スナップマートは4月、インスタグラムで多くのフォロワーを抱えるインスタグラマーに広告ビジュアルなどを撮影してもらう人材サービス“ブツ撮り出張サービス”をスタートした。企業が公式に使用するビジュアル撮影をアマチュア女子がアイフォン片手に行う同ビジネスは、これまでなかった“CtoBサービス”としてリリース当初から大きな話題を呼んだ。そんなスナップマートを率いる江藤美帆・最高経営責任者(以下、江藤CEO)が5月8日に「素人の写真がプロの20倍以上の値段で売れる理由」と題したブログをコンテンツ共有サービス「ノート(note)」上に公開。「このサービスがすこぶる調子がいい」と発言した。
自身がブログに記した通り、「いくら人気のあるインスタグラマーとはいえ、プロカメラマンの商品撮影相場よりも高い値段で、本当に普通の主婦や学生に依頼がくるのだろうか?」という疑問を誰もが持っていたためか、ブログはデジタル業界を中心にまたたく間に拡散。ニューズピックス上で猪瀬直樹元東京都知事までが反応する事態となった。記事は11日時点で20万ページビューを超え、企業やメディアからの問い合わせも相次いだという。実際、ローンチ1カ月でサービスはどの程度順調なのか。江藤CEOを直撃した。
WWDジャパン(以下WWD):まず、“ブツ撮り出張サービス”とは?
江藤CEO:インスタグラムでフォロワー1万人以上のインスタグラマーが写真を撮ってくれるという単純なサービスです。プロではなく今ドキ女子のリアルな感覚で撮影した写真を企業が使うことで、コンバージョンが上がるのではないか、という狙いがあります。15〜20枚の写真を2時間程度で撮影します。費用は撮影費用や小物準備費・購入費・交通費・画像修正など全部合わせて9万8000円。インスタグラマーを指名すれば12万8000円と決して安くはありません。私も上手くいくか、半信半疑でした。
WWD:どのような経緯でサービス開始に至ったのか?
江藤CEO:私自身は外資系IT企業を経て広告会社オプトでSNS関連の運用コンサルをしてきました。当時、白背景で撮影した商品画像よりも若者が撮ったリアルな写真の方がコンバージョンがいいことに気づきました。インスタグラム上には一般人が撮影したリアルな写真がたくさんあるのに、商用にそういった写真がなかなか手に入らなかったんです。そこで2016年8月、写真素材サイトを運営するピクスタ(PIXTA)の100%子会社として自社を立ち上げて、まずはインスタグラムで撮影した写真を一般人が販売できる写真共有アプリ「スナップマート(SNAPMART)」を作りました。
WWD:「スナップマート」の仕組みは?
江藤CEO:100〜2000円の範囲で値付けした自身の写真を販売できる共有アプリです。フリマ感覚でインスタグラムに投稿する写真をついでに「スナップマート」にも投稿する。すると、知らない間に自分の写真が売れている。中には長期的に購入が続き、1人で10万円くらい売り上げた人もいます。そんな手軽さもあって、広告を打たずに2週間で3万ダウンロードを達成しました。はじめ1万枚程度の画像を自力で集めましたが、今では50万枚ほど写真も集まりました。購入するのは企業やブロガーで、ほとんど商用利用です。今回の“ブツ撮り出張サービス”はこの発展版として、企業が望む写真を注文できるようにしたサービス。「スナップマート」で写真のクオリティーが強く影響力のあるプレミアムユーザーに撮影を依頼する形でスタートしました。
WWD:仕事を依頼するインスタグラマーはどのくらいいるのか?
江藤CEO:プレミアムユーザーとして150人程度です。出張可否や得意分野などを把握し、企業からの依頼に対してインスタグラマーの提案をしています。インスタグラマーに対しては指名の有無や経験に応じて売り上げの一部マージンを支払う仕組みです。彼女らの得意分野が被らないようにスカウトすることも重要でした。現在、当社社員は7人ですが、全員が写真に関しては素人。だからこそ、一般的な目線でスカウトをしてこれたんだと思います。
WWD:好調だというが、どの程度問い合わせがあった?
江藤CEO:ローンチから5月上旬までに問い合わせが50件以上ありました。シンプルなサービスなのでクライアントとのやりとりもなく、すぐ申し込んでくださるので、人件費もかからなくてすむのです。
WWD:実際に進行している案件やその成果は?
江藤CEO:ローンチ後すぐにロボット掃除機“ルンバ”のメーカー、アイロボットジャパンのソーシャルアカウントを運営管理しているガイアックスさんからお問い合わせをいただきました。インスタグラマーにはゴールデンウイークに撮影をしてもらい、すでに納品をしました。このように非常にスピード感のあるスケジュールで進行できることもメリットです。また、本来こういった写真を撮影するにはプロップとなる小物も用意する必要があるのですが、インスタグラマーに依頼することでそういった費用も省けるんです。
WWD:なぜ、それほど好調なのか?
江藤CEO:企業が狙うターゲットに近いユーザーが撮影するからこそリアリティーがあって共感を呼べるんだと思います。写真はこれまで重い機材を担げる男中心の世界で、女子向けの商材を年の離れた男の人が撮影しているみたいなものでした。それから機材がコンパクトになって、カメラ女子が出てきて、インスタグラムの台頭で誰もが簡単に加工・発表できるようになったことで女性中心の写真文化が出来上がりました。今でも当社サービスで撮影した写真をプロに見せると「シズル感がないから使えない」なんて言われたり。でも、技術力とは違う観点のものが求められているんだと思います。
WWD:インスタグラムは外部リンクが貼れないなど閉鎖的で、これまであまりビジネスに結びつかないと考えられがちだったが?
江頭CEO:インスタグラマーの既存ビジネスは、企業がお金や商材を渡して投稿による拡散を依頼するものでした。でも、これではインスタグラマー本人にとってメリットがないんです。だったら彼女らの世界観に対してお金を払ってあげようと。当社では普段からPRをやっている人には仕事をお願いせず、フォロワーが少なくても世界観をきちんと築いているいわゆる“マイクロインフルエンサー”を優先的に選んでいます。われわれもオプションで投稿を依頼することはありますが、企業側もそれを望むのは全体の3分の1くらいです。
WWD:実際、SNSでの効果は分かりづらいはずだが?
江頭CEO:確かにSNSでの計りづらい。企業もSNS施策にお金を出し渋ってきた理由はそこにあります。しかも、インスタグラマーのフォロワー数はリーチ数とは異なり、効果が出るとは限らないことに企業も気付き始めています。一方のユーザーは投稿ビジネスが“ステマ”だということに対して嫌悪感を抱いています。でも、インスタグラムの集客力は無視できない。だから企業は自社でインスタグラムを開設するための素材が欲しいんだと思います。
WWD:時代として、プロでなくても仕事ができる時代になったということ?
江頭CEO:昔、フォトグラファーが自分で仕事を獲得するには誰かの弟子になるしかありませんでした。しかし、今発表の場があって直接仕事を獲得できる時代です。もはやプロなのかどうかは関係ありません。これは写真に限らず、文章に関しても同じです。今回自分の書いたブログがバズっていますが、嬉しいことにここから実際に問い合わせも来ています。
WWD:例えば、フリマアプリ「メルカリ」が好調な理由も“写真が下手だから嘘がつけない”ということが言われている。
江頭CEO:考え方は同じだと思います。他のオークションサイトではカタログ写真を多用していたりして、リアル感がない。「メルカリ」は若い人が出品しているということが視覚的にわかるし、実在感があるんです。ターゲットと同じ層の写真の方がコンバージョンは確実に高いと思います。
WWD:サービスについて、今後の構想は?
江頭CEO:“SNS専用クリエイティブ素材”という市場をとっていきたいです。SNSが大事とはいえ、まだ企業はマス広告ほど予算をかけていない。でも、海外みたいにSNSに本格的に予算をかける時代は近いと思います。また、今はシェアの場となっている「スナップマート」ですが、一部クローズドにすることでさらなるビジネスチャンスがあると思っています。
WWD:クローズドとは具体的にどういうこと?
江頭CEO:今も一部クローズドの写真があります。これは、ブランドロゴなど商標権が写っている写真は売ることができないからです。こういった写真はその商標権を持つ企業だけが買うことができるシステムになっています。例えば、飲料メーカーのドリンクなどはたくさん投稿されるのですが、基本的にはオープンに販売ができないんです。だから、たくさん集まった段階で商標元の企業に写真ストックを売り込むわけです。企業としても自社商材のリアルな写真を一気に獲得できると好評です。今後は企業と組んでフォトコンテストを開催するなど、意図的に写真を集める施策も増やしていきたいと思います。「スポーツシューズの写真を募集します」と公募して、その中から企業が使いたい写真を買い取るという仕組みです。インスタグラムのハッシュタグキャンペーンと同じような感覚ですね。