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メードインジャパンは取り戻せるか?名門産地企業トップの秘策

 毛織物産地として世界的にも知られている愛知県一宮市を中心とした尾州。中でも中伝毛織は、数少ない自社一貫設備を持っていることで知られる。通常、毛織物は紡績、染め、織、編み、整理加工の工程ごとに業者が分かれているが、中伝毛織は染めから織りまでの工場が自社の敷地内にあり、整理加工も尾州内に関連会社を持つ。最先端の機械に投資し、その使い方や改良についても機械メーカーと相談を重ねながら独自の製品を生み出し続けている。尾州の織物工場の数は最盛期の20分の1とも言われる中、中伝毛織の強みは生産力、販売力、企画力の三位一体で実現するその独自性にある。

 「20年前の大量生産時代には作れば売れたが、ものが売れなくなっている今、いかに新しいモノを生み出せるかが重要」と中島幸介・社長は話す。背景には日本のテキスタイル産業を取り巻く構造的な変化がある。大手の小売りやアパレルメーカーからの受注数は減少する一方で、インディペンデントなデザイナーなどからの発注が増えており、「(こうしたクライアントは)他にはないものを欲しがっている」。彼ら/彼女らに対し新しいトレンドやアイデアを発信し続けるため自社一貫生産の重要性はますます高まっているという。理想は「量産の生地が7~8割、特殊な生地が3割」だが、量産生地の需要は減っており、全体の生産量をキープするのは厳しいのが現状だ。

 ただ、環境についてはポジティブに捉えている。これまで増え続けたアパレルの海外生産について希望が持てると中島社長は話す。「中国も人件費は高騰しており、排水施設の整備や運輸なども含めたトータルコストで考えるとテキスタイルに関しては国内生産とあまり変わらなくなってきている」。中伝毛織も、お湯のリサイクル、重油や電気代の使用料を減らすなどの工夫をしており、「電気代はこの5、6年で3割程度コストを削減できた」。ネット通販の普及も国内生産を後押しする遠因になると見る。「従来のネット通販の欠点は、商品に触われず、品質が分からないことだった。だが最近は、原産地を明確に示すメーカーがネット販売を始めるケースも増えている」。こうした国内生産の商品を買う消費者も増え、関心度も高まっているという。一方で障害となるのが「縫製工場が減っていること。縫製は一番人手が必要な工程で、人件費が安い海外に頼りがち」。だがこの問題も「今後自動化が進めば日本での生産も見込める」と中長期的には解決する可能性を示唆する。

 一方、製品をアピールしていく仕組みはこれまで以上に必要だ。「ロロ・ピアーナやエルメネジルド・ゼニアのように企業名を聞けばブランドイメージが浮かんでくるような企業を目指したい。来日したデザイナーが良い素材を見せてほしいと訪ねてくれるような企業が理想」と君浩・副社長。2月に「シアタープロダクツ」との協業でニューヨークデビューを果たしたのもそうした背景がある。

 「いい生地とは?」と尋ねると「売れる生地」と社長・副社長ともに口をそろえた。「だが売れる生地の定義はクライアントによって違う。要望に応えられるよう、今まで以上に川上から川下までが協業していくことが必要。産地全体を盛り上げていくという意味では、産地内の連携も強くしていきたい」と君浩・副社長。これまでにない新しい生地を生み出すという意味では、他産地との連携も進んでいる。合繊の産地として知られる北陸の企業が、ウール混素材の加工についてのアドバイスを求めて訪れることもあるそうだ。「世代交代が進み、20~30年前東京の商社で知り合い、一緒に営業に回った人たちが今は社長になっている。どの企業も“新しいことをやらないと”という意識もある」。メードインジャパンを取り戻せるか。その答えを握る鍵は企業・産地・業種を超えた連携にありそうだ。

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