俳優の坂口健太郎は1月から3月、人生で初めての金髪に挑戦した。日本テレビドラマ「東京タラレバ娘」で演じたKEYというキャラクターの役作りの一環だったが、番宣のバラエティ番組や雑誌への出演も加わり、金髪姿はドラマにとどまらない認知と反響を生んだ。役者として今年獲得した第41回エランドール賞の新人賞や第40回日本アカデミー賞の新人俳優賞の授賞式でも、「グッチ(GUCCI)」のエレガントなスーツとマッチする金髪スタイルだった。3月下旬、ドラマを終えて黒髪に戻す前夜の坂口に撮影を申し込み、「グッチ」を着用しての金髪最後の肖像を記録に残し、ファッション観を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):約3カ月の金髪生活はどうだったか?
坂口健太郎(以下、坂口):まずキープとケアは苦労しましたね。3カ月で計8回は染め直しました。僕、茶髪はあったけど今回ほど色を抜いた変化は初めてで、なかなか評判も良かったです。自分でも好きだなと思いました。金髪だと黒い服ばかりが似合うかと思いきや、わりと何色でもいけましたね。ピンクや緑も良いし、赤と水色も実はすごく似合うなと思った。僕が色白なのも理由の1つかもしれません。金髪で肌の白さも際立ちました。髪色が違うだけで着る洋服の楽しみも増えた。25年間でいちばん派手な時期だったかもしれない。
WWD:坂口さんにとって、金髪のアイコンといえば?
坂口:僕は「東京タラレバ娘」の役に合わせていたので、素直に「あ、KEYだ」と思いました(笑)。金髪のアイコン、誰がいますかね?
WWD:たとえばスーパーサイヤ人とか。
坂口:たしかに! 僕も金髪でオールバックにすると、「スーパーサイヤ人カラーだ」みたいなことは言われていたんですよ。今(4月中旬)はもう黒髪に戻しましたけど、世間的には僕のイメージはまだ金髪だから、最近会う人に新鮮だと言われます。ということは坂口健太郎の金髪って、ある程度皆さんの中にイメージとして定着したのかなって。スーパーサイヤ人ほど普遍的ではないけど、一過性のアイコンとしては強力だったかもしれませんね。それに坂口健太郎の年表があるとしたら、金髪はひとつの時代を築いた感じがあります。1年のうちの1クールだけだから世の中的には一瞬かもしれないけど、金髪で盛り上がった感じは公私ともにありました。
WWD:19歳の時に自ら「メンズノンノ」モデルのオーディションに応募しているが、ファッションに目覚めたのはいつ?
坂口:親が物にこだわりを持つタイプなので、小さい時から良い服を着させてもらっていたと思います。高くはないけどクラシックなブランドの可愛らしい洋服に、小さい頃から馴染んでいました。それと保育園や小学校低学年の時は帽子が大好きでした。姉がいたからか、男らしいキャップじゃなくて全つばのバケットハット的なタイプが可愛くて惹かれていましたね。
WWD:「可愛い」という言葉が出てきたが、メンズファッションに可愛さは重要?
坂口:今ってカッコいいと可愛いの境界線がもう曖昧じゃないですか。だから最近は、カッコいい目線で見てる洋服も「あ、それ可愛いね」って言えちゃう。僕の中でも洋服においては一緒になってる感覚がある。洋服を着てる人に対しては男女問わず「カッコいい」を使うことが多いかな。
WWD:よく履いている「トロエントープ(TROENTOPE)」のサボや「サニタ(SANITA)」の木靴や古着もそうだが、私服にもキャラクターっぽい可愛さがある。
坂口:なるほど。柔らかいふんわりとした世界観ですかね。僕、よく「変な服を着てる」って言われるんですよ。母親からもしょっちゅう言われるし、衣装合わせの時はスタイリストの方からも「いつも不思議な服を着てるね」って。それは多分、スマートにも着たいんだけど、自分が心地よくて楽しく着ることが大事だからなのかなと。日本と色彩感覚が違う海外の、ヨーロッパのおじいちゃんやおばあちゃんが好きに着ている色合わせって素敵です。色に限らず、自分の中にあるちょっとしたズレた感覚を大事にしたい気持ちはあります。
WWD:その感覚の源が気になる。最近影響を受けたファッションは?
坂口:最近、昭和60年代のハイウエストのスーツに惹かれました。当時って力仕事でもスーツを着ていて、運動靴が普及していないから革靴で現場を走り回っていたそうで。ハイブランドで今トレンドのハイウエストともまた違って、昔のそれが当たり前だった時代のハイウエストが着たいなと思う。ハイブランドのデザイナーさんも、わざとズレを作ろうとしていますよね。
WWD:古着好きで知られるが、ハイブランドへの興味は?
坂口:ハイブランドも好きですよ。僕の親父は、買うならお金を貯めて良いものを買いなさいと教える人だったんです。その方が物を大事にするから。安い服を10着買えるお金を貯めて、気に入ったハイブランドの洋服を一着買うこともファッションの醍醐味だと思う。親父は年代物の外車が好きで、原産国から部品を取り寄せてオーバーホールして今も乗っています。親父からの影響は大きいかもしれませんね。
WWD:今回の撮影で着た「グッチ」の印象は?
坂口:無機質な都会のストリートでの撮影でしたが、合いますね。派手さが映える。ある意味東京という街を楽しみつくせる洋服かもしれない。ペールピンクのスラックスや派手なスカジャンとシャツなど、金髪だから似合う要素も詰め込んだスタイルでした。アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の「グッチ」は、変わっていく良さを持っているブランドだと思います。普遍的な良さもあるけど、僕は流されるべきだと思うんですよ。その瞬間に掴めるものを選んでいく方が絶対にチャンスがあるし、掴めなくても見たり触れたり経験できる。ミケーレの「グッチ」にも引っかかるズレがあって、印象に残る「グッチ」になっていますよね。
WWD:「WWDジャパン」新年号のファッションアイコン特集で行った街頭調査で、2017年のアイコンの一人にも選ばれた。モデルや役者業でさまざまな服に袖を通すが、今のメンズファッションをどう思うか?
坂口:着崩せない時代だと思います。おしゃれがしたくて着崩そうとしているんだけど、情報が溢れすぎているからオリジナリティがどんどんなくなっていて、どう転んでも何かしらの型にはまってしまう。型にはまらないことの方が難しい。おしゃれって根本は、他の人と違うズレをまといたいってことじゃないですか。それが難しくなって、結局同じ感覚のままでいがちなのかも。だから何がカッコいいのかわかりづらくもありますよね。
WWD:情報過多の現代で、坂口健太郎は何を着る?
坂口:気持ちでいうと、遅刻しそうな起き抜けに、そのまま手にとって、着て、家を飛び出した時の格好ですね。ある意味そのコーディネートがぜんぜん合ってなくてもいいんです。ただ寝坊をきっかけに自分が選んだ感覚とテンションがいちばん大事でカッコいいと思っているんです。
WWD:偶然が必然だと。
坂口:時間をかけて何を着るか試しても、結局何が正解かわからなくなったりもする。それよりは、まず無意識に自分がパッと着た格好がいいんじゃないかなって。
WWD:3月末に金髪から黒髪短髪になった。7月期のTBSドラマ「ごめん、愛してる」、10月には映画「ナラタージュ」の公開が控える。役者としての展望は?
坂口:役者としてはまだ3年目ですが、キャラクターに個性がある大きな役を頂けるようにもなってきました。芝居の選択肢が増えたことはありがたいです。ただ自分としては大きな変化はなくて、僕が演じたお芝居を見るお客さんの目線が変わってきているのかなと思います。だから期待には必ず応えなきゃいけないし、自分の中にない人格を作って放出していく中で、演技に身を削られます。作品に長く関われる立場になって、作品を良くするために自分の責任が大きくなってきている。自分の中では変わらないと思ってはいたいけど、綱渡りで挑んでいる感じはありますね。
WWD:ノッていて楽しそうだ。ファッションを今年はどう楽しむ?
坂口:去年から良いムートンを買おうとずっと思っていたのに、まだ買えていません。年末に継続ですね。嬉しい買い物としては、今日着ているノーカラーのスエードジャケットをヨーロッパの古着屋で見つけたんです。女性モノで淡いペイズリー柄で、裏地のシルクも美しい。これがなんと数千円です。肩パッドだけゴツかったから、抜くカスタマイズもしました。色白で冬が似合うとよく言われますが、海パンもヨーロッパで買いこんだので、今年は夏も楽しみますよ!