ファッション

ウールの名産地企業が生み出す、世界の手芸ファンに人気の“ノロヤーン”

 ウールの世界的な産地として知られる愛知県一宮市に、世界の手芸ファンから注目を集める企業がある。創業者の名前を取って野呂英作と名付けられた同企業の毛糸はコアなファンから“ノロヤーン”と呼ばれ、特に海外での人気が高い。売り上げの約7割を海外で販売している。野呂卓生・社長は「ユーザーをびっくりさせるのがメーカーの仕事。『面白く、楽しく、美しく』が弊社のテーマ」と話す。

 協力工場で染めてもらった原料(羊毛、獣毛等)は、ほぼ100%自社工場で紡績する。元の羊毛の長さや太さを生かして紡績することで、独特の太さの糸ができあがる。色も企画の段階で綿密に決め、創業者の現会長と社長を含めた5、6人のチームで新商品を開発し、新色を作っている。糸になる前の原料を先に染めるトップ染めという手法を用い、色をつけてから紡績するため、長いピッチで色が変わっていくのが特徴だ。人気は複数色をグラデーションした毛糸で、一つの毛糸玉の中で20色近い色を使用することもある。野呂社長は「他にはない、こだわったモノ作りをするのが当社のモットー。創業当時からその姿勢は変わらない」と話す。“他社にはない商品”の生産を支えるのは、会社の最大の強みでもあるという企画と生産の距離の近さだ。「既存の生産設備から製品を考え、原料を調達して、という一般的なプロセスとは異なり、当社はアイデアありきで製品を考える。幸い思いついたらすぐ試せる環境にあるので、毎日新しいチャレンジをしながら開発を進めている」。

 もともと手芸用の毛糸メーカーとして創業したが、イタリアのニットと織物の展示会「ピッティ・フィラーティ」への出展やメディアへの露出でアパレル向けの需要も高まり、ラグジュアリー・ブランドやアパレルメーカーへの販売も始めた。国内の営業を担当する小山雅子さんは「当社の糸の特色は色が独特で太さにばらつきがあること。アパレルメーカーも世代交代が進んでいて、若い人の中には糸からテキスタイルがパッと思い浮かばない人もいる。そういう場合は提案力のあるニッターが展示会で『こういう編み地はどうですか?』と提案すると、当社の難しい糸も受け入れられることがある」と話す。工業糸も企画は自社主導で行う。「純粋に素材屋としていいものを作ろうとこだわっている。膨大なストックはあるのでその中から似た糸を探すことはできるが、こういう商品を作ってほしいといったリクエストは基本的には受け付けていない」。トレンドも意識せず、ひたすら「他にないユニークなモノ作り」にこだわる。「同じブランドからのオーダーでも、5000キロの年もあれば45キロの年もある。チャレンジングなモノ作りができるのは、手芸糸をメーンにしているからこそ」と野呂社長。今後も目指すものは一つだ。「さらにびっくりするような“面白くて楽しくて美しい”商品開発に力を入れていく」。

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