デジタルとファッションをテーマにしたウェブメディア「ディーファ(DiFa)」が4月5日、宮坂淑子・新編集長を招へいした新体制を発足した。「ディーファ」はデジタルマーケティングを手掛ける博報堂グループのスパイスボックスが2015年に立ち上げた自社メディア。今後は宮坂編集長が「エル・オンライン(ELLE ONLINE)」「ヴォーグガール(VOGUE GIRL)」編集長などを歴任した手腕を生かし、ファッションコンテンツの拡充とさらなるユーザー獲得を目指す。同媒体の展望とデジタルメディアの今後について、宮坂編集長に聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):「ディーファ」のサイトに関して、まずはデザインが変わったという印象を受けたが?
宮坂編集長(以下、宮坂):3月中旬からサイトに関わりはじめ、デザインのリニューアルを行いました。「ディーファ」ではファッションとデジタルに関するニュースを扱っていますが、これまでは少しニッチだったように感じます。テクノロジーといっても小難しいものだけではなく、「スマホケース」も「絵文字」も「インスタ映えするコスメ」もコンテンツとしてはあり。現在のユーザーは7割が女性なので、男性も含めて広い層に見てもらえるサイトを目指します。
WWD:初めて「ディーファ」を見たときの印象は?
宮坂:近未来的だと感じました。ただ、撮り下ろしがなく、ビジュアルの強さに欠ける印象でした。デジタル分野は難しいからとファッション業界の人は敬遠しがちですが、楽しく入りやすいものなんだ、ということを伝えていきたいです。
WWD:具体的に何をやっていくのか?
宮坂:コレクション取材を通じてデジタル化されていくファッションの変化を肌で感じていたので、デジタルに対する興味はありました。しかし、聞いたことはあっても意味の分からない言葉がたくさんありました。きっとユーザーも同じはず。だから、シリアスに深堀りする記事だけではなく、いろんなレベルのコンテンツを用意したい。もちろん取材・撮影もするし、現場で感じたことをそのまま発信していきたいです。
WWD:編集長としてのモットーは?
宮坂:読者目線に立って考えること。デジタル分野に関して当たり前に知っている上で楽しめるものではなく、分からない人でも楽しめるよう同じ目線に立ったコンテンツ作りをしていきます。編集を続けているのは新しいものを追いかけることが好きだから。自分自身もデジタルについてもっと勉強をして、みんなに興味を持ってもらえる独自コンテンツを作ります。
WWD:ファッション業界でもテクノロジーの影響力が大きくなっているが、両者の関係が深くなったと感じたのはいつ頃か?
宮坂:ニューヨーク・ファッション・ウイークを中心に取材していたのですが、10年前くらいに入場方法が電子化されました。これがファッション業界のデジタル化を意識しはじめたきっかけです。その後は7〜8年前に「ジースター ロゥ(G-STAR RAW)」のショーで、ツイッターをリアルタイムにサイネージに表示する手法を見たことも印象に残っています。最近だと、3年前くらいに「ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)」が噴水にコレクションを3D投影したコレクションを見て、デジタルの時代に入ったと確信しましたね。
WWD:デジタルとの関わり方が面白いファッションブランドは?
宮坂:「バーバリー(BURBERRY)」などのビッグメゾンはもちろんのこと、小さいブランドをやっているデジタル世代のデザイナーも気になります。発表の仕方や売り方なんかもさまざまで、これから何が起きるのか、常にワクワクしています。一方で、クチュリエが一針一針縫うアナログな洋服にも敬意を払わなければいけません。後継者不足といった問題もありますが、もしかするとデジタルが何か変えられるかもしれないし、デジタルと伝統がうまく共存できるようになればいいと思います。
WWD:テクノロジー分野では「マスカスタマイゼーション」などの技術も話題だが?
宮坂:オートメーション化した服は、自分にあった洋服を簡単に見つけられるので、確かに便利です。しかし、そこにクリエイションがあるのかと言えば、難しい。誰もがクリエイターの洋服ばかり着ているわけではないですが、予想だにしなかったデザインの洋服を頑張って買うことには夢があります。なので、両者は別物として考えなければいけません。
WWD:では、テクノロジーの進化がメディアに与える影響はあるか?
宮坂:SNSが出始めた頃は、ここまで普及するとは思いませんでした。今やSNSは個人が表現できる場所。ウェブメディアではそんな読者の声をすぐに拾ってニーズに合うコンテンツ作りができます。今のウェブメディアは「共存型媒体」というイメージです。
WWD:ニーズに沿ってコンテンツを作るということ?
宮坂:ニーズに寄りすぎても良くない。実際に占いコンテンツとセレブゴシップなどのニュースを扱えばある程度の閲覧数は見込めます。しかし、それだけでは同じような媒体ばかりが増えて面白くない。オリジナリティーが必要です。すでに、スマホとPCでブログが台頭し始めたことで“人類全員編集者”時代になりました。プロとアマの違いがなくなり始めています。しかし、プロの編集者としてどういう記事を見せていくか、他とは差別化をしなくてはいけません。
WWD:ということは、プロの編集者にとっては厳しい時代?
宮坂:SNSのように直感的に物事を発信して、その情報を鵜呑みにしていては、多角的に物事を切り取る力がなくなってしまいます。人は切り口がないコンテンツにはすぐ飽きてしまいます。だからこそ消耗されない努力をしなければいけません。一過性のものにならず、媒体特性を持ってプロとして編集をしていかなければ、生き残れない時代になっています。
WWD:昨今のキュレーションメディア騒動に見られるように、“PV至上主義”が蔓延しているように感じるが?
宮坂:大きいサイトから小さいサイトまでがPVを稼ぐからくりを知っているのと同様、ユーザーもクライアントもそのことを分かっています。大切なのはエンゲージメントをいかに測るかです。これまで自発的に色んなサイトを見ていたユーザーも、キュレーションサイトで幅広い情報を能動的に受け入れる時代です。見方自体が変わっています。でも、キュレーションサイトは楽をするためで、メディアとは別物で存在していいものだと思います。一方でわれわれは一つ一つ思い入れのあるコンテンツを作っています。いい記事は紙媒体でもデジタルでも必ず人の心に届くはずです。
WWD:PV基準でなくなるとすれば、広告収益以外のメディアビジネスを考える必要があるということ?
宮坂:「ディーファ」でもファッション企業のコンサルティングやデジタルマーケティング、商品開発など、さまざまなビジネスの可能性を探っています。ファッションメディアでありながらファッション以外の分野にもビジネスを広げていけると考えています。