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「ダブレット」が挑む「0点か100点か」のランウエイショー

 3月20~25日に行われる「アマゾン ファッション ウィーク東京(Amazon Fashion Week TOKYO)」参加ブランドで、高い注目を集めているのが最終日の25日にショーを行うメンズブランド「ダブレット(DOUBLET)」だ。過剰に重ねられた刺しゅうやワッペンをはじめ、クスッと笑えるユーモアにあふれたストリートウエアが、新しいモノ好きのストリートキッズや“普通の服”に飽きた大人たちの心を惹きつけている。またアメリカ人シンガー兼ラッパーで、インスタグラムのフォロワー数237万人のタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)、同フォロワー数7662万人のモデル、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)が私服で着用するなど、国内外で人気が急上昇している。

 現在の卸先は国内がミッドウエストや西武渋谷店など30店舗、海外はフランスのコレット、ロンドンとニューヨークのドーバー ストリート マーケット、ミラノと韓国のディエチ コルソ コモなど有力ショップを含む10店舗。2017年春夏シーズンは、ドーバー ストリート マーケット ギンザで早くもプロパー消化率100%を達成した。また「東京ファッションアワード」を受賞して今年1月にパリで展示会を行い、海外の新規卸先も複数決まった。今、東京のストリートを代表するブランドとしてさらなる飛躍が期待されている。

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 そんな高まる注目とは裏腹に、井野将之デザイナーはあくまで等身大だ。現在の自宅兼アトリエは東京・調布市つつじヶ丘の2階建てアパートの1室。部屋には所狭しとサンプルが並び、商品の発送シーズンには部屋が段ボールで埋もれるという。ホームページに届く商品の問い合わせも、未だにデザイナー自らが返信している。取材中も取引先やショーモデルのブッキングの電話がひっきりなしに鳴り続け、それら一つ一つに真摯に対応していた。そんな実直な働き方は、多くの苦労を重ねた井野デザイナーの経験が影響しているのかもしれない。「学校を卒業し、アバハウスインターナショナルで靴やベルトを作っていたが、なかなか自分がやりたい企画が通らなかった。結局会社を辞め、浅草でベルトを作っているおっちゃんの所で働くことになり、ひたすらベルトにスタッズを打ち続けていた。今まで発注する側だったのが、される側の立場に立ったことで作り手側の気持ちを知れた良い経験だった」と井野デザイナーは振り返る。

 その後、「毎月のように、一方的にデザイン画を送り続けていた」という三原康裕「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」デザイナーのもとで、シューズ担当として約7年勤務した。そして13年春夏シーズンに自身で設立した「ダブレット」で念願のデビューコレクションを発表するも、順風満帆にはいかなかった。「最初は張り切って20型近く作ったが、全然売れずにガタガタだった。2シーズン目に『TOKYO 新人デザイナーファッション大賞』を受賞してファッション業界の方にも見てもらえるようになったが、その後数シーズンはストリートやモードなどを行ったり来たりし、デザインもビジネスも安定しなかった。よく買ってくれていたバイヤーさん数人に『何がやりたいのかわからない。アイデアは良いけど落としどころが下手』と言われた時は、正直、ブランドの終わりも考えた」。悩み抜いた結果「どうせ終わるならやれることを思い切りやろう」という決意で制作した16-17年秋冬シーズンのコレクション“DON’T DO IT YOURSELF”が好評価を得た。フランスのコレットを皮切りに、海外の卸先も続々と決まった。「それから服作りがさらに楽しくなった。ブランドイメージや売れる売れないよりも、思いついたアイデアを思いついたままやれば評価がついてくる。運も良かったんだと思う」。

 井野デザイナーの服作りは、そのキモとなるアイデア出しからスタートする。「アイデアの考え方を例えると『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンド能力みたいな感じ。“溶かす”“空中で固定する”みたいな得意技を分かりやすく服で表現することにこだわっている」。そう例えるように、にぎやかで派手なコレクションに見えて、アイテム個々のポイントは明快で分かりやすく、見る楽しさ、着る楽しさがある。しかしランウエイショーでは、いつもとは違う雰囲気でブランドらしさを表現するという。「ショーは見てる人を楽しませるエンターテインメント。事前に公開しているルックそのままの雰囲気で見せても面白くない。バイヤーさんや遠方からの取引先の方々が楽しんでくれるように、良くも悪くも期待を裏切りたい。0点か100点かぐらいに評価が分かれてもいい」。

 初のランウエイショーやパリの展示会を経て、さらなる知名度アップが期待されるが、井野デザイナーは現状を冷静に分析する。「海外の展示会でも感じたのは、今『ダブレット』は色物扱いされているということ。『ダブレット』らしさは見えつつあるが、いずれは飽きられるかもしれない。どんどん新しいモノを提案しないといけない。今はスニーカーじゃないと合わない“着崩れてるスーツ”を作っていて、今後もこういったアイテムを増やしていくつもりだ。ブランドをあと50年やりたいので、焦らず、じっくりやっていきたい」。

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