メルカリは4月、小泉文明・取締役を社長兼最高執行責任者(COO)に任命した。山田進太郎・創業者兼前社長はグローバルでの事業拡大を目指し、会長兼最高経営責任者(CEO)に就く。フリマ市場の成長とともに事業を急拡大し、業界屈指の市場シェアを獲得した同社。ここ数週間はメディアに大きく取り上げられている現金出品騒動に対する迅速な対応も話題を呼んでいる。人事の意図から騒動に対する考え、今後の企業戦略まで小泉新社長を直撃した。
WWDジャパン(以下、WWD):現金出品など、ユーザー同士の問題が取りざたされている。プラットフォームとして対応に限界もあると思うが、騒動に対する根本的な立ち位置についてどう考えているか?
小泉文明・社長兼COO(以下、小泉):「メルカリ」では基本的には自由な出品を売りにしたいので、制限を設けすぎるのは良くありません。ユーザーとコミュニケーションをする企業でありたい。しかし、ユーザー保護という観点から、ユーザーが何らかのリスクに巻き込まれる可能性があるものは規制をかけなければいけません。一概に「危険なものは全部禁止」とルールを決めてしまうのは簡単ですが、できるだけそうはせず、ユーザーが売りたいと思うものに対してきちんと責務の範囲内で見届けていくことがわれわれの使命です。ユーザーの使い方を全ては予測できないので、現在も200〜300名でシステムを活用して監視等のカスタマーサポート体制を敷いています。自由な雰囲気を残しつつ、リスクが実在化する前にクイックに対応できるかが重要だと考えています。
WWD:EC市場の拡大によって物流企業が手一杯というEC業界全体の問題があるが、「メルカリ」への影響は?
小泉:今のところ、物流における影響はありません。「メルカリ」はネットだけでは完結しない、配送まで含めたサービスです。物が届かないことも「メルカリ」の責任になるのです。だからこそ、これまでもヤマトホールディングスと戦略的パートナーとしてさまざまな挑戦をしてきました。4月には大型配送に関する取り組みを始めましたが、ヤマトホールディングスにとってはこれまで引越しで貯蓄してきたノウハウを配送に活かせることもあり、ビジネスチャンスになると考えています。
WWD:物流業界が抱える問題に対して、解決の糸口はあるか?
小泉:EC市場は成長の一途なので、物流量を減らすことはできませんが、再配達を減らすことはできるはずです。店舗に受け取りボックスを置くといった施策もありますが、これは人的コストを設置コストに置き換えただけなので、あまり意味がないように感じます。再配達をいかに減らすかが、物流問題の一つの解決策になるだろうと思います。例えば、アプリの中で再配達の仕組みを作るなど、協力できる方法はいくらでもあります。
メルカリが成長できたワケ
WWD:ここまで成長できた要因は何か?
小泉:まずはスマホ普及の波に乗って使いやすいアプリを作ってきたということ。加えて、きちんとプロモーションを打ってきたことです。在庫を持つ小売業では、“いいものを用意すれば気づいてくれる”可能性もありますが、われわれは待っていても在庫が増えることはありません。知ってもらって、まずは1度使ってもらう必要があります。実際に使ってもらえれば、その使いやすさが奏功してユーザーが離脱しない上、口コミとなって相乗効果的にユーザーが増えました。
WWD:「メルカリ」とファッション小売市場の競合性についてはどのように考えるか。
小泉:プロパーで購入した洋服を売るだけではなく、売れる可能性があるから、気軽にプロパーで買うモチベーションにもなるのです。もちろん「メルカリ」で買ったブランドをいつかプロパーで買うようにもなるわけで、プロパー購入に向けた顧客の成長という側面もあります。最近はファストファッションの商品サイクルが早すぎてプロパーで買えない人も多いらしく、そういったユーザーにとってもニーズはあるので、うまく共存していけるのだと思っています。
WWD:意識している企業はあるか?
小泉:フリマ市場においてはフロントランナーなので、敵対視はしていません。世界レベルでいえば、検索エンジンを極めながらマップアプリやメール機能などを増やしてきたグーグルと考え方が似ているので、非常に尊敬しています。フリマ市場は“勝者総取り”の業界なので、今後はグローバルでシェアをとっていけるよう海外のベンチャー企業を意識しています。
メルカリが目指す企業像
WWD:新人事にはどういった意図があるか。
小泉:グローバルの成長を加速するために、山田(会長)がグローバルを統括し、私が国内ビジネスを統括するという新体制をとりました。日本・アメリカ・イギリスという3拠点に対してこれまでは全て日本からの発信だったが、今後は各国に権限移譲をして、意思決定のスピードを上げていきます。
WWD:小泉社長の経営方針とは?
小泉:すでに十分成長をしてこれたので、これまでの経営方針を大きく変える必要はありません。ただ、社内リソースが足りず後回しにしてきたサービスも多い。日本への再投資を強化し、これまでやれなかった部分を今後は十分に伸ばしていきたいと思っています。メルカリという社名だけに「メルカリ」しかやらないようなイメージがついていますが、いろいろな事業にチャレンジしていこうと思います。
WWD:子会社のソウゾウが書籍やCDに特化した新サービス「メルカリ カウル」をローンチした。
小泉:本とDVDなどは気付くと溜まっていくもの。まさにポテンシャルを秘めています。しかし、書籍の出品には撮影や値段・タイトルの記入など、単純な作業が必要で、これをバーコード読み込みによる一括入力にすることで、出品に対するハードルを一気に下げました。特定の技術的なニーズに対応できるのも、子会社を中心に新規事業を進めるメリットです。一方、洋服の出品にはスタイリングやディテールの説明など、自由度が高い方が出品しやすいですよね。ファッションは売り方を楽しむものでもあるので、スピンアウトをせずに「メルカリ」内で扱うのが最適だと思います。
WWD:メルカリという企業が目指すところは?
小泉:メルカリのミッションは“新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る”こと。具体的には海外でのシェア獲得と「メルカリ」のさらなる成長、子会社を中心とした新規サービスの模索が主軸になります。月間流通高100億円を突破しましたが、まだまだポテンシャルはあります。家で使われていないものや捨てるものはたくさんありますよね。自分は使っていないものでも、誰かにとっては価値があるかもしれない。多くの「捨てる」をなくせるように、アクティブユーザーの増加を短期的に実現します。