大久保聖歌さん/Sense
風・水・重力といった自然エネルギーによって形成された大地のテクスチャーを表現したという大久保さんの作品は、一般的に梱包材として使用されるポリウレタンシートを多用した。「素材のリサーチをした結果、氷や樹氷といったハードな表現が可能で、カッティングがしやすく、熱処理の加え方によって様々な表情が出ることが分かった」と大久保さん。加工したポリウレタンシートは、ニットに貼り付けるのではなく、染色した糸と一緒に編み上げた。「大学3年の夏に『ユキフジサワ』でインターンをして、ニットの補修などを担当した。その時に糸や素材の表現がダイレクトにできるニットの魅力を知った」と話す。現在ヘアスタイリストの加茂克也のアシスタントとして働くが、卒業後も続ける予定。ゆくゆくはCMや演劇などの衣装制作に携わりたいという。ポリウレタンシートを使用したのは、将来の夢を見据えてのことでもある。「衣裳は予算が限られていることも多い。ポリウレタンシートなら安く仕入れられて、軽くてウェアラブルで表現の幅も広い」
江藤友理子さん/○○族
時代の変遷とともに登場してきた様々な“族”を思い浮かべ、オリジナルの“族”を表現したのが、江藤友理子さんの「○○族」。「族はファッションでコミュニケーションを取る」という考え方のもと、16人分の服を制作した。「1989~2000年の頃の文化や空気感を表現したかった。昭和から平成に移り変わるときの新旧の時代、バブルが終わりかけて、でもまだその残り香があるような時代を思い浮かべた」。江藤さんの作品には、織り、刺繍、編み、シルクスクリーンプリント、転写プリント、レーザー加工など様々な技法が使われている。刺しゅうデータのプログラミングや、コートに使用した新聞の紙面デザインから、プリント作業、手織りまで、全て一人で行った。多摩美は全行程を自ら行うという教育が徹底していることで知られるが、刺しゅうやプリントなど多彩な技法を全て一人でやりきるのは珍しい。「まず絵を描いてみて、ベストな表現方法を考えた」と江藤さん。約3カ月という短い期間の中でやりきった。将来の夢は自分のブランドを立ち上げること。「6年後にブランドを立ち上げたいから、今後5年は留学なども視野に入れて、勉強したいと考えている」と具体的な目標を話した。
林 星瑩(リン・セイエイ)さん/生き続ける服
中国・福建省出身で留学中の大学院生の林さんは、古着を使用し、服の生死を表現した作品を制作した。「死んでいるのが地の部分、生きているのが裂き組みをした部分。一度死んでしまった生地を他の生地と組むことで、新たな生地として蘇らせ、命の流れを見せたかった」。着想は、ヒビの入った陶磁器に金を装飾して新たな器として楽しむ日本の伝統工芸“金継ぎ”から得たという。「破れたものも美しいという考え方が印象的だった。その考え方を服で表現できないかと考えた」と林さん。一着に使用した古着はなんと10~20枚。首や腕を通す穴はあるものの「あくまでオブジェ」と言う。「着るためのものではないからこそ、もともとの服のイメージが湧く作品になるよう意識した」。
吉田彩利さん/家族
オーガンザの服に様々な色糸の手刺繍をちりばめた吉田さんの「家族」は、タイトル通り自分の家族をテーマにした作品だ。父、母、自分、妹が普段着ている服をイメージし、実際のサイズで作り上げた。刺繍されているのは、缶コーヒーや靴、軽量カップ、ゲーム機など、それぞれの生活を表すようなモチーフ。「その人の空気感が伝わるように、素材はなるべく軽いものを選んだ」全て手刺繍で仕上げた作品からは繊細な雰囲気が伝わる。卒業後は大手下着メーカーに就職予定だ。