世界最大手のコミュニティー主導型ホスピタリティー企業のエアビーアンドビー(AIRBNB)による、現地のエキスパートが企画する手作りアクティビティーに参加できる“体験”プログラムに注目だ。同プログラムは昨年11月、エアビーアンドビーが宿泊の枠を超えたサービス「トリップ(TRIPS)」の一環としてスタート。消費者の関心がモノからコトに移りつつある中、日本を訪れる観光客の関心を集めている。カルチャー系の体験に関しては、日本人の参加者もいるという。
プログラムは着物の着付けやファッションのプロによるコーディネートをはじめ、銭湯、利き酒、クッキングからアウトドアまで幅広く、アプリ上の“体験”から興味のあるプログラムを選ぶことができる。体験は1日数時間のものもあれば、2~3日にわたるディープな体験も。価格はホストによる設定だ。先週東京で開催されたプログラムの一つ「キモノフュージョン(KIMONO FUSION)」に潜入。アクティビティーの内容および、ホストと参加者のプロフィールなどを紹介する。
「キモノフュージョン」は1日3.5時間、ホストのアトリエでキモノの着付けを体験後、近辺のホテルでアフタヌーンティーを楽しむというプログラムだ。今回の参加費用は1万1000円(税込み・アフタヌーンティー代別。変動する場合有)。2日にわたり行うプログラムもある。ホストは「マーム(MARMU)」というキモノブランドを手掛ける中村麻美。彼女は某企業の外注デザイナーとして働きつつ、キモノの着付け教室を行っている。一般社団法人のきもの採寸師協会の理事も務めるなど、キモノに関してはプロ中のプロだ。昨年、エアビーアンドビーから声がかかり、“体験”プログラムに参加を決めた。彼女のアトリエには、「マーム」のキモノだけでなく、足袋や草履まで完備。中村は、「3歳から日舞を習っていたのでキモノにはずっと馴染みがありました。着付け教室をしているということもあり、2年前、グラフィックデザイナーの友人と『マーム』をスタートしました」と言う。今回がエアビーアンドビーで初のホスト体験だという。
今回のゲストはアルゼンチンからオリビアと上海からミンディーの2人。オリビアは約1カ月間日本で休暇中、ミンディーは週末を利用しての来日だ。オリビアは20歳で、ファッション関連のSNSプロデューサの卵。彼女は、「一緒に来日中の彼がスキーに行っていて、私一人で何かできることを探していたの。エアビーアンドビーからのおすすめで参加を決めたわ」とコメント。35歳でリカー関連のブランドマネジャーをしているというミンディーも日本の大ファンだ。「飛行機で3時間程度だから、毎週末来ているわ。今回4度目の来日よ。日本の文化にすごく興味があるの。観光地にあるキモノじゃなくって、本格的なキモノを着てみたかったの」と話す。
テーブルにはモダンで鮮やかな柄のキモノが並べられ、ゲスト2人はキモノ選びを始めた。オリビアはパステルカラーが春らしい“唐猫牡丹(獅子の代わりに猫が描かれている)”を、ミンディーは鮮やかなフローラル柄“ガーデン”をセレクト。中村が慣れた手つきで着付けを始めた。キモノに関して中村は「『日常のファンタジー』がコンセプトで、洗濯機で洗えてお手入れも簡単。トータルでそろえても10万円以内と手頃です」と話す。なるほど、キモノの着付けという“体験”を提供する材料・技術・アフターケアがしっかりしている。着付けが終わるとオリビアは「コルセットを付けているみたいだけど、とても美しい。カラーもスタイルも素敵」とコメント。ミンディーは「色使いといい、軽さといい、とてもモダンなキモノね」と満面の笑みを見せた。中村がお土産用のキモノ柄と同じスカーフをテーブルに並べると2人から歓声が上がり、それぞれ気に入った柄を選んでご満悦。
着付けが終わると、アトリエからほど近いウエスティンホテル東京(WESTIN HOTEL TOKYO)へ移動。優雅なロビーでアフタヌーンティーと会話を楽しんだ。「1カ月の滞在中に、京都や大阪、直島にも行ったわ。日本が大好きで、今年の秋、また来るつもり。もう航空券を購入済みよ」とオリビア。ミンディーは「日本の文化に魅了されているの。ディテールに凝っているでしょう。東京だけでなく、名古屋など地方に行くこともあるわ」と話す。会話の合間に中村は、さりげなくキモノ着用時のマナーを伝授。ゲスト2人は中村から着用時のナプキンのつけ方や手の添え方、袖や裾裁きなどを習った。優雅なひと時を楽しんだのち、庭で記念撮影後に、再びアトリエへ。ゲスト2人は私服に着替え、中村に感謝を述べ帰途についた。
国内外問わず、気軽に新たな体験を通して交流ができるエアビーアンドビー「トリップ」の“体験”。世界各国でこのサービスは行われており、パリで香水の調香師のアトリエ訪問、ロサンゼルスでサーフィン&アドベンチャー体験などのさまざまなプログラムがある。オリンピックに向け観光大国まっしぐらの日本でも浸透していくだろう。