ほかのメディアにはない雑誌の持つ強みとは何なのか?普段、あらゆるメディアに携わっている電通と博報堂DYメディアパートナーズの2社に、改めて雑誌の可能性について尋ねた。読者と深く向き合っているからこそのマーケティング力を生かした事例から、雑誌ならではのプロデュース力が見えてくる。
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「予言するメディア」に未来は開かれている
近藤秀之/博報堂DYメディアパートナーズ 出版ビジネスセンター雑誌局業務推進部部長
Photo by Tsukasa Nakagawa
博報堂DYメディアパートナーズ 出版ビジネスセンター雑誌局業務推進部の近藤秀之・部長は、雑誌離れといわれる現状について、「雑誌メディアの場合、量的指標として『部数』のみに注目が集まりやすいが、若年層を中心に大きく人口動態が変化して、そもそものターゲット数が減少している。加えて、情報流通量が爆発的に増加傾向にあるメディア全体の環境下で、それなりの対価を求めるペイドメディアである雑誌の部数が持つ価値を過去と同じ尺度で比較することはできない」と話す。雑誌メディアの強みについては、「本当に少なくなった能動購読メディアであるがゆえに、読者との強いボンディング(絆)を有していることがまず重要だ。またコンテンツ創造メディアとして高い機動性を有していること。ブランドの本質を解説してくれるキュレーション・メディアとしての高い信頼性があること。モデル、タレント、カメラマン、キャラクターなど多岐にわたるプロパティを持っていること。新しいトレンドを創造していく先進性があることなどがその特性として挙げることができる。こうした特性は、特にファッション、コスメジャンルにおいて高いタッチポイントを獲得している」。
ファッション・コスメ以外の広告主の開拓が課題
雑誌広告に目を移すと、2013年の雑誌広告全体は2665億5700万円と前年比98.2%と減少しているにもかかわらず、特にファッション・アクセサリー(ファッション・アクセサリー、時計、ファッション関係小売りを含む)は、871億円と前年比106.0%(シェア33%)に増加しているのが注目される(博報堂DYメディアパートナーズ調べ)。一般消費財に比べて、ファッション商材が嗜好性の強い選択的商材であるためのようだ。近藤部長が述べてきた雑誌メディアの特性がここではジャストフィットしているようだ。こうした中で広告主はどのような変化を遂げているのか。
「クライアント自身のメディア化が進行していて、広告主自身が直接ターゲットと広く深くつながることがコミュニケ―ション設計の中心になっている。またスマートデバイスの伸張によって店舗とECがシームレスになっており、オムニチャネル化が進行している点も見逃せない」。
さて、出版業界では、集英社のCDR(コミュニケ―ション デザイン ルーム)や小学館の小学館 女性インサイト研究所など、雑誌がブランド・ビジネスやイベントのプランニングなどのビジネスを行なう部署が設立され、あたかも代理店的な動きを行なっているが、これをどう捉えているのか。
「こうした従来の誌面スペース売買を超えた『コンテンツ・プロパティ・ビジネス』は雑誌広告の未来の可能性を広げるものだと我々も大歓迎している」。
さらに近藤部長は、雑誌広告の問題点として、ファッション及びコスメなど限定的なジャンル以外では広告主が広告効果が低いことを挙げている点について、「『コンテンツ・プロパティ・ビジネス』は、より多くの広告主が出版社により相談しやすくなる環境を整え、ファッション・コスメ以外のクライアントにも雑誌活用の可能性が広がる契機になるだろう」と期待を寄せている。
また雑誌メディアの今後のもうひとつの課題として、「やはり人口減という不可避の問題はあるものの、今後の消費を担っていくエントリー層の確保は重要な課題になっているのではないか」と見ている。
現在好調だと思える雑誌とその条件を尋ねると近藤部長は、「具体的な誌名は挙げないが、『ファッションへの愛』がある雑誌」と答える。
雑誌の未来については、「雑誌は他メディアとの親和、連動が図りやすいという強みを持っており、今後の消費者の態度変容をもたらすメディアの中心に居続けると思う。他メディアのコンテンツ展開など他メディアにも影響を与えるセグメントメディアであるがゆえに特定の層に強いボンディング(絆)やムーブメントを作って、それが社会全体に影響を与えることが可能なメディアだ。これまでも雑誌は日本の文化を創り、心を作ってきた。潜在する欲望を具現化し、新しいスタイルや文化を生み出せる雑誌は『予言するメディア』。こうした未来をきちんと語れている媒体にはちゃんと未来が開かれていると思う」と同部長は結んだ。