忙しすぎてあっという間に終わってしまった!初めて本格的に取材したロンドン・ファッション・ウイークは、まさにそんな感じでした。これまでパリコレやミラノコレを担当してきましたが、ロンドンはもしかしたらファッション・ウイークの中で最もハードスケジュールなのではないかと思います。というのも、毎日朝から晩までほぼ1時間ごとにショーがあるだけでなく、その間に数多くの若手ブランドのプレゼンテーションもあるのです。その数は公式スケジュールだけでも全て合わせると5日間で83ブランド。ロンドンといえばやはり新人発掘が醍醐味の一つなので全部行ってみたい!と思っていたのですが、これがまた、プレゼンは2時間くらいしかやっていないので、どこで行くか、行けないなら何をあきらめるかというせめぎ合いの毎日でした。そうしているうちに怒濤の5日間が過ぎ、現在はミラノにいます。ということで、遅くなりましたが、ここではロンドンで感じたことや小ネタを数回に分けてご紹介したいと思います。
白いバンダナはムーブメントになるのか?
「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」のLAでのショーではモデルの腕に白いバンダナを巻いていたり、NYではいくつかのショー会場で白いバンダナを配っていたらしいですが、なぜ白いバンダナがフィーチャーされているかご存知ですか?これは英オンラインメディアの「ビジネス・オブ・ファッション(BoF)」の呼びかけで始まった「#TIEDTOGETHER」というムーブメントで、今季のウィメンズ・ファッション・ウイーク期間を通して、白いバンダナを身につけて人々の団結や一体感を表明しようというものです。まさに多様性で成り立っているファッション業界らしい取り組みですよね。出国前に「トミー」のショーの画像を見ていたので、僕も家にたまたまあったバンダナを持参してバッグにつけていました。
しかし、「BoF」のお膝元であるロンドンではこのムーブメントはそんなに盛り上がっておらず……。セント・マーチン美術大学のショーのフィナーレにはモデルが皆、白いバンダナを持って出てきましたが、それ以外ではバックステージにいるスタッフや業界人がちょこちょこつけているくらい。ちなみに「BoF」チームの彼は、コートの上からバンダナを巻くというオシャレなスタイリング。もっと浸透したら良いのになーとちょっと残念に思ったのでした。
強いメッセージ性を感じたのはこの2ブランド
イギリスはブレグジット(BREXIT。イギリスが欧州連合(EU)を脱退すること。 BritainとExitを組み合わせた造語)を控え、アメリカではトランプ政権が誕生……と世界が大きな変化の中にある今、あらためて多様性を認め合う事の大切さを発信する動きはいろんなブランドにも見られます。先シーズン、パリで取材したトーマス・メリコスキ(Tuomas Merikoski)が手掛ける「アアルト(AALTO)」もその思いをコレクションで表現していましたが、今季のロンドンでもそんな流れがたくさん見られました。
中でも、印象的だったのは、3日目の夜に行われた「ディーゼル(DIESEL)」の2017年春夏広告キャンペーンのローンチパーティーと、「アシッシュ(ASHISH)」のショーでした。「ディーゼル」はニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)さんにも取材して記事にしているので、そちらをご覧いただければと思いますが、トランプ米大統領がメキシコとの国境に壁を作ると言っている今、非常にタイムリーでメッセージ性の強さを感じます。
一方の「アシッシュ」はというと、コレクション自体は今季もスパンコール刺しゅうを全面に施した輝くカジュアルウエアのオンパレード。ただ、そこに載せた「YOU ARE MUCH LOVELIER THAN YOU THINK(あなたは自分が思っているよりももっと素敵)」や「KEEP THE FAITH(信念を貫いて)」など前向きなメッセージが秀逸でした。モデルはメキシカンプロレスのマスク風のメイクだし、野球のメジャーリーグのチーム名も出てくるし、それは間違いなく今のアメリカに訴えかけるもので、中には「MORE GLITTER LESS TWITTER」というツイッターでいろんなことを発信しているトランプに向けたものも。ただ、“批判”という感じではなく、あくまでもポジティブです。「OVER THE RAINBOW」や「IMAGINE」などのショー音楽とも相まり、会場は温かな空気に包まれて、思いがけず感動したショーの一つでした。