も、そして、「トップマン」が支援する合同ショーに参加していた1年前も同じ。作務衣のような前合わせのトップスに袴パンツのスタイルは定番で、それをボロボロにしたり、別のアイテムをレイヤードしてみたりの和洋折衷風ストリートが多かった。こうしたスタイルが幾度となく現れると、「トレンドのストリートライクなレイヤードにオリエンタリズム、特に和のユニフォームのようなアイテムを合わせる自由なリミックス感覚」が見えてくる。そして彼のスタイルは、地元ロンドンではファッション・キッズを中心に一定の人気を誇っている。ロンドンの新人と言えば、「アストリッド アンデルセン」や「KTZ」などを連想しがちだが、前者の洋服はファッション・キッズにとって買える価格帯ではなく、後者はデザイナーが年配で若者はクリエイションに共感しきっていない。一方で「クレイグ・グリーン」の洋服は、スタイルが和洋折衷で(今の若者には)新しく、単品はベーシックで着回しやすい。そして、時にモデルがボロをまとったり、ガラクタを持って現れたりするショーは、ナイーブな若者の共感を得るに至っている。ちなみにクレイグは、2012年にセント・マーチン美術大学の修士課程を修了した、今年28歳のデザイナーだ。
そして、「トップマン」の支援を受ける3人のデザイナーは、まるでクレイグ・グリーンに憧れ、彼の後に続こうとしているようだ。森川デザイナーの言う通り、若手のリミックス感覚は自由奔放だ。レイヤードというストリートスタイルにオリエンタリズム、さらにはミリタリーを含むユニフォームの要素をごちゃ混ぜにして、若いジェネレーションの支持をジワジワ広げている。半年前に“ロスジェネ世代”の台頭が決定的になったとき、筆者を含む同年代のジャーナリストやバイヤーは、「自分たちが業界の主役になってきた」と感じた。しかし、時代は急速に進んでいる。ストリートとのリンクがシーズンを追うごとに強くなっているメンズは、ウィメンズに比べ新人が育ちやすく、特にロンドンは今回こそ若干低調だったが、ハタチそこそこのデザイナーが次から次へと現れる。次世代とのコミュニケーションを意識しなければ、あっという間に取り残される。そう感じたメンズのファッション・ウイークだった。
※文中の肩書き・事実関係などは2015年1月26日当時のものです